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第一幕 奇妙な五人組の物語  作者: 紅榴
第一章 他を欺く者
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第一話 レールド王国 城下

 リグレシア大陸全土を支配する大国・レールド王国。非常に豊かな国であった。北には砂漠、南には雪原が広がる大陸ではあったが、周りの大陸との交流は盛んで、観光業に力を入れ、国を観光地とし、農業ができない代わりにそういったもので国を支えていた。

 しかし、成功しているような国でも問題は抱えているのだ。

 実はこの国のほかに、リグレシア大陸にはラニューカ王国という国があったのだ。レールド王国はこの王国を武力によって支配し、大国となったのであった。そのためか、かつてのラニューカ王国のあった場所ではほぼ毎日といっていいほど内乱が起こっていた。

 勿論、王国は対策をとっていた。城下に常に兵士を配備し、内乱に備えていた。だが、時々配備されている兵士では抑えられない大きな内乱が起こることがある。その時のために特別に配属されている兵士が市民に紛れて生活している。彼らはその時のみ、出陣する。

 しかし、誰も彼らの顔はおろか人数すら知らない。


そして彼らがすぐ身近な存在であることも―――。


よく晴れた春のある日の昼下がり。レールド王国城下は、行きかう人々で賑わっていた。その中に一軒だけ人のあまりいないお店があった。その店の扉には「レールド王国直営 レールド楽器」とだけ書かれていた。建物は石造りで木枠にはめられているガラス戸にはツタが張っていた。そのせいか、用があってもなくても近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

 しかし、店の雰囲気とは異なり中から聞こえてくる声は若い男女の声だった。店員同士がふざけあっているのであろうか、笑い声が外まで聞こえていた。


 そのお店の前に一人の少女は立っていた。手には茶色の楽器ケースのようなものを持っていた。少女は雰囲気から入るのをためらっていたようだが、声に安心したのかゆっくりと扉を開けようとした。

 「ん、んんっ??あれれ?」

 扉が少しも動かなかった。この扉が重く少女の力では開けられないのか、立て付けが悪いだけなのかわからなかった。試しに押したり引いたりしてみても、とうとう少女に開けることは叶わなかった。少女が諦めたとき、店の中から一人の女性が出てきた。腰まであるだろう長い長い銀髪を一つにまとめ、赤いピンで前髪を留めている美しい顔立ちの女性であった。彼女は少女を見つめ、瞬きをした。数秒ののち、「あっ」と声を出すと少女に声をかけた。

 「お客さん...ですか?」

 少女は頷いた。

 「で、ですよね...うんうん、こんな小さくてかわいらしい子が私たちの監視員なわけない...」

 何のことか理解できていない少女をよそに、女性は扉を大きく開けた。少女は女性に一礼し、店の中にはいった。そして外装とは全く雰囲気の内装に少女は感嘆の声を漏らした。 

 少女がそうなるのもしかなたい。店の中にはありとあらゆる楽器が陳列され、豪華なつくりであったのだ。少女はぐるりとあたりを見渡した。見覚えのある楽器から、見たことのない楽器まであった。そしてものかげに隠れていた二人の人物と目があった。しかし、目があった瞬間二人とも奥に引っ込んでしまった。

 「見てもらいたいのは、手に持ってる楽器かな?」

 先ほどの女性が声をかける。少女はうなずき、楽器ケースを差し出した。女性はケースを受け取ると、少女の見つめる先、二人が隠れた物陰を見て気づいたようにいった。

 「...ごめんね、さっきの二人気に障ったかな?」

 少女は首を横にふる。

 「あの二人は知らない人を見るとすごく警戒するからね...。まあ、あの二人はともかく、楽器をみせてもらうね」

 そう言って女性は楽器ケースを開く。

 「きれいなフルートっすねぇ」

 上から男性の声がかかった。金髪に近い茶髪で、前髪をクロスさせたピンで留めていた。俗にいうイケメンなのだが、どう見てもヤンキーにしかみえなかった。先ほど隠れた人ではなさそうだった。少女はエプロンにつけられた名札を見た。そこには「ヒロガ・ガトリー」と書かれていた。横の女性にも名札はついていた。

 「あ、ひょっとして名札見てた?私はシル。シル・ロクサード、ラニューカ地方の文字だからわからなかったでしょ?」

 確かにシルの名札は見たことのない文字で書かれていた。

 「じゃあ、この楽器修理させてもらうっすね。数日かかるっすけど、大丈夫っすか?」

 少女は大丈夫です、と応えた。

 「あ、受取人確認のためにここにサインお願いしてもいいっすか?」

 ヒロガは一枚の紙を差し出した。そこに少女は名前を書いた。書いた紙を受けっとったヒロガは少女に言った。

 「シラン・サエキさん...っすね。明後日辺りには終わってると思うから、とりにくるっすよ」

 シランはうなずき、店の入り口に向かい先ほどは開けられなかった扉を大きく開いた。驚きの声を上げた二人をよそに、シランは店の奥に聞こえるような声で言った。



「クロイラさん、シロイラさん、次に来るときはお話し、したいです」



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