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続・黒狼の噂

久しぶりに小説情報を見たら100万PV突破しておりました。皆様ありがとうございます!!

嬉しくて一本書き上がりましたので更新します。

 この世界の食事事情は前世と比べて遅れている。

 仕方がないことではあるが、精霊だった時と違い、人間になってからサフィアにはこれが地味に辛かった。

 お米が食べたい。醤油の味付けが食べたい。味噌汁が飲みたい。挙げたらきりがないが、とりあえず現在ある料理ももうひと工夫すればもっと美味しくなるのにと残念に思っていたサフィアはこの日、かねてより考えていた作戦を実行に移すことにした。


 (ギルバートが帰ってくるのは夜。それまでに材料を集めて…)


 現在ギルバートはとある依頼を受けているため不在だ。

 ギルバートにはなるべく外に出ないようにと言われているが、ちょっと行って戻ってくるくらい大丈夫だろうと高を括りサフィアは行動に出る。


 (美味しいご飯、食べてもらうんだから!)


 意気揚々と外へ出たサフィアだが、五分で後悔することになる。


 「さあ、今ならあの黒狼はいません!一緒に逃げましょう!」


 サフィアの容姿は目立つため、余計な騒ぎを起こさないためいつもはフードを被って外出するのだが、その時は前から来た人とすれ違いざまぶつかった拍子にフードが脱げてしまった。そしてそのぶつかった相手が以前ギルバートがサフィアを妻だと言った場にいた冒険者だそうだ。

 どうやら冒険者の間でサフィアは無理やり攫われ嫁にされた可哀想な人という位置にいるらしい。


 「あの、別に逃げる必要なんてないですから」


 「黒狼に怯えて一人では逃げられないんですね。大丈夫です、俺が一緒に逃げますから」


 ーー余計なお世話だこのやろう。


 何度説明してもサフィアは無理やりギルバートの傍に繋ぎ止められていると思い込んでいるようで、一緒に逃げようの一点張りだ。


 いい加減頭にきたサフィアの額に青筋が浮かんだ頃、後ろから全く別の声がかけられた。


 「んあ?あんた、ギルバートの嫁さんか?」


 サフィアの後ろには、ギルバートが駆け出し時代に世話になったというあの冒険者がいた。


 「あのときの…。あ、はい。ギルバートの妻のサフィアです」


 そういえばあの時きちんと名乗っただろうか。不安に思いながらサフィアは声をかけてくれた冒険者に挨拶をした。


 「ああ、やっぱりあん時の。こんな別嬪さん他じゃ見ねえからな」


 「……ありがとうございます」


 どう返していいのか困ったサフィアは曖昧に笑う。


 「ギルバートは一緒じゃないのか?」


 「それが……」


 「その黒狼から逃げなきゃいけないんです!!」


 「ああ?」


 そこで始めて気づいたとばかりにサフィアの隣にいる冒険者に目をやる。


 「てめえは確かCランクの…」


 「黒狼とは別行動のようなので、今がチャンスなんです!」


 「チャンス?」


 「早く逃げないと、またこの美しいお嬢さんが黒狼の魔の手に捕まってしまう。さぁ、行きましょう」


 そう言ってサフィアの腕を取りグイグイと引っ張る。


 「あっ、ちょっと、」


 サフィアは引っ張られないように踏ん張るが、明らかな力の差によりズルズルと引き摺られてしまう。

 それを止めたのはもう一人の冒険者。


 「おい、やめとけ」


 サフィアからは見えないが、その冒険者が睨みつけるとCランク冒険者はヒッと小さく息を呑みすぐにサフィアの手を離し、名残惜しそうに何度も振り返りながら去って行った。


 「大丈夫か?」


 「あ、ありがとうごさいました」


 掴まれた二の腕をさすりながら頭を下げると冒険者の男は首を振って答えた。


 「いや、災難だったな。だがギルバートはどうした?こんな綺麗な嫁さんを一人で歩かせるなんて」


 「ギルバートは依頼を受けてるところで…私だけ買い物に出てきたんです」


 「そうか…あ、おい!こっちだ!」


 そう言って冒険者が声をあげ呼ばれた男たちによってサフィアは囲まれた。


 「おいマット、誰だこの美人は!?」


 「美しい……」

 

