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第1話 英雄を支える者

 


 第1話 英雄を支える者





「よし。止まれ」


 砂嵐が吹き荒れる砂漠の中に馬車が1台。

 少年が馬に命令をし、オアシスの横に馬車を止める。

 この少年の名は、スコール・C《クラウン》・アイフェン。19歳、身長は178ぐらいだ

 黒いブーツに、裾がブーツに入っている黒の5ポケットデニム。白いシャツの上に黒のミリタリーブルゾンという服だ。砂漠にはまったく合ってない。そして、左手にのみ紺色の手袋をしている。

 この馬車の所有者である。馬車には、黒毛と白毛の2頭の馬がおり、2つの荷台が付いている馬車を引くのだろう。


 馬車を降りる。オアシスで水を補給する。


「ぷはぁ」


 オアシスの水で顔を洗う。ひんやりとした冷たさが、砂漠の暑さを忘れさせる。

 波打つ水に、真紅の瞳に灰銀色の髪である自分の顔が映る。

 やっぱ、この色の瞳は好きだな。まぁ、でも髪色は歳とってるみたいで嫌なんだけど。

 毎日思っていることをまたも思ってしまう。過去にあったある出来事で、瞳の色も髪の色も変わってしまった。


「よし」


 気合いを入れ直し、水を汲む。

 水が無くなれば砂漠では生きていけない。まぁ、多めに持ってきてるから大丈夫だとは思うが、オアシスがあるなら汲んでおいた方がいい。何が起こるかわからないからだ。


「アグー、パグー。お前らも休んどけ」

「「了解」」


 黒と白の馬に声をかける。

 黒い馬がアグー。白い馬がアグーだ。人間の言葉など、馬は理解できないがこいつらはできる。なぜならば、亜人族の1種で、厳密に言えば普通の馬ではない。

 亜種族は人間の言葉も当たり前のように話す。見た目が本物の馬なので、初めて見た人は驚くだろう。


「じゃあ休憩したらエレイズに出発するぞ」


 とりあえずここで、20分くらい休憩するつもりだが。エレイズに遅れるつもりは無い。仕事だけはしっかりやる。


「なぁ、スコール」

「なんだ?」

「荷台になにかいる」

「何か?」

「生き物だろうな。ここからじゃ見えなかったがら気配を感じた」

「この辺りだと砂漠ハイエナとかかな。めんどくさい。商品が食べられてないといいけど」


 軽くため息を付きながら、馬車の馭者(ぎょしゃ)が座るところから、ハンドガンを取り出す。

 自分のメインの商売道具でもある、この銃は魔法道具だ。どの生物でも体内を流れている魔汝(まな)と呼ばれるもの、を道具に流すと使用できる。ちなみに魔汝は魔力を発動する源でもある。


 ─ 魔力とは魔汝を使い、発動する力だ。例えば炎を出す魔力所持者がいるとする。魔汝は体内を流れる不可視のものであり、魔力に変換できる。

 魔汝は誰でもあるが、魔力はそうではない。炎を出すのが魔力ではなく、炎を創り出すのが魔力だ。つまり『魔汝を他の何かに変換する』ということだ。

 魔法道具はこのように魔汝を変化させる力がない者でも、魔汝を所持するこの世の生き物全員が使用できるように汎用性が高められた物。しかし魔力ほどの威力が出ないのが欠点だ。─


 ハンドガンを構える。

 そして、2つ並んでいる、前から2つ目の荷台の後ろへ周り、ハンドガンを向ける。


 そこには生き物も何もいない。


「あれ、何もいない。おい、パグー!誰もいないぞ!」

「そんなはず無い。確かに気配がする」


 1発上空に向けて、放つ。

 銃の音の大きさにびっくりしたのか、奥で少しガタッ、と音がした。

 何かいるな。

 そっと、音のした方へ近づく。

 すると。そこにいたのは、人間の男の子だ。

 髪の色は黄色。身長は低いな、165cmくらいだろうか。半袖、半ズボンといった砂漠に最悪の格好だ。


「お前は誰だ。人間だな、俺の商品でも奪いに来たか?」


 少年は何が起こっているかわからないように、口が開いたままになっている。しかし、銃口を向けられると、態度が一変する。


「違う違う違う!俺もよく覚えてないんだ。色々あって、いつの間にかここにいたんだ!」

「いつの間にか?」

「さっき、盗賊に襲われて、必死に逃げてきたんだ。きっとここで倒れたんだ」


 ここで倒れるとか、普通ありえるか?

