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事件の説明回です。
後ろ脚が燃えるように熱い。
全身に汗をかいて気持ち悪い身体を誰かに優しく拭われる。
混濁した意識の中、時折誰かに名前を呼ばれた。
その声は聞いている方が泣いてしまいそうなほど悲痛な声をしている。
ああ、早く目覚めなきゃ。
あの人がこれ以上悲しまないようにーーー
眩しい朝の日差しにまぶたが震える。
たったそれだけのことに敏感に反応して動く、隣の気配にサフィアは鼻をヒクヒクさせた。
「サフィア?」
静かに。そっと囁くように呟かれる自分の名前。
「……みゅぅ」
「…!良かった!痛いところはないか?」
その声に導かれそっと目を開けると、目の前にはボサボサの髪に無精髭で顔を覆う厳つい男ーーー般若顔の山賊がいた。
「!!」
なかなかパンチの効いた寝起きに久しぶりに全身の毛が逆立つ。
「ああ、良かった。もう丸三日寝ていたから心配した」
「ミャ、ミャウ」
「喉は渇いていないか?ほら」
目の前に小さい容器が差し出され、サフィアは大人しく中の水を飲んだ。
今のように体力が落ちたときに水に触れるのは、水精霊であるサフィアには大事なことだ。
水の気がサフィアの身体を癒してくれる。
「お前の後ろ脚を魔獣の攻撃が貫通したんだ」
そこから話してもらったのはサフィアが気を失った後の話。
駆け出し冒険者たちを庇って倒れたサフィア。
それを見て攻撃を仕掛けた魔獣は怒り狂ったギルバートに瞬殺。ギルバートは倒れたサフィアにすぐさま回復魔法をかけた。
だがあまり回復魔法が得意ではないギルバートは、とりあえず傷を塞ぐも早く医者に診せなければと焦る。
そうして僅かに残った理性でサフィアが身を呈して守った駆け出し冒険者四人を再び引き摺り、サフィアを抱きかかえ出口へ走った。
途中何度か魔獣や魔物と遭遇するも全て魔法で薙ぎ払い、ギルバートとその後ろを必死に追い掛けていた三人組の冒険者たちは無事外に出ることが出来た。
そのまま鬼気迫る勢いで医者に駆け込むギルバート。
すわ魔物の襲撃か!?と勘違いして頭に鍋を被り、木の棒でギルバートに殴りかかってきた医者は悪くない。
後から追いついて一部始終を見ていた三人組冒険者たちは後にそう語ったという。
医者に動物は専門外だと言われるも無理やり診察させ、安静を言いつけられるとギルバートはサフィアと、ついでに今まで引き摺り倒していた冒険者四人を医者に預け迷宮に戻った。
本当はずっとサフィアについていたかったギルバートだが、デカいだけの男など邪魔だと医者に言われ追い出されたからだ。
そうして再び迷宮に戻ったギルバートはあっという間に原因を突き止める。
そもそもは、あの迷宮に妊娠中の魔獣が住み着いたのが全ての始まりだ。
魔獣が子どもを胎内で育てる際、胎児に多くの魔力を送らなければならない。
そして胎児に魔力を送るには、動かないことが一番効率がいいらしい。
そこで何処かから迷い込んだその魔獣はあの迷宮で胎児を育てることに決めた。
何故ならあの迷宮は自分よりも弱い魔獣しかおらず、駆け出し冒険者が頻繁にやってくる場所。
つまり自分の生活を脅かされず、簡単に餌となる獲物が向こうからやって来る場所であった。
しばらくは順調に育てることが出来た。
だがそれは、胎児の成長と共に膨れ上がる魔力に、迷宮外にいる魔獣たちを呼び寄せてしまう結果となる。
魔獣や魔物は高い魔力を自身に取り込み、より強い個体になるため魔力に惹きつけられる習性があるからだ。
普通妊娠中の魔獣は決して自分の縄張りから出ないものだが、この魔獣は縄張りを出て、結果どんどん厄介な相手を呼び寄せることになる。
サフィアに怪我を負わせたのも、そんな魔力を求めてやって来た魔獣だったようだ。
最深部にいた魔獣を発見し、そうと推理したギルバートはすぐさま問題の魔獣を屠る。
他の魔獣なども一掃して急いで迷宮を出ると、ギルドに報告を済ませ、呆気ないほど簡単に依頼を完了させた。
淡々と説明を終えたギルバートはそっとサフィアの後ろ脚に触れた。
そこには毛に埋もれて目立たないが、小さくはない傷が残っていた。
「俺がついていたのに……すまない」
今にも泣き出しそうな顔をしながらギルバートは呟く。
サフィアはギルバートの手をペロっと舐めて気にしていないと慰めた。
実際、精霊の力を使えばすぐ癒える程度の傷だ。
そんなサフィアをじっと見つめたギルバートは、やがて何かを決心したように顔を上げた。
「責任は俺が取る」
この男、真面目な顔して何言ってんだろう。
明日の更新は閑話を予定しております。
せっかくバレンタインなので何か書きたくて。
でもバレンタインは全く関係ない話。
甘い話。……になるといいな(´ε`;)
本編の続きを楽しみにされている読者様には大変申し訳ありませんm(_ _)m




