美人妻は美人猫
お久しぶりです。
猫と変態の補充にこちらの番外編をどうぞ。
人間の姿のサフィアはとても目立つ。これだけ綺麗なのだから当然だが、常に人から見られるのも疲れるし、かといってずっとフードを被っているのも邪魔でしょうがない。
さらにギルバートの体力について行けないこともあり、移動時のサフィアは猫の姿でギルバートの肩に乗っていることが多い。
「あっ、ギルバート、あっちに川がある」
この日もいつも通りギルバートの肩に乗って移動中のサフィア。人間よりも敏感な鼻で水の匂いを感じ、そこで休憩を提案する。
「ああ。いいな。ついでに昨日買った焼き菓子でも食うか」
「食べる!」
思わずピンっと耳と尻尾を立たせ、ついでにゴロゴロと喉を鳴らし隣にあるギルバートの顔にすり寄る。
「ぐふっ… 、では行くか」
サフィアの視界の端に赤い何かが見えた気がしたが、ギルバートが右手でサッと顔を擦ると何事もなかったように歩き出した。
「うーん!美味しい!」
川の水に口をつけて直接水を飲むサフィア。その横でギルバートも手で掬って飲み、皮袋に水を補充する。
「さあ、好きなだけ食べてくれ」
皮袋をしまい、次に取り出したのはサフィアが楽しみにしていた焼き菓子。いくつか種類があり、サフィアは目を輝かせ鼻をヒクヒクとさせ、まず甘い匂いを堪能した。
「あ~、いい匂い。どれから食べようかなあ…」
サフィアが一つずつ鼻先を近づけ迷っている姿を蕩けそうな顔で眺めるギルバート。だが次の瞬間、ハッと顔をあげ背後の木々の奥を睨みつけた。
「…どうしたの?」
急に変わった雰囲気にサフィアは眉をひそめてギルバートと同じ方向に目を向けると、ゾワゾワとした不快感で毛が逆立った。
「あの奥に魔獣がいる。今行って倒してくるから、サフィアはここで菓子を食べててくれ」
ギルバートは自分のマントを外すと洗浄魔法をかけ、その上に焼き菓子を置いて魔獣のいる方へ走って行ってしまった。
「……以外に律儀」
わざわざ洗浄魔法をマントにかけ、その上に菓子を置いて行く律儀さに笑いが零れた。粗野な冒険者にあるまじき紳士さだ。
そういえば王都の貴族ばっかり通ってる魔法学校に行ってたんだっけ。と思い出しながら視線を焼き菓子に戻す。食べて待っていろと言われたが、やはりギルバートと一緒に食べたい。サフィアはギルバートが戻ってくるまで食べずに待つことにした。
そうして目の前の川をぼんやりと眺めていると、何かが近づいてくる気配に振り返った。
「……猫?」
そこにはグレーの毛並みに知性を感じさせる青い瞳の猫が一匹。
(ずいぶんと魔力が高い猫ね……)
人間に魔力持ちがいるように、ごく稀に動物の中にも魔力持ちが生まれることがある。魔力を持って生まれた動物はみな知性が高く、契約精霊と同じように人間をパートナーとして一緒にいる者も多い。
この猫は見たところそういった相手はいなそうだが、何か用だろうかとサフィアは首を傾げる。
『ーーおい。お前も魔力持ちの猫だな』
頭の中に直接話し掛けられる感覚に、懐かしさを覚えサフィアも返事をする。
『何か用?』
『その首にまとわりついてる物は何だ』
『……守りの魔法がかかってるリボン』
なかなか高圧的な態度にサフィアはムッと顔をしかめる。
『人間と一緒か……まあいい。喜べ。お前に俺の子どもを産ませてやる』
『……………は?』
たっぷり三秒後、サフィアはなんとかそれだけ返した。
『だから俺の子どもを産ませてやる』
そこから始まった話にサフィアは驚愕した。
まずこの猫の名前はアル。魔力持ちの動物の中でもかなり力のある猫らしい。
だが魔力も高く知性も高いアルは人間と馴れ合うことを嫌がり一匹で生きてきたが、そろそろ子どもが欲しいと思うようになる。だがここで問題が起きた。
自分の子どもを産んでくれる相手が見つからなかったのだ。
魔力が高かったアルは当然相手にも魔力を求めた。この時点で相手探しに苦労するのが目に見えているが、それでもアルは諦めずに相手探しの旅に出る。
途中何匹か魔力持ちの猫を見つけるも、どの猫も気に入らずさらに旅は続いた。
そして水を求めて川に近づいたところでサフィアを見つけ、最初にその魔力の高さに驚いた。次いでサフィアをよく観察すると、サフィアから発せられているフェロモンに抗いようのない魅力を感じたのだと言う。
今までギルバートと一緒だったためサフィアも他の動物と触れ合う機会もなく知らなかったことだが、どうやら動物の世界では相手から出ているフェロモンにより美人度の高さを判別しているようだ。
そのフェロモンが魅力的であればあるほどモテる。
そして魔力が高い者はフェロモンと魔力が合わさり、さらに魅力的なフェロモンを放っているようなのだ。
つまり魔力が高いサフィアは猫界においても美人猫だった。
ーー何それ聞いてない!!