 「…ハァ……」


 マットと呼ばれたサフィアを助けてくれた冒険者の他に三人。全部で四人のゴツイ冒険者に囲まれたサフィア。みんなサフィアを見てぼうっと惚けて誰なんだと聞いたり、ため息を零したりしている。


 「おい、近いぞ!お前らみたいなむさくるしい奴らに囲まれたら怯えちまうだろうが!」


 「なっ、お前だって人のこと言えないだろうが!」


 「 むさくるしい……」


 「…ハァ……」


 冒険者四人に囲まれたサフィアは、圧が半端ないな。と思いながらも、これくらいならギルバートで慣れてるので大人しくやり取りを見守っていた。


 「この前話したろ。あの黒狼の嫁さんだよ」


 「はあ!? この美人が嫁さん!?」


 「洗脳されてるんじゃ……」


 「…ハァ……」


 「冒険者の若造に絡まれてたんで追い払ってたとこだ。だからまだこっちの買い出しが終わってない」


 「いや、それは構わんが……この美人が黒狼の嫁さん…。詐欺だろ」


 「あ、あの、助けていただいてありがとうございました。それで、あの、私そろそろ買い物に行かないと…」


 「ああ、そう言ってたな」


 「お、おい、大丈夫か?一人で買い物って…」


 「…子どもじゃないので買い物ぐらい大丈夫ですよ」


 自分はいったい何歳ぐらいに見えているのだろう。


 「いや、そう言う意味じゃなくて、あんたみたいな美人が一人で買い物って大丈夫なのか?」


 「…フードを被って行くので平気ですよ」


 サフィアは再びフードを被り直し、囲みから抜けようと足を踏み出す。


 「ちょ、ちょっと待て。やっぱり心配だ。俺がついてってやる」


 「 へ?」


 「ああ、それがいいな。よしみんなで行こう。何を買うんだ?」


 「 え? え? 」


 サフィアは何が何だか分からないまま、聞かれるまま料理の材料と調味料が欲しいと答え冒険者たちと一緒に買い物をし、知り合いだという食堂の人に頼んで厨房を貸してもらえ料理までさせてもらえた。


 ーー何かよく分かんないけど、結果オーライ?







 「 サフィアっ!?」


 料理が終わり、冒険者たちや食堂の人たちにお礼を言い宿に戻ろうとしたサフィア。

 だがもういい時間になっており、それならギルドで待っていればもうすぐギルバートが報告に来るだろうから待っていればいい。と言われ、ギルドの受付の横のテーブルでここまで付き合ってくれた冒険者たちと一緒にお茶をしていた。

