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カラフル軍記  作者: ノイズa.k.a.天谷川
秘密警察『B3』編
1/65

一話

 中学卒業して、環境も一変して心機一転新たな物語を書いた結果がこれだ

 『歴史は繰り返される』という名言がある。その言葉は戒めとしての効力が切れた時その通りになるのだろう。帝暦1285年の早春の頃、世界全体は『青の帝国』を中心に大きく動いていた(シンボルカラーが青色であることからそう通称される)。



 千年前に圧倒的な力で全世界を統治していた帝国は政治が大きく乱れ、賄賂が横行し、奸臣によって皇帝が操られ民をに圧政を敷く―――そんな帝国を救ったのは身内の者、帝国所属の軍隊である。武功が取り上げられず不満を抱いていたというのもあったが当時の帝国の暴虐を兵力を総動員して討伐したのであった。二十年前の事だ、これにより平和が訪れて人々は安らぎを覚えた。



 が、所詮は力を力で抑えつけただけの物で当然反発が生まれる。青の帝国は再び内乱状態に陥り政治が不安定になった。中心がこんな様子だから帝国に服従していた地方の実力者達は一斉に反旗を翻し独立を試みて覇権を競うのだった。帝暦1305年の現在いま世界はまさに戦国だった。

 


帝国から東方に四里ばかりの場所に小山にも迫る大きさの鬱蒼とした森が佇んでいる、その中には奇奇怪怪な奇岩群を蓄え訪れた者に自然の雄大さを否応なしに通る胸に刻む。その森に唯一帝国へ通ずる街道が穿たれており旅人や行商隊は必ずそこを通らなければならない。



 人々は口をそろえてある噂を言う、『最近あの森には「人狼」という山賊が出るらしい』と。卓越した運動神経で旅人を襲い金目のものを奪う―――そんな類の被害が此処一年で百件以上起きているのだから帝国派遣の警備隊も放っておく訳にはいかない、しかし捕まえられないと来たので人々に更なる不安を与える、人々の不安は募る一方である。



 帝暦1305年の夏至の夜、先述の森の開けた岩場で何やら不穏な様子があった。普段太陽光か月光の自然の光以外は入らないこの森に今夜は松明の炎がチラついており人の往来も普段の比では無かった。行きかう男達の風体からして堅気で無い事は想像に難くない。今夜、それも近い時間その危険な何かを実行しようとしているのだろう。そんな物々しい男達の中にあってただ一人異和感を放つ者がいた、一人近くの背の高い、調度見張りにでも利用できそうな奇岩のてっぺんに静かに座り満月を眺めていた。



  その姿の中で何より目を引くのが顔立ちだった、歳は干支を一周して少しといった所だろう。背丈は決して高くはないが逞しい体つきだ、ボディビルダーの筋肉ソレでなく格闘家寄りの実用性のある体つき。首と胴は太く足は飛蝗のようにしなやかで目は歳不相応に何処か憂いを帯びていた。

 


 「おう、大将此処にいたかい」

 


 月を眺める子供に不意に後方から低い声が呼び掛けた、振り向いた方には。

 


 「ん、ヘラジカさん」

 「止めてくれや、そんな堅苦しいのはよ」



 少年に声を掛けたのはこれ又人相の悪い大柄な中年の男だった、たっぷり蓄えた顎鬚を弄りながら少年の傍らに座した。



  「どうだ? 成功祈願に一杯」

 


 グイッと差し出された手には漆塗りの杯が握られていた。未成年だが此処は場の空気を読み杯を受け取った。

 


 「ほれ飲め飲め」

 「有難うございます」

 

 杯に並々注がれた酒がこぼれないように少年は慎重に口を添えた。そして一献、弱い電流が喉に走ったのかと錯覚する。鼻の奥をつんざく様な臭いが抜け、一杯目で胸のあたりに何かもやもやしたものが生まれる。

 


 「つまみもあるぜ」

 「頂きます」



 と、干し肉を受け取り噛みちぎる。その様子をヘラジカは不思議そうに見つめながら口を開いた。



 「大将、あんた本当山賊らしからねえな」

「え」

 

 ヘラジカの突然の言葉に少年は止まった。多少たじろきながらも少年は口を開いた。

 


 「そうですか?」

 


 言われてみれば少年の振る舞いは他の山賊とは一線を画すものがあった。先ほどの酒を飲む仕草にしても慇懃に両手で飲み干しちゃんと口を拭った、しかもハンカチで。荒くれ者が殆どの山賊にあって少年の立ち振る舞いは異常と言えるものだった。

 


 「初めての顔合わせでもやけに上品だったしなぁ・・・なぁ人狼の大将?」

 


 冷やかな目で満月を見据える少年改め人狼にヘラジカは称呼を改めて問うた。最近巷を騒がせる山賊人狼はこの少年であった。腰のあたりには影で隠れていた狼の覆面が置かれており人狼はゆっくり口を開く。

 


 「そんな事は有りません、俺はただの山賊です」

 「文字通り、見た目通り一匹狼か・・・」

 「そー言う事です」

 


 人狼は微笑で答えて残りの酒を飲みほした、まだ胸やけには慣れない。それにつられてヘラジカも豪快に酒の入っている水筒を一気に飲みほした。荒い息で口を拭いながら立ちあがって言う。

 

 「ぼちぼち時間だ、行こうか」

 「ハイ」

  

 そう言って二人はその場を後にして松明と人混みの有象無象の中に紛れて行った。

 夜中のテンションくらい怖いものはない、寝落ちして起きてみればホッチキスを枕にしていたのだから

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