閑話
本日は閑話ですのでご注意ください。
まだサフィアとギルバートが出会った直後ぐらいの頃の話。
「こ、これはどうだ?」
そう言って差し出されたのは一本の指。
厳密には指の先にたっぷりとついている蜂蜜だ。
さあ舐めろ。すぐ舐めろ。と言わんばかりにグイグイと口元に指を持ってこられる。
(いっそ噛んでやろうか…!)
サフィアは一体どうしたらいいのか途方に暮れていた。
ギルバートと一緒に行くことが決まり、まずギルバートが取り掛かったのはサフィアの食事事情だ。
何を食べ何が食べられないのか。何が好きで何が嫌いか。
だが猫の生態など知るはずも無く、誰かに尋ねようにも訊く人物が思い当たらない。
ギルバートは、結局サフィア本人に訊くことにしたのだ。
そうして宿屋の一室には食料の山が出来た。
前世でも馴染みがある食材や初めて見る食材など、興味深く見ていたサフィアだったが……
(クッキー!)
思わず尻尾をピンと立て、全力で反応してしまった。
「ん?これはクッキーか。お前は甘いものが好きなのか?」
クッキーを一欠片、手の平に乗せる。
サフィアはクンクンと匂いを嗅ぎ、ギルバートの手の平ごとペロッと一舐めした。
「 !! 」
「 !! 」
その瞬間、サフィアとギルバートに雷が走った。
サフィアは前世ぶりのクッキーの甘さに。
ギルバートは自分の手の平を舐められた感触に。
(甘い!幸せ~)
前世を人間の女性として生きていたサフィアもご多分に漏れず甘い物が好きだ。
だがサフィアが最初に暮らしていた森の中で甘味など、せいぜい果物ぐらいしか無かった。
だからギルバートにクッキーを舐めさせてもらいサフィアはとても感激していた。
(やっぱり甘い物は正義よね!)
尻尾をゆらゆら揺らし、サフィアはうっとりとクッキーの甘さを味わった。
対してギルバートはピクリとも動かない。いや、動けないでいた。
サフィアが自分の手の平を舐めたこと。蕩けそうな顔でクッキーを味わっていること。もう何もかもがギルバートのハートを撃ち抜いた。
(落ち着け、落ち着け俺!そしてこの愛らしすぎる姿を網膜に焼き付けろ!)
一瞬たりとも見逃さん。とギラギラした目でサフィアを見つめるギルバート。
しばし膠着状態にあった二人だが、サフィアがクッキーを食べ出したことでギルバートの身体が大きく動いた。
不思議に思ったサフィアが顔を上げると、鼻を押さえているギルバート。
最近よく見る姿だな。とたいして気にせずまた食べ始める。
だがクッキーはあっという間に無くなり、サフィアは名残惜しそうに指先についていたクッキーのかすを一舐めして後ろに下がった。
そこで我に返ったギルバートは次に水飴の瓶に手を伸ばす。
「こ、これはどうだ?」
水飴を指で掬ってサフィアに差し出すギルバート。
これもすぐさま飛びつきペロペロと舐めるサフィア。
やがて全て舐めきり満足気に口の周りを舐めるサフィアを見て、ギルバートはさらに蜂蜜の瓶に手を伸ばした。
これにはサフィアもギョッとする。
(ちょ、ちょっとそんなに甘い物ばっかりいらないから!)
いくら好きでも限度がある。
さあ舐めろ。すぐ舐めろと、サフィアの口元へもってくる指を口を引き結んで拒否する。
しばらくグイグイと押し付けてられていたが、サフィアが口にしないと分かり離れていった。
「……蜂蜜は嫌いだったか?」
シュンとした様子にサフィアの方が悪いことをしている気分になる。
だがここで舐めたらまた次の甘い物を差し出されるに違いない。
何とかここで流れを止めなければ…!
そう決意するも、ギルバートを見るとその気持ちがシュルシュルと萎んでいってしまう。
(何この捨てられた犬みたいな感じ!)
見えない耳と尻尾が垂れている。
だが負けん!と意気込みギルバートを睨みつけるように見た。
(いっそ噛んでやろうか…!)
いやそれむしろご褒美や。
……。
………。
…………。
……………ペロッ。
あっさり負けたサフィアは覚悟を決めてギルバートの指を舐めた。
ギルバートはそんなサフィアに鼻を押さえ、自分の指先を舐める姿を網膜に焼き付け幸せなひと時を過ごした。
ーーーその夜、胸焼けを起こしたサフィアはギルバートに隠れてコッソリ回復魔法を使ったのだった。
せっかくのバレンタインなので本日は甘い話を!と思い閑話を更新しました。
本編甘く無いので、少しでも甘さ成分のある話をと思い書いてみましたが…。
ただの変態……気持ち悪い……残念なギルバートが出ただけでしたね(✽´ཫ`✽)
次からは本編に戻ります。




