第3話 英雄商人の力(2)
第3話 英雄商人の力(2)
ライトは戦いのため場所を移動した。
「来たか。早く終わらせたい。さっさとやろうぜ」
「わかってる」
ふぅ。と一息つき、心を落ち着かせる。ライトは命をかけた戦いは初めてだ。
緊張どころの騒ぎじゃない。だが、さっきのスコールのひと言で、アイクに近づく決心、そして生き抜く決意をした。
「お前の魔力を俺はさっきみた。俺は不公平が嫌いでな、俺の魔力も見せてやる」
「ちっ!俺は相当舐められてるな」
と、小声で言う。
「俺の魔力は、ほらこれだ」
相手の盗賊は地面に手を当てる。すると握り拳のような形になり、盛り上がる。
「俺は砂の形を拳の形に変化させることができる。さぁ、これで平等だ。始めるぞ」
言った途端、ライトの足元の砂が拳となり、襲いかかる。
ライトは、それをギリギリで躱し、剣でその拳を斬る。拳は元の砂に戻る。
「なるほど、形が崩れると砂に戻るんだな」
「ほう。躱したか、いいね」
砂の拳が2つ正面から殴りかかってくる。そして、ライトの死角である、後ろから1つくる。
ライトは後ろからの攻撃に気づいており、しゃがむことで、全てを躱し、拳を斬る。
その瞬間またも足元から拳がくる。剣を振るスピードはそこまで早くできない。
とっさの判断で、拳の上にのる。そのまま上空にあげられると。乗っていた拳は砂に戻る。
「くそっ!」
足元が消えて、上空に放り投げ出された状態になる。地面からは無数の剣が飛んでくる。
「お前は戦闘経験が無さすぎる。魔力に頼りすぎたな、俺の魔力相手に上空に飛ぶなど、狙ってくれと言ってるようなもんだ」
ライトは剣に魔汝を込める。見えない剣線が拳を複数斬るが、全てを切れるほど剣の扱いができるわけではない。
受け身の体勢をとり、残りの拳の攻撃を受ける。
「ガハッ!!」
1発、横腹に入る。
地面に叩きつけられるように落ちる。はぁ、はぁと息を切らしながら、重い腕、足を動かし立ち上がる。
「まだやるか。諦めたらいいもの」
「はぁはぁ。……ふぅ」
息を整え、ライトは笑う。
「俺が諦めることがあるとすれば。それは死んだあとだけだ。俺が生きている間、俺は自分を諦めることは絶対にしない」
鋭い眼光で見つめ、笑うその姿は、獲物を狩る獣のそれに近い。
盗賊は寒気がし、身震いする。
「なら、し、死ねよ!くらえ、サーブル・チョーク」
ライトを囲むように砂の拳が多数出現する。上空にあがってから、上からライトを狙うものや、低い位置から狙うもの。四方八方から、ライトは狙われる。
だが、その状態が。ライトを突き動かす。
これだけの数魔力をかなり消費する。今の相手にこの剣が届けば、俺は勝てる。
ライトは、盗賊の方へ走りだす。砂の拳がライトに向け、右から、左から襲ってくる。ライトは軽く飛び右からの拳を躱し、左からの拳を剣で斬る。
後ろからの拳に気づく、剣を振るスピードは間に合わない。
(俺は剣は振る必要は無かったな)
ライトは魔力を解除し、剣を消す。そして、軽くなった腕を後ろに振る。その瞬間にまた魔力を発動し、剣を出現させ、後ろからの拳を斬る。
上からの拳は躱すしかない。だが、この程度なら、何とかなる。
しかし、そう簡単にはいかなかった。
これ以上拳を作る魔力は残っていないという予想が外れていた。足元から拳が突き出し、腹を殴られる。
歯を食いしばり、剣を振るが、後ろからの拳を受ける。
「くそ、あと少し。あと少しなのに……」
◇ ◇ ◇
『助けていただき、ありがとうございます!』
『おう、大丈夫だったか?』
『はい!あのお礼がしたいのですが』
