23(ギルバート視点)
「サフィア!!」
思わず叫んで駆け寄り、サフィアの上に乗っているゴミを後ろに放り投げた。
サフィアを抱き上げどこにも異変が無いか確認すると、ホッと息をついて先ほど排除したゴミを振り返る。
「……貴様、サフィアに何をしていた」
返答次第では斬る。
「ちょっとギルバート、うちのクインツに何すんの」
ゴミを肩に乗せたジョエルが近づいて来る。いたのか。
「ちょ、おい、あいつに近づくなよ!」
「久しぶりだね、ギルバート。迷宮調査の依頼は君が片付けてくれたんだって?」
自分の精霊の言葉を無視してジョエルが俺の目の前まで来る。
「本来であればお前が受ける依頼だったはずだ」
「俺迷宮って嫌いなんだよね~。暗いしジメジメしてるしさ」
「お前がさっさと受けていれば新人の犠牲が減ったと、受付が嘆いていたぞ」
「ああ、スザンナには悪いことをしたな。このお詫びは後でたっぷりしないと。ーーーベッドの中で」
こいつはこういう奴だった。その派手な外見同様、私生活も派手だったな。
だが今はそんなことを言ってるときではない。
「そんな事はどうでもいい。早くその精霊を寄越せ。たたっ斬る」
そんな俺の台詞をジョエルは呆れた顔で聞いて肩をすくめる。
「何言ってるんだ。斬られると分かってて自分の大事な精霊を差し出す馬鹿がどこにいる」
「お前が最初の一人になればいい。いいからその精霊を寄越せ」
「やだね。だいたい何で君に渡さなきゃいけないんだ」
「その精霊はサフィアを押し倒していた。サフィアはまだ病み上がりなのに傷が開いたらどうしてくれる。そもそも俺の大事なサフィアに近寄る男はどんな存在であろうと許さん。後顧の憂いを無くすため、その精霊にはここで落とし前を着ける」
責任を取ると言ったのだ。ならば責任を持ってサフィアに近づく者は排除しなければならない。
…………。
「ーーーハッ!アッハッハッ!」
一瞬の沈黙の後、ジョエルは馬鹿みたいに笑い出した。
「う、噂には聞いてたけど、ほんとに精霊でも何でもないただの猫を一緒に連れてるんだ!しかも、そんなに大切そうに!」
「……それの何が悪い」
「君自分の見た目分かってる?殺人鬼みたいな顔してるくせに、そんな可愛らしい猫を肩に乗せてるなんて!視覚の暴力だよ!」
そんな事は言われなくても分かっている。サフィアが可愛らしいのは誰の目から見ても明らかだ。俺の様な男の傍にいるのが似合わないのも分かっている。だが手放せんのだ。
「お、おい、そいつはただの猫じゃな……」
横からゴミーーー精霊が口を挟んできたが、その視線をサフィアに合わせるとピタリと口を噤んだ。
サフィアもじっとクインツの姿を見ている。その様子に胸の奥からドス黒い何かが溢れてくるように感じた。
俺は堪らずサフィアの目を塞ぐ。
「…ミャウ」
「見るな。目が腐る」
「…ギルバート。君…」
ジョエルが何か言いかけたが、今は一刻も早くこの場を去らなければ。
「ここでの用は済んだ。もう戻るぞ」
足早にジョエルの隣を通り過ぎようとするが、サッと身を割り込ませ不敵に笑いながら俺の進路を妨害する。
「まあまあ。せっかく会ったんだから、この後一杯どうだい?」
「いらん。誘うならあの受付の女でも誘っていろ」
「それはまた今度。だってこんな面白いことになってる……急に変わった君の話を聞いてみたいからね」
顔は笑っているが、その目の奥は何かを探るように俺を見ている。
「お前に話すことなどない」
だが俺はそれを見ないフリしてその場を立ち去った。
宿に戻り俺はサフィアに一人で外を出歩いてはいけないと諭した。
今日の様に邪魔なゴミがついて取り返しがつかない事態になってからでは遅いのだ。
話しながら先ほどのサフィアが押し倒されている光景が浮かび、この夜空のような濃紺の毛並みにあの精霊が触れたとかと思うと腸が煮えくり返る思いがした。
よし。風呂に行こう。
そう決めると、俺はサフィアのシャンプーとトリートメントを取り出し風呂へ向かった。
風呂は嫌いなのか、ずいぶんと暴れていたが普段風呂に入る機会は少ない。この機会にあの精霊に触られたところは全て綺麗に洗ってしまわなければ。
サフィアの暴れる身体を片手で押さえ、俺は丹念にシャンプーとトリートメントをした。
全てが終わる頃にはぐったりとしていたサフィア。病み上がりに風呂はまずかっただろうか。
そんなサフィアには申し訳無いが、俺はサフィアに存分触れられ、且つあの精霊に触られたところを綺麗に出来、とても満足だ。
俺は穏やかな気持ちで力無く横たわるサフィアの背を撫で続けた。
あともう一回ギルバート視点続きます。




