三話
この物語、実は思いついたのが小学四年生なんです。原作は社会のノートの落書き
「おかしい・・・これはおかしいでしょ・・・」
人狼は改めて辺りを確認する、やはり誰もいない。作戦ではもう全員が所定の場所である屋敷の広場に集合する手はずである。それがどうだろう、自分以外だれもいないのだ。可能性としてはまだ戦闘が続いているのだろうか、なら自分はいずれかの方へ加勢に行くべきだ。
「よし・・・」
様々な事を考えた結果加勢に行くなら手勢が少ないオシドリ達に加勢に行く事にした。
「え・・・?」
突然走った鋭いモノに貫かれた感触にヘラジカはいまいち状況を理解できていない風な声を漏らした。確かに自分の背中には短刀が突き刺さっている、それも味方に刺されている。
「貴様・・・! オシドリ・・!」
完璧に状況を理解したヘラジカはオシドリを睨みつける、部下たちも頭領の危機を察し臨戦態勢に入る。
「オシドリ貴様ァ! 頭領を―――」
「やれ」
「が・・・!」
オシドリが左手で何かの合図をしたかと思うと何処からともなく弓矢が射られてヘラジカの部下に命中する。どうやら全滅したはずのオシドリの配下はどこぞに潜んでいたらしい。
「全く無知な連中は騙しやすい」
一気につきたてた短刀を抜きヘラジカを蹴飛ばす、血を払いながら部下を呼び寄せる。
「ふぅーヘラジカ君、君たちと人狼君が護衛を蹴散らしてくれたおかげで我等は金をたんまり頂ける。協力御苦労・・・」
「オシドリィ・・・貴様・・・!」
ヘラジカは多勢に無勢は承知で戦おうとしたが全身が痺れて立ちあがれない、案の定短刀には毒が塗られたいたらしい。少しずつ意識が薄くなってゆく、どうやら此処までらしい。
「さぁて、ヘラジカは始末完了。後は人狼の坊やだな」
「やっぱ殺すんですか?」
部下の問いかけにオシドリは答える。
「いや、殺すなら我等の軍門に下る提案を拒否された場合だ」
長年抗争相手だったヘラジカは仲間にはならないだろうから始末した、だが人狼は始末するには惜しい人材と考えている。人狼が味方になれば大きな戦力になる、この考えは何もオシドリだけでは無かった、恐らくヘラジカも考えていただろうし、この辺りの山賊は少なからず考えている事だろう。今自分は最も有利な立場にいる事をオシドリは実感していた。
「とにかく、ヘラジカは護衛にやられた事にして人狼と合流だ、行くぞ」
「おい」
「ん?」
突然の呼びかけに振りむいたオシドリ一向の目線の先に居たのは―――
「おぉっ人狼屋」
「オシドリさん、あんた・・・」
暗闇の中に突っ立っていたのは覆面を外した人狼だった。目が死んでいた。
「もしかしてアンタ達最初っからそんな算段で・・・」
「え、あぁアレか。まぁそのようなところだな」
オシドリは開き直って人狼に応えた。反省も後悔もしていない。むしろ平常どおりの調子で問いかける。
「裏切りは始めてか? 人狼屋あんた、これからもこの稼業で食っていくつもりなら覚えとけ? 大事だぜ」
命のやり取りが日常茶飯事の山賊稼業において正論がオシドリであるのは紛れもない事実だった。
「だとしても、他にやり方があったんじゃ・・・」
「いやいや、我等は長年の抗争相手であるヘラジカを始末して、人狼という大きな戦力をゲット、最終的にはお宝を頂いてめでたしめでたしってな」
「そんなやり方で手に入れた物に価値なんて無い!」
「阿呆、俺だって何度もヘラジカには煮え湯を飲まされている、だまし討ちだってざらだ。他人を我等は裏切る、だから我等も他人にも裏切られる。そんだけだプラスマイナスゼロではないか」
「っ・・・!」
不覚にも言い返す言葉が見当たらなかった、今までたった一人孤独に稼いできた人狼にとって裏切りや謀略というものが如何に無縁だったか如実に表していた。自分は生きる為に他人を傷つけ、殺して来た、その考えと心の中の何処かで『だから自分は間違っていない』と思い込もうとしていたのに気付いた、オシドリ程の覚悟があればこんな葛藤は無かったのかと自分が不甲斐なく思えてきた。
「言いたい事はアレだ人狼屋、我等と組んで稼がんか? 今の稼ぎの倍は出るぞ?」
「ふざけるな・・・」
「・・・おいおい坊主、あまり大人を困らせるな。もう一度聞くぞ? 我等と組まんか?」
「断る!」
オシドリの背後に構える部下が武器に手を掛けた、まさか助けに来た相手と殺し合うなんて考えもしなかった人狼だった。相手は十五から二十人はいる、少し疲れる、といったところか、と考える人狼も先ほどと同じ逆袈裟の構えをとった。その瞬間だ。屋敷の炎がなにか火薬にでも引火したのだろう大きな轟音と共に火の子を吐き散らし人狼たちがいる森も日の手に包まれた。
「ちっ、喋りが過ぎたか・・・。あれじゃあ宝も燃えるだろ・・・」
「頭領! アレは!」
「ん? うお!?」
何時の間にか、言うまでもなく話しこんでいる間にだろう。下っ端の指さす方向にはこちらに突撃して来る帝国警備隊の姿があった。その人数はこちらの倍はいるだろう。もう話し合いも糞もないと判断したオシドリは―――
「撤退だ! 警備隊まで相手してらん!」
その場の全員が武器を収め真っ先に走り出す、人狼は目立っては命取りとオシドリ達とは分かれて走る。かくして同盟はあちこちに散り計画も失敗に終わった。人狼は一心不乱に逃げ回る、恐らく警備隊はアレが全員ではないだろう他にも配置されていると踏んだ通りあちこちから集合した隊員から追い回される。途中何度か交戦して傷を負いながらも走りぬいて何とか追ってを巻いた。たどりついた場所は。
「ついた・・・ハァハァ・・・ふぅー・・・参ったな・・・」
そこは屋敷の人間が非常時に脱走する為の隠れ出口として作戦の決行前に聞かされていた場所だった。石垣に厳重に守られたその場所は森や屋敷の大家事とは無縁と言わんばかりにシーンと静けさに包まれていた。
「ここだったか?」
記憶を頼りにソレと思しき石をどかすと人一人入れる程度の穴が見つかった。そこに人狼は入ると中は広い洞窟だった。松明こそ用意されているが湿っぽく嫌悪感を禁じ得なかった。
「背に腹は代えられんな・・・」
何の躊躇いもなく歩みだす、走り続けた事自体あまり疲れなかったが満身創痍で出血が多いのが心配だった。ひとまず喧噪から抜け出せたが安堵はしなかった、こういう時が一番油断していて危険だからだ。だからこそこの面倒な自体に気付いてしまった。
「勘弁してよ・・・」
人狼の前方に数人の人の気配がする。
時間が残酷なんじゃない。俺に計画性が無いだけなんだ