『んなもんいらねぇよ。俺は英雄だからな』
『英雄。あの!俺にもなれるでしょうか!俺も、あなたみたいになりたい!』
幼き頃のライトは気合いを入れて、小刀を作り出す。
『お前が俺を目指すなら、またいつか会う日が来るだろう、その時は強いお前を見せてくれよ』
『名前は、なんて言いますか?』
『俺の名前か?アイクだ。アイク・クラフィンディツ。お前は?』
『ライトです』
『ライト、お前のその武器を創る魔力。いい魔力だ、大切にしろよ』
◇ ◇ ◇
(そう言えば。アイクさんにも、アイフェンさんと同じようなこと言われたな)
俺が今すべきことは。この力で駆け上がることだ。
ライトは剣を強く握り、体を捻りながら、周りの砂の拳4つを一気に切り落とす。
そして、盗賊についに届く距離。盗賊に向かって飛び上がり、剣を振るう。
盗賊の地面から拳が盾になるように、上空へ飛び上がる。
今までのとは違う。攻撃ではない防御の砂。この剣ですら斬れない。
「くそっ!くそ、くそくそ。くそがぁぁぁああああああああ!!!!!!!!」
魔汝の高揚を感じる。魔力が高まる。
今まで剣を創る魔力だと思っていた力は、その先の力を見せる。剣と同じミスリル色の手甲が出現ライトに纏う。
(なんだ、この力。腕の力が強くなる!)
両手で剣を掴み、一気に力をいっぱい押すと。今までのが嘘のように、砂の盾が砂と化す。
驚いた顔をする盗賊。だが、既にライトの剣が腹を突き立てていた。
「はぁはぁ」
ライトの魔力が消える。
息を整える。
ライトは拳を握り、ガッツポーズをする。
「よし!勝った!」
勝った余韻に浸るのも少しの間。すぐにライトはスコールの方へ振り向く。
「アイフェンさん!こっちは勝ちました!今行き……」
ライトは言葉が出なかった。
ライトが振り向き見た光景は、腹や腕を抑え、這いつくばったまま動けなくなっている盗賊達だ。しかも、全員が既にその状態になっている。
スコールはというと、荷台の上に乗り、横になったまま日向ぼっこをしている。
「ふぁー、あ。やっと終わったか。もう少し時間かかったら寝てたわ」
「え……え。一体これは?」
ライトが見たのは、スコールの周りに腹を抱えたり、腕を押さえたり、気絶している盗賊達。しかもスコールは、既に馬車を出す準備をしている。
ライトだって、かなりの時間をかけたわけじゃない。むしろ、魔力保持者の戦闘にしては、早く終わったくらいだ。
それなのにあの人数。しかも魔力保持者が数人いる中、魔力を持たない、少し特別な魔法道具を使う人間が敵うはずもない。もし敵う力があるとしても、短時間に敵を倒せるわけがない。
「うそだろ……。こんなことが」
驚きすぎて、呆然としているライト一瞬みて、馬車を出す準備を続けるスコール。
ライトは小走りにスコールの元へ行く。
「アイフェンさん。もう終わったんですか?」
「ああ。見ればわかるだろ」
「そうですけど。そんなすぐに、一体何をしたんですか?」
「俺の戦闘用魔法道具、No.8、格鉈ノ刀」
そう言うと、全長3メートルにもなるであろう、紅の線が一筋入った刀を取り出す。
「これは、触れた物質を刀の形に変化させて、相手に飛ばすことができる。まぁ、簡単に言うと複数の刀を同時に出せるようなもんだ。今回は砂を刀に変形させてぶっ斬った」
だからって、魔力保持者にそう簡単にいくかよ。と、ライトは思う。
「刀は1回で50個は作れるからな。相手も油断してたし、1発で終わった」
ライトも心は読まれた、と思っている。
「お前もしっかり、勝ったんだな。まぁ、勝てるとわかっていて1人で戦わせたんだけど」
