変態は間に合ってます①
二つ目のレビューをいただいた記念に更新します!
(寒い……)
ここはとある廃墟の一室。サフィアはそこで猫の姿でカビ臭い檻に入れられ項垂れていた。
下を向くと硬い鉄製の首輪がくい込み息苦しくなるのですぐさま顔を上げた。
(心配してるだろうな)
ここにはいない夫の姿を思い、サフィアは自身の事よりもギルバートの心配をしていた。
(……暴れてなければいいけど)
むしろそれが心配だと、サフィアは溜息を零しつつこれまでの経緯を思い出した。
「猫を愛でる会? 」
「ああ。 なんでも猫愛好家たちの貴族が猫を連れて集まり、それぞれに連れて寄った猫を自慢し合う会だそうだ」
「へえー。 で、それがどうしたの? 」
「……その中の一人が街でサフィアを見かけて、ぜひその会に連れて行きたいから譲ってほしいと」
「うわぁ。 絶対イヤ」
「無論断った。だがそれなりに身分のある貴族からの話でな。 恐らく今後も同じ話を持って来るだろう」
「迷惑な……」
サフィアは呆れた声を出しながらギルバートの腕の中で身じろぎし、夫の顔を見つめた。
「私のせいで面倒な事になっちゃってごめんね」
「いや、これくらい何て事はない。 ただ相手が相手だからな。 簡単にサフィアを諦めるとは思えない」
ギルバートに直接頼みに来た使いの者が、ギルバートの見た目の怖さにも負けずしつこく食い下がったそうだ。
その雇い主である貴族に絶対の忠誠を誓っているのか、または雇い主の方が怖いのか。初対面の人物とは絶対目が合わないというギルバートの常識を覆してその使いの者は必死な様子で何とかサフィアを譲ってもらえないかとギルバートの顔を見ながら懇願してきたそうだ。
「あの様子ではまた明日も来るだろうな」
本当ならこんな厄介事を避けるためにさっさとこの街から出て行くべきだが、明日は受けた依頼を片付けに行かなければならないのでそれも出来ない。
「頼むから明日は外に出ないでくれ」
サフィアを抱き締める腕に力を込め、ギルバートは静かに言った。
それを宥める様に、サフィアはポンポンと優しくその腕を叩いた。
「分かった。 ギルバートが心置きなく依頼がこなせるように私はこの部屋から出ない。 だからギルバートも早く終わらせて、早く帰って来てね」
サフィアの行動を制限するギルバートに、嫌がるどころか逆に気を遣わせてしまった。しかも可愛いおねだり付き。
ギルバートはすぐ目の前にある魅惑的な唇に吸い寄せられるように口づけを落とすと、そのまま腰掛けていたベッドにサフィアを押し倒し二人の長い夜が始まった。
◇◇◇
「ぅん……」
まだまだ寝足りない眠気の中、サフィアは何故だか目を覚ました。
自身を抱き締める腕もなく、隣に人の気配もない事からギルバートは既に依頼に向かったのだろうと推測する。
またすぐ寝てしまいそうな眠気に反してサフィアはぼんやりと目を開けた。
そこは寝る前と同じ、昨夜脱いだ服が床に散らばりカーテン越しに日差しが部屋を照らしていた。
いつもと同じ風景だ。なのにこの違和感はなんだろう。
眠い目を擦り、サフィアはもそもそと起き上がって改めて部屋を見回した。
ギルバートと夫婦になってから、ギルバートは高級宿ばかり選ぶようになった。
サフィアとしては前に泊まっていたようなベッドだけの安宿でも構わなかったのだが、ギルバートがそれを許さなかった。曰く妻に快適な生活を送らせる事は夫の務めだと、真面目な顔してそう言っていたが早い話サフィアを甘やかしたいだけなのはお見通しだった。だからお金に余裕があるのならギルバートの好きにさせていた。
今回泊まったのもそんな高級宿の一室。
部屋が二間続きになっていて今寝ているベッドルームの隣にもう一部屋あるのだが、サフィアはそちらが気になってしょうがなかった。
(……もしかして誰かいる? )
だが毎回ギルバートが一人で依頼に行く際、サフィアが過ごす宿の部屋には強力な結界を張っていく。
ギルバートが魔力に物言わせて張った結界はちょっとやそっとでは破れないし、破ろうとすればその気配ぐらいはサフィアでも感じとれるはずなのだ。
そんな気配も感じさせず誰かが部屋に侵入して来たのだろうか。
だとしたら相当腕の立つ者だろう。
よく分からないがとにかく異常事態であると判断したサフィアはすぐに猫の姿になった。
猫の姿であれば隠れられる場所が増えるし、そもそもこんな所に侵入してくる者に猫など何の興味もないはずだ。
サフィアは軽やかにベッドから飛び降りるとカーテンの後ろにその身を隠した。
するとしばらくして音もさせずに二つの影が部屋に侵入してきた。
「さすが国宝級と言われる魔法具だな。 あれだけ強固な結界を瞬時に破るとは」