 まぁ、砂漠はこの暑さだ。日陰を求めここで寝てしまった。もしくは、商品を盗みに来たか、どっちかだろうな。

 でも荷物も何も待たずにここにいる。ほんとうに前者なのかもしれないな。


「まぁいい。それを本当だとする。じゃあお前の手に持っている物はなんだ?」


 少年が手にしているのは、自分達の商品であり、食料である、赤い果実だ。


「その。自分は、盗賊に色んな物が盗まれて、お腹空いて、喉乾いて。つい」


「……ついじゃねぇよ!!!!」

「すみません!!」

「俺の商品に何しやがる!それは獣人の大陸のホームの中でも、秘境でしか取れないんだぞ!」


 そうだ、その果実の入手にはかなりの苦労をした。[魔汝の一時的向上の恩恵]を食べただけで受けられる、希少な物だ。

 自分の職業は普通の商人ではない。だから危険を犯してせっかく取ってきたのに。


「50万ゼラ」


 ─ ゼラとはこの世界でのお金の単位。1ゼラ=1円くらいだ。─


「え?」

「その商品1つの値段」

「は!?こんな小さいのがそんなにするわけないだろ!」


 じっと、果実の入ってた箱の中を見る。

 見ただけで商品の数がわかるこの力が役立つのは、初めてだな。


「7個か……お前が食べたのは。合計350万ゼラだな」

「そんな大金払えない。それにそんなに高いものか?」

「お前、魔汝が増えたり、強くなったりするのを感じないか?」


 少年は目を閉じる。そして何かを感じ取る。


「……確かに、魔汝が増えている」

「その果実は魔汝を一時的にだが強化する。お前もいい歳だろ、その価値がどれ位のもかわかるよな?」


 魔汝を強くするとは、魔力を強くするということ。この世界の最も使われている軍事である魔力が強化できる。

 要するに。この果実があれば、軍事力を強く出来る。隣国との戦争にも勝てる。だから国が欲しがるほどの物だ。

 人間、魔汝のことは成長するにつれて学んでいく。15歳にもなれば魔汝のことについては、ほとんど学んだも当然だ。この価値はこの少年にもわかるだろう。


「これの価値はわかった。けど、そんな大金俺は持ってない……」

「そうだな」


 この商会で働かされる。そう少年は思った。

 だが、結果はまったく別のものだった。


「命。は取りすぎか、腕1本でいいよ」

「腕1本をどうすれば?」

「切断して、俺の実験材料に使う。俺はこの仕事に誇りを持っている。だから商品を色んな物で試すんだよ、人間の体なんてあれば最高の実験台だ」

「待って待って!それだけは嫌だ!」

「なんでだ?」

「俺はエルサリム王国へ行き、そこで王国騎士になりたい、だから戦う為の腕は……」


 エルサリムか。俺が俺の目的地の1つだな。

 アイツがいる所か。


「アイクに憧れてとかか?」

「……!!!!そうです!知り合いですか?」


 アイクとは、アイク・クラフィンディツ。魔神を倒した英雄の1人だ。

 今はエルサリム王国で、王国騎士、第2師団団長として、働いているらしい。


「俺の仕事はただの商人でないからな。この商品を見ればわかるが、俺は英雄商人をしている」

「英雄商人?」

「この世界を支える英雄を中心に、力のある者だけを対象にした商人だ。だから英雄達にも希に会う。エルサリムも時期に行くつもりだ」


 少年は態度を急に変え、土下座をし始めた。


「お願いします!俺を生かしたまま、エルサリム王国へ連れて行ってください!」

「俺へのメリットがない。断る」

「ここで精一杯働くので!!」


 エルサリム王国にまでどんだけ働いても、せいぜい10万ゼラしか稼げないよな。

 働くだけじゃあ、何の意味もないな。


「どうせ俺といればアイクに会えるとか思ってたりするんだろ?働く前に金返せ」

「アイクさんとは実力で会います!それが、アイクさんとの約束です」

「……。ふむ。」


 真っ直ぐと、信念を持った瞳で見つめてくる。

 なるほど、それは嘘じゃなさそうだな。


「まぁいいだろう、馬の世話に朝晩2回の清掃、給料なし。食料自分で取ってくること。この条件を飲むなら連れて行ってやる」

「お願いします!!」


 銃をポケットにしまい、荷台の奥へ行く。長袖長ズボンのゆったりとした服を取り出し、少年に投げる。


「砂漠は長袖長ズボン必須だ。暑さよりも乾燥のほうが怖い。早く着ろ、別に死んで実験台にされたいなら着なくていいが」


 そう言うと、急いで少年は服を着る。


「あの。ありがとうこざいます」


 荷台から降りる。


「パグー、アグー。そろそろ行くぞ」

「あいよ」


 お前もこっちに来い。少年を手招きする。

 そして、馭者の乗る場所に2人で座る。


「俺はアイフェン。お前は?」

「ライト・イグニア」

「ライト、まずはエレイズに向かう」

「うん」

「しっかり働けよ」


 イグニアか……珍しい名前だよな。

 くそ。はぁ、俺がこんなことをするなんてな。


 ◇ ◇


『おい、そんなやつ連れて行っても足でまといだろ』

『スコール、旅は道連れって言うだろ?それに人生誰に助けられるか、何が起こるかわからない。いつかこいつも役に立つ。お前も助けられる日が来るさ』


 ◇ ◇


 ……嫌なもん……思い出したな。

 まぁいいか。どうせライトとはすぐに別れるだろうからな。旅は道連れだ、1回くらい珍しいことしてもバチは当たらんだろ。



 だが、この出逢いが、2人の運命を変え。世界を変えることになる。

 2人はまだ知る由もない。

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