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 ギルバートの手がサフィアに届くその瞬間、目の前の炎もギルバートの手も消えた。


 山の麓にいたときよりも更に濃厚な魔力を感じるこの場所は、火の上位精霊が誕生するという山の火口だった。


 「ちょっと!何で勝手に連れてくるのよ!」


 「だって誕生に間に合わなくなっちゃいますし、急がないとと思って」


 「だから、そもそも何で私が火の上位精霊の誕生に居合わせなきゃいけないのよ!」


 「そりゃだって水の上位精霊であるサフィアさんが生まれた瞬間に目の前にいたらあの人絶対喜びますよ!」


 本人は親指を立ててるつもりだろうが、犬の脚にそんな器用な真似が出来るはずもなく、実際はただ短い前脚を上げただけだった。




 各精霊がとる動物の姿はそれぞれ違う動物だ。実際の本物の動物とは全然別物なのだが、どうも気質はその動物と似る。


 火の精霊がとる動物の姿は犬。

 つまり、主従関係が当たり前。

 当然、主は精霊の頂点である上位精霊。他の火精霊の忠誠を一身に受ける存在だ。


 水の精霊たちは猫の性格とよく似て気まぐれな者が多く、わりと自由な気質をしている。

 だが火の精霊は脳筋な者が多く直情的で、主の喜びは自分の喜び!とばかりに主に尽くすのだ。

 今回のサフィア連れ去りも、その主のためなのだが全くサフィアの事情は考慮されていない。


 「こっちの迷惑も少しは考えなさいよ!」


 「えー、だって山の麓まで来てたじゃないっすかぁ。これはもう、あの人に会いに来たとしか思えないじゃないっすかぁ」


 「違う!……あ、いや、完全に違うことはないけど…やっぱり違う!」


 「どっちっすか」


 「だから!……」


 さらに言葉を重ねようとサフィアが何か言いかけると、辺りの魔力が火口の中心に集まり出した。


 「これは!!」


 「いよいよっすね!」


 「待ってました!」


 やんややんやとその場が騒がしくなる。


 しばらく眺めていると突如火柱が上がり、火の魔力を撒き散らし始めた。

 それもやがて収まり、火柱も消え、そこに残されたのは一つの影。

 影は魔力の塊そのもので、よく見るとキラキラとした輝きが見える。

 それはサフィアの目の前にゆっくりと移動してくると、パアっと中から外へ割れたように消えていった。

 中から出てきたのはワインレッドの毛並みに紫と赤のオッドアイをした大型犬。


 火の上位精霊誕生の瞬間であった。


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