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それからは穏やかな日が続いた。
話が出来るようになったサフィアはあそこへ行ってみたい。あれを食べてみたい。と多少の我儘を言えるようになったし、ギルバートはサフィアの願いを嬉々として叶えてやった。
たまにロードラントが突撃してきては、サフィアに何かをプレゼントして一言二言さらりと口説いて去って行く。
その度に般若と対面するまでが一連の流れだ。
そんなある日、ギルバートが熱を出した。
結構熱が高かったので医者に見せたかったが、この村には医者がいなかった。
「……大丈夫かな?」
宿のベッドに赤い顔をしながら横たわるギルバート。そんなギルバートをサフィアは人の姿で看病していた。
自身で水を出し、それを凍らせ氷嚢を作り脇の下に挟んで冷やしてやったり、汗を拭いてやったり、甲斐甲斐しく世話をした。
現在ギルバートの意識は無く、浅い呼吸を繰り返している。
この世界の医療は前世と比べ遅れている。ーー医療どころか全てにおいて遅れているのだがーーサフィアはこちらには無い前世の知識を活かし熱が出たときの対処を行っている。
「あとは……」
汗をたくさんかいているので水分を取らせたい。
でもただの水じゃなくてスポーツドリンクや経口補水液が望ましい。
(あれの作り方って……)
確か水と塩と砂糖があればできたはず。
それならギルバートの荷物にあった。
サフィアはギルバートの荷物から材料を取り出し昔見たドラマを思い出しながらなんとか作ることができた。
贅沢を言えばレモンなどを搾って飲みやすいように味を整えたいところだが無いものは仕方ない。
「ギルバート、飲める?」
サフィアはひと匙掬って口元に持っていくが、上手く飲めずに端から流れ落ちてしまう。
次にサフィアは鼻を摘んで口を開けさせ一口だけ飲ませたが、激しく咳き込み次からは飲んでくれなくなった。
これにはサフィアも困った。
熱で汗を沢山かいたときは脱水症状などにならないためにも水や塩は欠かせない。
残る手段は……
「ごめんね、ギルバート」
これは医療行為だから。
そう言い訳をしてサフィアは水を口に含むとギルバートの唇に重ねて水を移す。
こくりと喉が鳴ったのを確認し、もう一口飲ませる。
何度かそれを繰り返し、作った水は全部飲ませることができた。
「はあ、これで少しは安心…かな?」
最後に汗をかいた身体に洗浄魔法をかけ綺麗にしてやりサフィアの仕事が一段落した。
する事がなくなったサフィアはベッドの横の椅子に座ってギルバートの顔を眺める。
「……キス、しちゃったな」
転生してからは初めてのキス。
いや、あれは医療行為なのだからノーカンだろうか。
サフィアは自分の唇に触りながらギルバートの唇を見つめていた。
視線に熱がこもり過ぎていたのか、しばらくすると目蓋がピクッと動いて薄らと目が開いた。
「ギルバート?」
「……サフィア……?」
掠れてガラガラの声をしている。
「大丈夫?」
「サフィア……」
「喉乾いてない?お水飲む?」
「……ああ」
ギルバートが体を起こすのを手伝い、サフィアは水の入ったコップを渡してやる。
それをゆっくりと飲み干し、ギルバートは空のコップをじっと見つめる。
「……さっき」
「ん?」
「……さっき、俺に……」
何かを言いかけ、それきりコップを握りしめたまま黙り込むギルバートを心配したサフィアがギルバートの顔を覗き込もうと近づく。
ギルバートはサフィアが近づく気配にはっと顔を上げ、二人は間近で顔を合わせることになる。
するとーーー
「ギ、ギルバート!?」
ただでさえ赤い顔を湯気が出そうなほどさらに赤くし、ギルバートはベッドに背中から倒れ込んだ。