 この冒険者たちは四人でチームを組んでおり、次の依頼のために今日はそれぞれ買い出しに出ていたところなのだと言う。

 みんなAランクで渋味のあるオッサンチームだ。

 チームの中の一人、マットが昔ギルバートを世話したことでそれなりに縁があるようだ。


 そんな事を話しながら待っていると、依頼を終わらせ報告にやって来たギルバートが戻ってきた。

 ギルバートはギルドに入った瞬間、その目はサフィアを捉え、瞬間移動を疑う速さでサフィアの目の前に移動した。

 その速さと迫力にたじろぐサフィアだったが、すぐに笑顔でギルバートを出迎えた。


 「おかえりなさい」


 「サフィア、どうしたんだ?何かあったのか?まさかこいつらに何かされたんじゃ…」


 サフィアを席から立たせ抱き寄せ、物凄い眼光で冒険者たちを睨むギルバート。


 「おいおい、こっちはむしろ感謝されてもいいくらいだぜ」


 「そうだ。お前がいないから変な男に絡まれてて可哀想だったぞ」


 「変な男!?ぶ、無事かっ?」


 慌ててサフィアの全身を上から下まで確認する。そして何もないのを確かめると安堵の息を吐き、もう一度サフィアを抱き締めた。


 「良かった…」


 「えらい入れ込みようだな」


 「そりゃこんな美人な嫁さんなら仕方ないだろ」


 「あの黒狼がこんな骨抜きにされるとは」


 「羨ましい…」


 見るからに黒狼のベタ惚れ具合に周囲が呆れていると、今度はサフィアが優しくギルバートの背中をポンポンと叩いてなだめ始めた。


 「大丈夫だよ。すぐマットさんに助けてもらったし、その後も皆さんについててもらったから何もなかったよ」


 落ち着かせようとする声がどこまでも優しい。


 「サフィアに何かあったら生きていけない」


 「うん。それは私も同じだから」


 ギルドの真っ只中で甘い空気を撒き散らす二人にマット他三人の冒険者はもちろん、興味津々で集まっていた野次馬たちもすっかり当てられていた。


 「…なんだ、黒狼が無理やり攫ってきた嫁さんじゃなかったのか」


 「あれはどう見ても攫ってきたって感じじゃねえだろ」


 「でも黒狼でいいなら俺だって!」


 「やめとけ。奴が殺気飛ばしてきて息苦しいから」


 周りでざわめきが起きたことでサフィアが我に返り慌ててギルバートから離れる。ギルバートはそれを残念そうに見つめるが今度はサフィアの腰に腕を回してピッタリと寄り添った。


 「それで、どうしてサフィアがここに?」


 「あ、そうだった。これ作ったの」

 

 そう言って差し出したのは一抱えある布に包まれた何か。布を解いて見てみると、中には重ねられた木の箱が三つ。

 

 「 ? 何だ?これは」


 「ふふ。開けてみて」


 試しに一番上の箱の蓋を開けてみると、中にはぎっしりと料理が詰め込まれていた。


 「これは…」


 「お弁当。まあここではお弁当の文化は無いみたいだけど…」


 サフィアが作ったのは前世では慣れ親しんだお弁当。

 ただこちらの世界に弁当文化はなく、持ち運ぶ食事は携帯食か、良くてパンに肉だけを挟んだ粗末なサンドイッチといった程度のものだ。

 普通に一品二品料理を作る予定だったのだが、サフィアが作った料理を味見した食堂の人たちやマットたちみんなが美味いとベタ褒めしてくれたので、調子に乗ってあれもこれもと作ってしまい、それらをまとめたら弁当になってしまっただけだ。

 たくさん食べるギルバートのために木の箱三つ分に詰めた弁当箱はもはや重箱。


 「疲れて帰ってきたギルバートに出来ることってこれくらいしか思いつかなくて…」


 「…いや、嬉しい。宿に戻って早速食べよう」


 ギルバートは感動に目を輝かせ弁当を布でもう一度包み片手で持つと、反対の手でサフィアの肩を抱きギルドを出て行こうとする。

 

 「ま、待って。あの、今日はありがとうごさいました!」

 

 ここまで付き合ってくれた冒険者のみんなにちゃんとお礼をしないまま勝手に帰ることは出来ない。


 「俺たちも楽しませてもらったよ」


 「ああ。こんな美人の手料理が食えたしな」


 「また何かあったら頼ってこい」


 「飯、美味かった」


 お礼が言えたので今度こそ二人はギルドを後にした。

 残されたギルドにいた冒険者たちは…


 「あんな綺麗な嫁さんなうえに料理上手とか、喧嘩売ってんのか」


 「ならお前買ってこいよ。絶対返り討ちだぞ」


 「イチャイチャしやがって……爆発しろ!!」


 「何故だ!黒狼に嫁さんができて何故俺にできない!」


 本人たちがいなくなったことで一層ざわめきがうるさくなる中、マットたちの冒険者チームだけは静かに二人が出て行ったドアを見つめていた。


 「あいつがあんなに丸くなるとはな」


 自分以外は全て敵。常に禍々しい気配と痛々しい空気を纏っていたギルバート。いつも暗い顔をしていたそれが今では嫁を溺愛し、やに下がっただらしのない顔をしていた。

 だがそれでいい。幸せそうな姿を初めて見た冒険者の面々は我が事のように喜んだ。


 「あいつだってそろそろ幸せになったって罰は当たらんだろ」


 その日を境に黒狼に関する新たな噂が流れた。

 黒狼の嫁は無理やり攫ってきた嫁ではなく、自ら望んで黒狼の嫁になった奇特な美女であったと。

 自分が美しすぎて相手の男には正反対のものを求めたのではないかとも言われるようになり、僅かな希望を持つ冒険者もいたとかいなかったとか。



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[一言]  そこで始めて気づいたとばかりにサフィアの隣にいる冒険者に目をやる。 →初めて
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