「たかだか猫一匹のためにそんな物まで持ち出す必要があるのかと思ったが、これがなければ部屋には入れなかったからな」
「……で、本当にここにいるのか? 」
「間違いない。 昨日黒狼はあの猫を連れてこの宿に入った。今日は朝から一人で出て行くのも確認した。 あの猫はこの部屋にいる」
(なっ……!! )
カーテンの後ろでサフィアはビクリと身体を震わせた。
「どこにもいないぞ」
「とにかく探せ。 猫は狭い所が好きなはずだ」
侵入者が乱暴に家具を退かして探している音がする。
(ま、まずい……)
まさか猫のサフィアを探しているとは思わなかった。
このままではいずれ見つかってしまうだろうが、今下手に動けば確実に見つかる。
どうしたらいいか分からずパニックになりながらも、サフィアは息を殺して隠れ続けた。そして……
「いたぞ! 」
カーテンが捲られ中からサフィアの姿が出てくると、男たちはすぐさまサフィアを捕まえようと手を伸ばしてきた。
「ニャアッ! 」
だが大人しく捕まるわけがない。
サフィアは無我夢中で男たちの腕をすり抜け隣の部屋めがけて走り出した。ーーが、次の瞬間男の手がサフィアの尻尾を掴み、その小さな身体を持ち上げた。
「フミャアッ! 」
めちゃくちゃ痛い。
ガッツリ身の部分を掴まれている上に尻尾に全体重がぶら下がっている。
(痛い痛い痛い痛いっ! )
あまりの痛さにサフィアは無意識に魔力を発動させ、尻尾を掴む腕に攻撃魔法を叩きつけてしまった。
「グッ……」
「なっ……魔法だと!? 」
攻撃魔法自体はそれほど威力のあるものではなく、男は尻尾を離すと痺れた手を確認しながらサフィアに視線を戻した。
だがその時にはサフィアは隣の部屋に駆け込み、外に出るドアを開けようと必死にドアノブに向かってジャンプをしていた。
(と、届かない……! )
とにかくこのドアを開けない事には逃げられない。
必死になってピョンピョンとジャンプするサフィアだが、それを大人しく見守る侵入者たちではない。
「まさか魔力持ちとはなあ! 」
「ミャッ! 」
男が飛び跳ねるサフィアの身体をがっちりとキャッチすると、もう一人の男がサフィアの首に巻かれているリボンを乱暴に取り、次いで鉄製の首輪を取り出し素早くサフィアの首に取り付けた。
首輪には何やら細かく文字が書いてあり、首輪が嵌った途端サフィアの中の魔力が身体の奥に押し込められる感覚に、魔力封じの首輪だと分かった。
「念のために持ってきて良かったな」
「ああ。 何せあの黒狼が連れてる猫だ。 ただの猫とは違うかと思ったが、その通りだったな」
首輪をつけられた事で魔法を使えなくなったサフィアは男に身体を鷲掴みにされながら必死にもがいていた。
(どこ触ってんのよ! この痴漢! 変態! 誘拐魔! )
心の中であらん限りの罵倒を浴びせるサフィアだったが、当然その言葉が男たちに届くはずもなく、
「あれだけ欲しがってた猫が、さらに希少な魔力持ちだったと分かればもっと金が取れるな」
「猫にあれほど金をかける情熱は理解出来ないが、俺たちにとっては上客だな」
「あそこまでいくと病気だと思うけどな」
男たちはサフィアを捕まえられた余裕から、笑いながら軽口を叩きあっている。
そして徐に麻袋を取り出すと、サフィアをその中に放り込みきつく口を縛った。
「ミャーッ! ミャーッ! 」
「ハッ。 無駄無駄。 魔法も使えないただの猫が出られるわけねぇよ」
「急いで撤収するぞ。 さすがに黒狼が戻って来たら俺たちじゃ手に負えん」
「悔しがる黒狼の姿を拝んでみたかったけどな」
「やめとけ。 殺されるだけだ」
「わーってるよ。 しっかし黒狼にしろ依頼主にしろ、こんな猫の何がいいのかね」
「それは俺たちの知るべき事じゃない。 俺たちはただ依頼された仕事をやり遂げるだけだ」
「ただの純粋な疑問だろ。 俺ならあんな大金払うくらいなら娼館で何人も女を買った方がいい」
こんな猫じゃなくてな。と、男は手に持った麻袋をブラブラと振り、サフィアは目が回る感覚に気持ち悪くなりながら「フミャーッ! 」と抗議の鳴き声をあげた。
「なかなかお転婆な猫だな。 これが人間だったらかなり俺好みなのに」
「無駄口を叩くのは終わりだ。 撤収」
「あ、おい、待てよっ」
男が走り出した事でさらに揺れが激しくなり、袋の中でサフィアはグッタリと目を閉じたのだった。
二つ目のレビューをいただきまして、またも調子に乗って番外編を更新します!
ただ予想外に長くなってしまいましたので短期連載にします。
全八話。今日から毎日更新です。
レビューを書いてくださった方から「猫サフィアが好き」と嬉しいお言葉もいただいたので今回は猫成分多めです。
遅くなりましたがレビュー有難うございました!
楽しんでいただけたら嬉しいです( *´ω`* )




