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 「サフィア……」


 表情を無くしたギルバートがサフィアを静かに見つめていた。


 「ギルバート」


 ただならぬ様子にサフィアは思わずギルバートの名を呼び傍に行こうとするが、それを許すロードラントではなかった。


 「離して」


 「駄目だ」


 「ねぇ…」


 「駄目だ。サフィアを泣かせるような者の元へは行かせん」


 ロードラントはサフィアの腰に回した手に力を込め挑発するようにギルバートを見た。


 「人間、サフィアを泣かせる者は誰であろうと我が許さん」


 「……泣かせる?」


 「そうだ。サフィアはここで一人で泣いていた」


 「一人で?」


 そこでやっとギルバートの顔に感情が戻る。

 ギルバートは心配そうにサフィアの顔を窺うが、ロードラントの腕の中にいることに気づきムッとした表情を覗かせる。


 「サフィアを離せ」


 「無理だ。そなたになら分かるだろう」


 そう言うとロードラントはサフィアの髪を掬いそっと口付けた。


 「これほど愛しい存在を手放せるものか」


 「貴様…!」


 「何故怒る?そなたは手放したのであろう」


 「俺が?」

 

 「サフィアはそなたと離れた方がいいと泣いていたのだぞ」


 「 !? 」


 「ちょっと、ロードラント……」


 「ならば我が手にしてもいいだろう」


 今度はサフィアの頭に口付けると、見せつけるようにその頭に頬を寄せた。


 「ロードラント、いい加減にして」


 サフィアは頬を寄せるロードラントの顔を退け、力を込めてロードラントの腕を掴んでその腕の中から抜け出す。その際取られたリボンをロードラントの手から取り返すのは忘れない。


 「私はあなたと行くなんて言ってないし、あなたのものになるとも言ってない。そもそも私は誰のものでもないわ」


 真っ直ぐにロードラントの顔を見据えてそれだけ告げると、サフィアはギルバートを振り返り足早に近づく。


 「大丈夫?病み上がりなのに無理してない?まだ寝てた方がいいんじゃない?」


 サフィアが傍に来たことに安堵したギルバートは思わずその肩を抱き寄せ髪に顔を埋めた。


 「サフィア……」


 「ごめんね。心配かけて」


 気持ちの整理がしたくてちょっと散歩に出ただけなのに。何故か事が大きくなっていることにサフィア自身が驚いている。


 「とりあえず一度戻ろ?」


 「……ああ」


 サフィアを抱き締めたまま離れる気配のないギルバートはそのままに、サフィアはロードラントに目を向けた。だが何と言っていいか分からず口を噤む。


 「サフィア。辛くなったらいつでも我のところへ来い」


 察したロードラントが悲しげに微笑み、炎と共に帰って行った。

 花畑にはサフィアとギルバートの二人だけが残された。


 ロードラントが姿を消すと、ギルバートが顔を上げサフィアの顔を覗き込む。


 「サフィア。俺から離れるとはどういうことだ?」


 「そ、それは……」


 サフィアを問い詰めるギルバートの声が低くなると同時に周囲の温度も下がった気がした。


 「俺の傍にいたいと言っていたのは嘘だったのか?俺と一緒に、俺の傍で世界を見たいと言ったのは?」


 「う、嘘じゃない!」


 「ならば何故俺から離れて行こうとする?」


 「そ、それは……」


 「それは?」


 「ギルバートが……」


 「俺が?」


 「ね、猫の私の方がいいって言ってたから!」



 からー からー らー ー ー ー



 花畑にサフィアの声が響き渡った。


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