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序章 H-28ST1

昔々、山奥にある静かな里に、フィリオスという男とその家族が住んでいた。

彼は山奥には住んでいたが、王室お抱えの家具職人であり、現代でいうところのエンジニアにあたるひとであった。

彼らはお金もたくさんあったのだが、威張り散らすことも、豪遊することもなく、つつましく質素な生活を送っていた。

中でもフィリオスの持つ技術は素晴らしいと、陛下に表彰を受けたこともあった。

しかし、彼自身は、王に表彰されることよりも、多くの人を助ける機械を作りたいと思っていた。


そんな或る日のことだった、彼らの運命を変えるノックが鳴り響いたのは。

フィリオスが怪しむこともなく、玄関の戸を開いてしまった。


少しだけ開かれた戸を屈強な男が押し広げ、数人余りの黒ずくめの男が彼の家になだれ込んできた。フィリオスが腰を抜かしている間に、男たちは彼の妻子を拘束し、取り出したナイフを妻に向けた。

一瞬の間が開いたが、彼は瞬時に判断した。おそらくこの男たちは自分の妻子を人質に、何かを要求するのであろうと。


フィリオスは、何がほしい金目のものであれば全て食器棚の引き出しに入っている、と告げた。しかし、男たちの目的はそれではなかった。


「『人型暗殺用アンドロイド』をつくれ」


一人の男が要求した。まず、フィリオスは困惑した。

この時代の技術は高度発展を見せており、また、国内最高レベルの技術を持つフィリオスにとっては、アンドロイドをつくることなど簡単なことであった。

だが、それをつくるためには、たった一つ、避けては通れない、犠牲を伴うものであった。

自らの意思を持ち、自己で判断し、ましてや人型となるとアンドロイドのベースとなる、一人の人間の贄が必要だった。


当然、フィリオスは断ろうと思った。そんなものをつくっても、得をするのは依頼者のみ、おまけに誰かを生贄に機械など作りたくもなかった。

すると、当然のごとく、男は妻の首筋にナイフを当て、もう一度要求した。今度は、依頼を受けなければ妻子はおろかお前ら一族を滅ぼすと。



それから一年、寝る間を惜しんで彼はアンドロイドを完成させた。同時に彼は殺人者となった。

そして、あの男たちはやってきた。一通りアンドロイドの性能を見た後、満足したようにお金を置き、アンドロイドを抱えて、フィリオスのもとから立ち去ろうとした。

その男たちをフィリオスは呼び止めた。依頼は果たした、一年間誘拐していた妻と子供を返してくれないかと。

男たちは大声で笑い出した。彼のことを嘲笑した。

男のひとりが、毛布にくるまれた大きなモノを家に運び入れた。そしてそのまま、地面に投げ捨てた。

なかなか楽しめたぞ、と笑いながら男は言う。楽しそうな声だった。


男たちが出て行ったあと、フィリオスは震える手で、毛布を広げ、絶句した。そこには、変わり果てた姿の妻と子供がいた。

彼は数日間もがき苦しんだ。妻と子供を返してもらうため、この一年間、禁忌とされるアンドロイドを作った、人も殺した。妻と子供が死んでしまった今、それはすべて、無意味だったんだと、彼は自分を追い詰めていった。


そして、家から出てこないフィリオスを心配した、彼の母親が家を見に来たとき、彼は血まみれで倒れていた。必死の看病もむなしく、彼は息を引き取った。

彼の死は、自殺であると判断されたが、致命傷を与えたとされる凶器が発見されず、事件は謎のままであった。



それから数年後、アンドロイド作成を依頼し、フィリオスの妻と子供を殺害した犯人グループは、王国兵に捕まり、刑が執行された。

しかし、家宅捜査を行っても、男たちがかつて住まいにしていたとされる場所を探しても、アンドロイドだけは発見されなかった。

その後、男たちも牢獄で謎の死をとげ、アンドロイドは永久的に失われたと思われた。



フィリオスとアンドロイドの事件から数百年_____。

運命の歯車は、ひっそりと回りだした....。

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