酒は飲んでも飲まれるな
本日二回目の更新。
前話に本編最終話を更新しておりますのでお気をつけ下さい。
以前活動報告であげた小話です。
二話分を一話にまとめております。
まだギルバートがサフィアの正体を知らなかった頃の話。
「サフィア、寒くないか?」
「ミャウ」
今夜は街の外の森で野宿だ。
とある依頼を受けたが予定より時間が掛かってしまい、街まで戻れなかったのだ。
ギルバートは火をおこし、夕飯の準備に取り掛かる。
その間、サフィアは暗くなる辺りを見渡し、赤く染まる空を見た。
(空の色も、太陽も月も、みんな同じなのにな…)
前世の世界と比べ、似ているけどやはり違う世界にサフィアは感傷的な気分になっていた。
(あー…なんかこう、一杯やりたいな!)
しんみりしたときはお酒の力を借りてパーッと発散したい。
(この身体になってから飲んだこと無いけど)
ギルバートはたまに自分のお酒を取り出し一人で呑んでいるときがある。
さすがに猫のサフィアに勧めたことは無いが、一緒に呑めたらいいのにな。と零していた事がある。
もしかしたら。
一杯。いや、半分ぐらい飲ませてくれないだろうか。
チラリとギルバートを盗み見ると、タイミングのいい事にギルバートはお酒のビンを取り出しているところだった。
……ゴク。
ギルバートはサフィアに甘い。その事が自分でもよく分かってるいるサフィアはある作戦に出る。
「ミャアン」
サフィアはこれでもかと甘い声で鳴き、ギルバートにその身をすり寄せる。
「っ!ど、どうした?」
首がもげそうな勢いで振り返るギルバートにちょっと引きつつ、サフィアはなるべく可愛く。愛らしく。と心の中で唱え、ギルバートの胡座の上に乗る。
ぐふっ。と鼻を押さえるギルバートを見つつ、サフィアはターゲットをロックオン。
ギルバートの右手の先、お酒の入ったコップに狙いを定め、そうっと首を伸ばす。
……ペロ。
「サ、サフィア!?」
サフィアが酒をひと舐めしたのを見たギルバートは慌てて右手を高く上げ、サフィアから酒を遠ざける。
「だ、大丈夫か?」
猫は酒が飲めただろうか。ギルバートはすぐさまサフィアを左手ですくい上げ、目の前に持っていきサフィアの様子を窺う。
「ニャン!」
舌にピリピリとくる刺激。かなり強い酒とみた。サフィアがそう判断すると、さらにもうひと舐め欲しくなり、目の前のギルバートの鼻をペロっと舐めた。
(もうひと舐め、ちょうだい)
酒とサフィア。両手が塞がったギルバートは上を見て垂れてくる何かを堪える。
その隙にサフィアは右手に移動し、コップからペロペロと存分にお酒を楽しんだ。
その間ギルバートは何かもう、いろんな感情に揺さぶられ、空を見たまま固まっていた。
そんな二人のある日の出来事。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
サフィアは酒が好きなようだ。
以前野宿をした際、俺の酒を機嫌良く飲んでいたことがあった。
猫が酒を飲んでもいいものなのか分からなかったが、サフィアは始終機嫌良く尻尾を振り、ぺろぺろと酒を舐め続けていた。
愛らし過ぎるその姿に俺の視界が赤く染まった(物理的に)のは仕方が無いことだ。
今日も野宿だと決めたとき、俺の中で僅かな期待があった。
今夜もあの愛らしい姿が見られるだろうか。可愛らしく俺の鼻を舐めて催促してくれるだろうか。
そのために多少の犠牲も厭わない。俺の血などいくらでもくれてやる。
そう覚悟してサフィアと夕食をとった後、満を持して俺は酒瓶を取り出した。
サフィアはぴんっと耳と尻尾と立て、俺の手に注目した。
にやりと口角が上がるのを止められない。
俺はもったいぶって酒をコップに注ぐ。
「サフィア。飲むか?」
俺はサフィアの前にコップを持って行き聞いてみる。
サフィアは目をキラキラとさせ目の前のコップに顔を近づけた。
だが俺はサフィアの舌が酒に届く寸前でコップを取り上げた。
途端にサフィアの耳と尻尾が垂れるのがたまらなく可愛い。
にやにやとした笑いが止まらないまま、俺はコップを自分の顔の前に持ってくる。
「俺も飲みたいがコップはこれ一つだ。だから一緒に飲もう」
するとサフィアはまた耳と尻尾を立て、すぐさま俺の膝に飛び乗り顔をコップに近づけた。必然的にサフィアの顔と俺の顔が近づき、ひくひくと動くヒゲが俺の頬に触れくすぐったい。
サフィアがひと舐めし次に俺がひと口飲む。俺はコップを傾けサフィアが最後まで飲めるようにしてやると、最後のひと舐めをしたサフィアが満足そうに口の周りを舐める。そして空になったコップを見て残念そうに尻尾を垂らし、次いで俺の顔を見上げてきた。
至近距離での上目遣い。どうやら俺を出血死させたいようだ。
だがこの愛らしい姿から目を逸らす愚行はできるはずもなく、俺はあらん限りの力で鼻を押さえサフィアを見つめ返す。
するとサフィアは拭い残しの俺の口の端の酒をぺろぺろと舐め出した。
「 !! 」
もはや手で押さえるだけではこの血は止められない。
サフィアが満足して俺から離れた途端、俺の鼻は限界を迎え盛大に鼻血を吹いた。
次の日の朝、ふらつく身体で火の後始末をする俺。
体調はすこぶる悪いが気持ちはこれ以上ないほど晴れやかだった。
また飲もう。
次の街で必ず酒を購入することを心に決め、俺とサフィアは出発した。