「……!?え、勝てるとわかってたの?」
「どうせ、魔力強くなったんじゃないのか?」
「なんでわかったの?確かに剣だけじゃなくて、手甲まで魔力で出せたけど」
「忘れたのか?お前俺の魔力が向上する果実食べたろ。あれのおかげだ。あれが無かったら死んでたな」
「そうだったのか……」
ライトは自分が勝てた理由が、自身の力ではないのに、少し落ち込む。
だが、スコールはどうでもいいように、馬車に乗る。
「落ち込む暇ないぞ。出発する、早く乗れ」
「う、うん」
急かされ馬車に乗る。
するとすぐに、スコールは出発の合図を出し、馬車を動かさせた。
何か、スコールは急いでいるようだ。それをライトは感じ取っていた。
「アイフェンさん、何を急いでいるんですか?」
「お前と戦ったやつの魔力、あと俺の使った魔法道具だけど、2人とも砂を使って戦ったろ?」
「うん」
「この辺りには、地中に住み、砂を背中に同化させて、その砂を甲羅にする。砂漠タートルがいるんだよ。要するに、もしあそこの砂がその亀の背中だったら、背中に魔力をかけられた、ってことだ。そりゃあ、怒ってるだろ」
「でも、亀でしょ?」
「肉食で、さらには体長30メートルもある亀が、普通の亀だと思うか?」
は?ライトは心の中で思う。
「アイフェンさん!急いで!ここから逃げよう!」
「だから、今やってんだろ」
その時、地震が起きたように、地面が揺れる。海のように砂の波がうつ。
「やべぇ。くそ……」
すると、馬車の後方10メートルといったところから亀の顔が出てくる。そのまま体長30メートルの体がすべて出てくると、スコール達の乗ってる馬車を睨み、追いかけてきた。
「ちっ!盗賊の方へ行けよ。俺らの方を追いかけてくるなんてよ」
「やばいって!すぐ泳ぐの速すぎ!すぐ追いつかれるよ!!」
パグーとアグーも必死に走っている。が、体長が違いすぎる。砂を泳ぐのが速い。じわりじわりと追いついてくる。
ライトは背中に寒気を感じる。凄い冷たい汗をかく。だが、そんなことに構う暇もない。
亀は馬車を射程圏内と見たのか、大きな口を開ける。
ついに諦めたのか、ライトは亀の方に手を合わせて、神頼みをしている。
食べられる!!そう思い、覚悟を決めるライト。
「ちっ!パグー、アグー!とりあえず真っ直ぐ走っとけ!ライト!お前はしっかり馬車に掴まってろ!」
スコールは立ち上がり、後ろの荷台の上へ飛び乗る。
(こいつの前で使うつもりはなかったんだけどな……、まぁ死ぬよりマシだろ)
スコールは左手の手袋を外す。
スコールの左手の甲には、真ん中に丸く、その周りに4つの凧型の宝石のような物が埋め込められている。
「人体連結機導式魔法道具。[断罪者]発動!」
左手の宝石達が翠色に光ると、スコールの指先から、肩あたりまで、白銀の鎧のような物が纏う。鎧よりも龍のような鱗、龍のような鉤爪と言ったほうが合っているかもしれない。
「すまねぇな亀さん。怒らせてよ。お前は無罪だ、だから殺しはしない。眠っていてくれ」
スコールは左手を握る。そして、届いてもいない状態で、亀に向かって殴る。
「無罪ノ祝手」
白銀の拳から、魔力で出来た巨大な拳が出現し、亀の額を殴り飛ばす。
全長30メートルにもなる亀の体が少し浮き、そのまま気絶し、動かなくなった。
ライトはスコールの言った、英雄相手に商売するのに、弱くては務まらない、という言葉をまだ信用したわけじゃなかった。
だが、今この瞬間。ライトは知った。これが英雄達を支える力を。
そして、知ってしまった。自分の弱さを。