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 「なあ、あんたのランクってどれくらいなんだ?」


 ギルバートが四人組冒険者たちをズルズル引き摺り、その後ろを三人組冒険者たちが歩く。


 最初の殺伐とした空気も今では緩和され、雑談する余裕も出てきた。


 「……お前たちに言う必要は無い」


 「確かこういった迷宮の調査をするのは高ランクでないと無理じゃなかったか?」


 「最低でもBランクは必要よね。ただBランクで受ける場合はいくつかのチームと混合でなければいけないんじゃなかったかしら」


 「じゃあこのオッサンはBランクより上ーーAランクか」

 

 これだから新人は。と言うべきか。

 さすが新人だ。と言うべきか。

 怖いもの知らず感がハンパない。


 「でもいくらAランクって言ってもソロでやってる奴なんて多くないだろ」


 「そうねぇ。まずソロで有名な冒険者って言ったらSランクの『黒狼』かしら」


 「髪も服も全身真っ黒で、低ランクの頃からずっとソロの一匹狼でいたことから『黒狼』って言われてるんだよな」


 「凄いわよね。まだ二十代なのにSランクなんて」


 「あ、でも俺この前聞いたんだけど、最近『黒狼』に連れが出来たって」


 「連れ?一体どんな奴だよ」


 「それが人間じゃねーんだよ。確か契約精霊でも何でも無い、ただの猫だって……」


 そこまで話して三人はハッと何かに気付き、そろそろとギルバートを見た。

 厳密にはギルバートとその肩に乗っているサフィアを。


 痛い程の視線を受け、ギルバートは後ろも見ずに「俺だ」と静かに答えた。


 一瞬の沈黙の後ーーー


 「「「ええーーーっ!」」」


 三人の悲鳴が響き渡った。


 「お前らうるさいぞ」


 「いやいやいや、あんた……貴方があの『黒狼』なんですか!?」


 「……ああ」


 「す、すげー!」


 急に目を輝かせ始めた三人を、ギルバートは居心地悪そうに振り返る。


 「お前ら静かにしろ。この迷宮の異変はまだ解明出来ていないんだ。いつ魔獣や魔物が出てくるか分からん。気を抜くな」


 「あ、ああ。悪い。でもマジか。あの黒狼と一緒に迷宮にいるなんて!」


 「まあ間違ってはいないけど、私たち完全にお荷物よ」


 「うっ…、それはそうだけど」


 ……なんだ。自分は嫌われてるって話してたのに、以外に慕われてるじゃん。


 和やかムードに安心したそのときーーー


 サフィアはギルバートに鷲掴みにされ、そのまま肩から落ちないように押さえつけられギルバートと一緒にグルッと半回転した。

 同時にガキンッと鈍い金属音がして、ギルバートの身体が僅かにブレる。

 突然のことに目を白黒させていると、そのままギルバートが前に踏み込むのを感じた。


 グルグル変わる視界に慣れてくると、どうやら何かと戦っているのが分かった。


 「さ、さっきの!!」


 悲鳴に近い声が後ろから聞こえる。

 多分こいつが残りの一チームを襲っていたという魔物だろう。


 「しっかり掴まっていろ」


 だがギルバートは焦ることなくサフィアに指示を出すと、どんどん前に出て魔物に剣を斬りつける。

 サフィアは振り落とされないように必死にしがみつき、何が何だか分からない間にギルバートは止めを刺していた。


 「こんな魔物がこの迷宮にいるのはおかしい……」


 倒した魔物の前で難しい顔をしているギルバートに、後ろで戦いを見ていた三人組が拍手を送ってきた。


 「すげー!何であんな流れる様に剣が動かせるんだよ!」


 「それも凄いが、やっぱり簡単に懐に飛び込めた身体能力も凄い!」


 「さすがSランクね~」


 三人のギルバートを見る目がすっかり尊敬の眼差しに変わると、ギルバートの顔がより恐くなった。

 多分照れてるんだろうな。


 その後再び出口へ向かう一行だったが、歩き始めてすぐにギルバートが立ち止まり、周りを警戒し出した。

 途端に緊張が走り各々武器を構えていると、目の端に何かの影を捉えた。

 ギルバートがこちらに飛んでくる影を剣で弾くと、また続け様に何個も飛んできた。


 よくよく見ると、影にしか見えなかった何かは細い針のような物だった。

 いくつか三人組の方にも飛んでいってしまっているが、問題無く対処していて一安心だ。


 ホッとして三人組を眺めていると、一本だけ全然違う軌道を描いて飛んできた。

 それはギルバートがここまで引き摺ってきた四人組の男の子たちの手前に落ちた。


 ーーー駆け出し冒険者のフォローは先輩冒険者がするものーーー


 ならばギルバートをパートナーと思い一緒にいるサフィアにも同じことが言えるのではないか。

 そう思い付いたら深く考えるよりも先に身体が動いた。


 ギルバートの肩を飛び降り床に転がっている四人の前に身を躍らせた直後、衝撃が後ろ脚を襲う。


 そこから後のことは全てがスローモーションに見えた。


 「サフィアっっ!」


 遠くで私を呼ぶ声が聞こえる。


 大丈夫。精霊の私にはこんなの、なんてこと無いよ。


 安心させてあげたいのに声をが出ない。


 ああ、早く彼の側に行ってあげなきゃ。


 早くーー早くーー


 ギルバートが私に必死に手を伸ばす姿を最後に、私の意識はブツリと切れた。



 

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