『お前もその魔力の高さでは相手探しに苦労しただろう。でも俺たちはこうして出会えた。さあ、まずは子どもを産む場所から探しに行こう。早くしなければ発情期がきてしまう』
『いやいやいや、待って。私あなたの子ども産むつもりないから』
『何故だ。俺以上に魔力の高い猫など見たことがないぞ』
『いやだから、私そもそも猫じゃ…』
「ーーサフィアっ!」
サフィアを呼ぶ声とブワッとぶつけられた背筋も凍るような殺気にアルは後方に飛び退きサフィアから距離を取った。逃げ出さずにその場に留まれたのはさすがとしか言いようがない。
「大丈夫かサフィア?」
ギルバートが駆けつけると急いでサフィアを抱き上げ怪我がないか全身チェックも忘れない。
サフィアはその間、先ほどまでの事を簡単に話すとギルバートの瞳が怒りで染まった。
「ふざけるなこの泥棒猫がっ!!」
アルを泥棒猫と呼び、凄い剣幕で怒るギルバート。
その迫力と、身体から黒いオーラみたいなものを発するギルバートにさすがのアルも一目散に逃げて行った。
「サフィアは俺の妻だ。俺以外との子など産むはずないだろう!そもそも俺以外サフィアに振れた奴は全員剣の錆にしてやる!」
怒りが収まらず、何だか凄いことを口走っているのも気付かないでギルバートはフーフーといきり立っていた。
サフィアはそんなギルバートを見てそっと伸びをしてギルバートの唇をペロッと舐めた。
途端ビクッと身体を強ばらせたギルバートから、しゅるしゅると怒りが抜けていった。
「私もギルバート以外の人の子ども産むつもりはないから安心して」
コテンと首を横に倒してサフィアはギルバートを見上げ、ギルバートが戻るのを待っていたから早く一緒にお菓子を食べようと誘った。
ギルバートは無言でサフィアをマントの上に降ろすとフラフラと鼻を押さえ川まで行きその川に顔を突っ込んだ。
「うええええ!?」
何だ。どうした。ご乱心か。
「すまん。取り乱した」
取り乱しすぎだ。
呆気に取られサフィアがポカンと口を開けていると、ギルバートは魔法で髪を乾かしボソボソと何か言いながら戻ってきた。
「…サフィアが俺以外の子どもを産むつもりがないとか…そんな可愛いこと言いながら小首かしげて上目遣いとか…もうここで襲ってもいいだろうか…いや猫相手ではさすがに入らないか…でも先端だけなら…」
不穏な台詞しか聞こえないが、既に焼き菓子に意識がいっていたサフィアにはその呟きは聞こえない。
「ほら、ギルバート早く!」
「早く!? それはもしかしてここでしてもいいと言う…」
「ギルバートはどれ食べる?」
「俺はサフィア以外食べる気はな…」
「私この紅茶の葉が入ったやつにするね」
「……ああ」
菓子の話か。とひどく残念そうにサフィアの隣に腰を下ろすギルバート。
でも幸せそうに菓子を頬張るサフィアを見て自分の胸が暖かくなり、ギルバートも幸せを感じた。
(でもいつかーー)
いつか孕ませてやるからな。と猫のサフィアを見下ろし、今は濃紺の毛に覆われている腹に目をやるとギルバートはニヤリと黒い笑みを浮かべたのだった。
今回こちらの番外編を更新した4時間後、4月1日0時にお月様にて『精霊ではありません。ただの猫です。R18版』を投稿します。
R18部分を含んだ全話まとめてドカッと載せます。
タイトルも作者名も同じですので気になる方はお手数ですが、お月様で検索をお願い致します。
ただし、たいしたエロは書けませんでしたので、ハードル低めにお読み下さいm(_ _)m
詳しくは3月24日の活動報告に書いてありますので気になる方はどうぞ|・ω・`)コッショリ
そしてこちらは宣伝なのですが、新しい連載を始めております。ぜひそちらも宜しくお願い致します。
タイトルは……
『異世界トリップしたので男装して事務員やります』
です。
ここから下は今回の番外編の別バージョンのオチです。
以前活動報告でどちらのオチが良いか聞いたところ、ヤンデレギルバートに票が入りましたので本文はそちらのオチにしました。
でも票をくださった方が、出来るなら両方読みたいとも書いてくださいましたので折角なのでもう一つのも載せておきます。
「でもいつかーー」から後の文のみ載せています。お馬鹿ギルバートバージョン。↓↓↓
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(でもいつかーー)
ギルバートは猫のサフィアとたくさんの子猫に囲まれる未来を思い描き、幸せすぎる光景と愛らしすぎる子猫たち(1ダース)にまた出そうになる鼻血を必死に堪えた。
残念ながらギルバートの完全な脳内妄想のため、サフィアから猫が生まれることはないと教えてくれる者は誰もいなかった。
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お好きな方のオチで終わらせて下さい( *´ω`* )




