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十三話 女性と王子と応援する会

 勇者がセクドの町を救ったという報せは、すぐに王都中に広がった。

 人々はその明るい報告に顔を輝かせ、詩人達は勇者の活躍を高らかに詠い上げては、勇者を称える声は王都中に響き渡ったのだった。


 そんな中、”勇者を応援する会”が発足した。


 これは、勇者の活動を金銭的に補助しようという会で、ある大店の店主が立ちあげたものだった。

 小さなアクセサリーを作成し、それを販売する。その売り上げの全てを、勇者の活動に回すというものであった。

 作られたアクセサリーは、玉で飾られた匂い袋であった。


 一個の金額は安価で、飾り玉の出来栄えも悪くなかった。加えて匂い袋の香りはうっとりするほど良く、老若男女問わす多くの人がそれを買い求めた。


 もはやソレを持たない者の方がいない。

 ほんの数日で、そのアクセサリーは王都中に広まったのだった。



 王都のどこにいても匂ってくる香りに、メディエとセシルはげんなりしていた。

 こんなことになるのなら、勇者の活躍なんてなければよかったのに、と逆恨みまでしてしまいそうだった。


 あっちこっちから漂ってくる匂いに対抗するために、二人は高位魔術を習いに魔術屋にやってきたのだった。


 それというのも、初級のカゼノヤイバでは消臭作用が低すぎたのだ。一家分のサイズを消臭するために、風の中級魔術を教えてもらおうと希望している。

 魔術屋も一応だが場所は知っている。二人は出来るだけ人のいない通りを選んで、まるで周囲を警戒するネズミのようにこそこそと身を隠しながら魔術屋までやってきていた。


「……」

「え……」


 魔術屋の前に馬車が止まっているのを見て、二人は顔を見合わせた。


 なんだか嫌な予感がするのだ。というよりも、中から非常に強い”匂い”がしている。

 中には何がいるのかと警戒する二人の前で、魔術屋の扉が開き、中から一人の女性が現れた。


「は?」

「え……どうして……」


 従者に先導された女性は、そのまま馬車の中に入って行く。女性一人を乗せて扉は締められ、従者は御者台へと移動した。

 二人は見た者が信じられなくて、馬車が走り去るのを茫然と見送っていた。


「今の……は……」

「うん。見た? 顔を見た?」


 セシルとメディエは、数秒間顔を見合わせて、気まずそうに視線をそらした。


「え……っと。入る?」

「あぁ。うん。そのために来たんだもんね」


 ぎこちなく魔術屋の扉をくぐった二人は、そこで浮かれに浮かれた店主と出会うことになったのだった。


「おや、いらっしゃィ。いやぁ惜しかったネ。

 ちょっと前に天使が──いや、女神がココにきていたんだよゥ。もう少し早かったらキミタチも会えたのにねェ。

 いや~、残念だったネ」

「あぁ……うん。ソウデスカ」

「いやー、ゼヒアイタカッタデス」


 困惑した二人は、ぎくしゃくと返事をしたのだった。




 ○ ○ ○




 勇者の活躍は王都だけでなく、周辺の町や村にも広がっていた。


 勇者が先頭に立って剣をふるい、英雄が巨大な魔獣と対峙し、聖女が怪我人を癒す。

 臨場感あふれるその詩に、人々は勇気を奮い起こされていた。


 まだ少年の勇者の異業に驚き、

 英雄の活躍に、騎士への感謝を込め、

 聖女の慈しみに、神への祈りを奉げたのだった。



「フン──勇者も大変だな」


 呆れた声を出すのはノアであった。彼らは数日を駆け、王都の近くの町まで帰って来ており、そこで勇者の話を聞いたのだった。


「なんだか、王都方面から魔力の圧力を感じるんだけど? どれだけ強力な魔術が使われてるのかな」


 ハーヴィの言葉に、リヴが疑問を浮かべた。


「王都には王宮魔術師もいよう。それらが対処していないとは考えられないのだが」


 王都には優秀な魔術師が沢山いる。それこそハーヴィやリヴを越える才能の持ち主も存在するであろう。それなのに、何の対処も行われていないことを、疑問に思うのだった。


「……わたし達は今日はじめてこの異変を知ったわ。今日まで他所にいたんですもの、いきなり変貌した王都を見たことになるわね。


 でも、王都の人たちにとっては違うわ。

 毎日少しずつ変化していたのだとしたら? ちょっとした魔術の積み重ねがあって、コウなってしまったのなら、彼らが気がつかなくても仕方がないかもしれない。


 ふふっ。普段王城でイキがっていても、かわいいものね」


 うふふ、とルリが嗤う。いくら上品そうに見えても、言葉の端々から漏れる嘲りの色は隠しきれなかった。


「ルリ……そのような物言いは」

「そうだよね!」


 ルリをとがめるのはリヴで、言葉に乗るのはハーヴィだった。


「王都の魔術師たちは、みんなプライドが高くて。神官達だって、大きな顔をして偉ぶっているし。

 だいたい、彼らは──」

「ハーヴィ!」


 弟が言葉を重ねるごとに、リヴの顔が曇ってゆくのを見て、ノアがハーヴィを止めた。


「でも、本当のことです。

 神の奇跡どころか、回復魔術すら仕えないオンナノコを聖女にしてしまって、この先どうするんでしょうか。


 今の神殿にいるのは、信仰を権力に売り払った人たちと、それに加担した聖女でしょう。……僕は嫌いです」

「そうね。わたしも神殿や貴族の一部は、好きにはなれないわ。

 でも、だからって王都に住む皆を同一視するか、と言われたら──それは違うと思うの」


 幼少から王都で育っていたルリは、今でも王都内に友人が多く住んでいる。全ての人を一緒にして欲しくないというのは、そんな理由からだった。


「そうだな。神殿の上層部は気に障るが、信仰を持つ者全てが悪いわけではないだろう。

 人々は、ただ(オラファーブ)に、感謝と祈りを奉げているだけなのだから」

「そうよ。ちょっと優越感に浸るくらいで満足しておきましょう」


 強い魔術が使われているという王都を見ても、ルリには何も感じられなかった。

 おそらくはノアやリヴも何も感じる事ができていないだろう。


 有能な魔術師であるハーヴィだからこそ気が付いた異変。

 王都で何かが起こっていると、それだけが四人にわかる全てであった。


勇者を応援する会では、手作りのアクセサリーを販売しております。

これらの商品の売上げは、全て勇者様の活動資金とさせていただきます。価格は一個銅貨一枚から。一定金額に届き次第、食糧や武器防具・貴金属に換えて配達する予定です。

ご協力いただける方は、設置されている木箱に銅貨を入れ、匂い袋をお持ち帰りください。また、制限はありませんので、お一人様いくつでもお持ちいただいて結構です。

世界を救う勇者の旅を、私たちが支えようではありませんか。

詳しい活動内容については、応援する会本部担当までお尋ねください。

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