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 (ごめんなさい!ごめんなさい!精霊になってちょっとテンション上がってやっちゃっただけなんです!悪気は無かったんです!まさかあれが世間様でそんなに問題になってるなんて知らなかったんですっ!)


 サフィアは顔を真っ青にして(濃紺の毛色で気付かれない)心の中で謝り倒していた。


 そう。問題を起こし未だに行方不明の上位精霊とは水の上位精霊。ーーつまりサフィアのことだ。


 (魔法なんて前世では無かったからちょっと使ってみたかっただけなの!どこまでやれるか限界に挑戦してみたかっただけなの!でもみんなドン引きして見てたから恥ずかしくなって他の人には黙っててねってお願いしただけなの!)


 何、箝口令って!そんな大袈裟にしないでよ!とサフィアはベッドに突っ伏した。


 まさかあの日の出来事がこれほど大事になっていようとは。


 (あの日の黒歴史が後ろから追い掛けてくる!)


 どうしてこうなった。サフィアが頭を抱えてウンウン唸っていると、その小さな頭をそっと撫でる手に包まれた。


 「どうした。まだ傷が痛むか?」


 その優しい声に、サフィアはこんなときなのにキュンと疼く胸を押さえた。


 (……優しくされると嬉しくて辛い)


 この気持ちには蓋をしなければ。

 報われない恋など辛いだけだ。


 サフィアは何でも無いとニャアと鳴き顔を上げた。

 ギルバートはそんなサフィアを一撫でし、口を開く。


 「出発は明日だ。不本意だが今回は同行者がいる。……先日顔を合わせた精霊とその契約者だ」


 そう聞き、サフィアの脳裏に精霊ーークインツとチャラ男の姿が浮かぶ。


 「あいつはああ見えてAランク冒険者でな。水精霊とも契約していて腕は確かだ」


 「ミャウ」


 「……今度こそお前に怪我などさせないからな」


 静かに。しかし確かな決意を込めてギルバートはサフィアを見つめて宣言する。

 それを聞いたサフィアもある決意を持ってギルバートを見つめ返した。


 (……私はもう足でまといになりたくない)


 精霊。しかも上位精霊であるサフィア。なのに前回の依頼で魔獣の攻撃をたった一撃受けただけで気絶。その後三日も起きなかったことが非常に悔しかった。


 本来であればあの程度の攻撃など問題無く対処出来た。ーー普通の精霊であれば。

 

 サフィアには前世の記憶がある。

 それも平和な国である日本人としての。

 それが精霊として持って生まれた資質より、人間だった記憶に身体が引き摺られることになる。


 サフィアは戦うことは知識として知っていても経験が無い。

 戦うことを知らない人間の記憶を持っているので咄嗟のときに思うように身体が動かなかった。

 もしあのとき防御魔法を使っていたら。

 他の精霊であれば普通に出来ることが普通に出来ない。


 そして前回の魔獣との戦い。前世と今世合わせても、生まれて初めてサフィアは他者から殺意を持って攻撃を受けることになった。

 そのことは思っていたよりも自身にショックを与えたようで、そのショックと怪我が合わさって三日も目覚めないという失態を犯してしまったのだ。


 悔しかった。こんな程度の攻撃で怪我を負ったことも。それによってギルバートにとても心配をかけてしまったことも。


 (この先、戦いに参加は出来なくても足を引っ張る様なことだけはしたくない。それに魔法面だったら何かお手伝い出来るかもしれないし)


 手伝いをした時点で自分の正体をバラすようなものだが、ギルバートの役に立てるならそれでも構わなかった。


 (ギルバートにあんな顔、もうさせない)


 ここ数日のギルバートの申し訳なさそうな顔を思い出し、サフィアはそう決意を固めるのだった。




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