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 (……あれ?)


 てっきりあの受付のお姉さんが想い人だと思っていたサフィアは首を捻った。


 「何言ってるんだ。斬られると分かってて自分の大事な精霊を差し出す馬鹿がどこにいる」


 「お前が最初の一人になればいい。いいからその精霊を寄越せ」


 「やだね。だいたい何で君に渡さなきゃいけないんだ」


 「その精霊はサフィアを押し倒していた。サフィアはまだ病み上がりなのに傷が開いたらどうしてくれる。そもそも俺の大事なサフィアに近寄る男はどんな存在であろうと許さん。後顧の憂いを無くすため、その精霊にはここで落とし前を着ける」


 潔いほどキッパリと言い切ったギルバート。いっそ気持ちがいい。


 (……わけあるかぁ!)


 何このガードの固さ。娘を持つ父親より厳しい。


 (「俺の大事なサフィア」って言われて喜んだらいいの?それともこの全体的な気持ち悪さに引けばいいの?)


 真剣な顔で精霊を寄越せと迫るギルバートを相手の男はポカンと呆気に取られて見返す。


 次の瞬間、


 「ーーーハッ!アッハッハッ!」


 腹を抱えて笑い出した。


 「う、噂には聞いてたけど、ほんとに精霊でも何でもないただの猫を一緒に連れてるんだ!しかも、そんなに大切そうに!」


 「……それの何が悪い」


 「君自分の見た目分かってる?殺人鬼みたいな顔してるくせに、そんな可愛らしい猫を肩に乗せてるなんて!視覚の暴力だよ!」


 笑いすぎて出てきた涙を拭いながら男は話す。

 だがそれを聞いた男の肩に乗っているクインツは、


 「お、おい、そいつはただの猫じゃな……」


 (やばっ)


 バラされる!と、サフィアは慌ててクインツの頭の中に話し掛ける。


 『ちょっと、今の私はただの猫!精霊だってバラさないで!』


 『はあ?何でそんな事してんだ?』


 『いや、それは…成り行きというか…』


 『意味分かんねえ』


 『いいから、とにかく私はただの猫なの!そのつもりで接して!』


 『まあそれは構わねえけど』


 絶対よ!とクインツを睨むように見つめていると、突然サフィアの視界が真っ暗になった。


 「…ミャウ」


 「見るな。目が腐る」


 サフィアと精霊が熱く見つめ合っていると勘違いしたギルバートが優しく、でも有無を言わさずサフィアの目を手で覆う。


 「…ギルバート。君…」


 「ここでの用は済んだ。もう戻るぞ」


 サフィアの目を塞いだままギルバートは足早に歩き出す。

 だがその進路を遮るようにクインツを肩に乗せた男も動く。


 「まあまあ。せっかく会ったんだから、この後一杯どうだい?」


 「いらん。誘うならあの受付の女でも誘っていろ」


 「それはまた今度。だってこんな面白いことになってる……急に変わった君の話を聞いてみたいからね」


 好奇心を全然隠せていない。


 「お前に話すことなどない」


 今度は引き止めるられることなくギルバートはその場を後にする。


 だからその後姿をニヤリと見送った男の呟きはギルバートには届かなかった。


 「…またすぐ顔を合わせることになるけどね」




 宿に戻るとギルバートに一人で外に出てはいけないと諭され、次にサフィアは風呂に連れて行かれ隅々まで磨き上げられた。

 散々抵抗し暴れたサフィアはグッタリと心身共に疲れた身体をベッドに横たえ、その日は休むことになる。


 (……うう、お嫁に行けない)


 そんなサフィアとは反対に、ギルバートは満足そうにサフィアの背中を撫でていた。



 

いつもの時間に投稿出来ず、すみません!

予約時間間違えてました(>人<;)



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