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清涼飲料

作者: 榛名



 仕事が終わり、スマホを開くと直志から連絡が来ていた。「マミーにいる、終わったら来て」そうか、今日は十五日だ。連絡がなかったら忘れているところだった。

 会社を出ると風がごおと髪をさらった。寒波が来ているらしく、恐ろしく寒い。

 勤務先から私たちが住む遊園駅までは早くて四十分。私は少し遅くなると直志に送った。


 電車の中はそんなに混んでいなかったので私は本を読んで時間を潰した。

 やたらとヤドカリが出てくる、掴み所のない小説だった。翻弄されているうちに乗り換えの駅までやってきたのでホームに降り、向かいに来た急行に乗り換える。それからはすぐに遊園駅に着いた。小説は残りが三十ページにもかかわらず一向に尻尾を見せない。



 駅前には居酒屋、ファストフード店、パスタとピザの店、スーパー、カラオケ、レンタルCDショップが駅を中心にして並んでおり、店の前には飲み会帰りらしき若者が溜まっている。遊園駅は大学の最寄り駅なのでやはり学生が多い。かくいう私も何年か前は学生としてそこにいたのだ。居酒屋にはあまり縁がなかったが、CDは熱心に借りていた。


 そういえば直志と会ったのも駅前のレンタルCDショップだった。私は六枚で千円のセール時にしかCDを借りなかったのだが、借りるときにはいつも同じ店員だった。ポップからハードロック、メタル、ジャズ、アニソン、クラシック、気に入ったものは片っ端から借りていたので一貫性のない奴だと思われているだろうなとは思っていた。

「よく同じクラスの奴がレジしてるとこに持ってくるよね」

 そう初めて声をかけられたのは、私が『添い寝CD、童話朗読編』を借りている時だった。



 駅から五分も歩くとマミーはある。マミーはささやかなオレンジ色の照明で、いつもピアノのジャズが流れている典型的なバーだ。大学から反対方向の、しかも大通りから一本入ったところにあるので学生もまばらにしかいない。


 直志は窓際のいつもの席に座って、暗く寒い街頭と、暖かそうな光の灯った住宅街を眺めている。

 私が向かいの席に着くと直志は窓から目も離さずに「なに飲む」と聞いた。そんなの決まっているのに。

「モヒートお願いします」

 私はカウンターに向かって短く言ってから、直志のほうに居直った。

 そして子細に観察した。


 一体学生の頃と何が変わってしまったのだろう。年齢?生活?愛情?人生に対する情熱?

 逆に変わっていないものなどあるのだろうか。何か進展は、発展はあったか。

 いつから薄れてしまったのか。



 運ばれてきたモヒートに口をつける。ミントのすっとしたにおい。夕飯はとっていないけど、特別食欲も感じなかった。



 直志は依然として窓を見つめたままなので、私も観察を続けた。

 伸び始めのひげ、目の横の短いしわ、伸び放題の髪の毛。そして自分のことも考えてみる。

 直志に起こっていることは、私にも起こっているのだ。同じ時が流れて、同じような日々を送っているのだから。



 私はモヒートを大きく一口飲んだ。すっとする消化器官に反して気持ちは晴れない。



 来月の十五日にもまたマミーでモヒートを飲んでいるのだろう。

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