五話 裏ボスの勝利条件
メディエはなるほど、と相づちを打った。
破壊神が続けるおしゃべりに、同意をうち続けているのだ。
『オレだって、できれば仕事したくないワケよ。わかる? そうか、わかんないか。できたら、部屋でゴロゴロしていたいワケ。
ここみたいに、上手く回ってる世界を壊すとか──もったいなさすぎンじゃん』
「いやいや、分かりますよ~。前の世界では、"引きこもり"とか、"ニート"とかいう人種がいましたから」
『もったいないなら、壊すの止めませんかねぇ。維持神としても、成功例を壊されるのはもったいなくて……』
破壊神とメディエを囲むように、四柱の神々が座っている。
彼らは"始まり"に存在した神々だ。
燃えるような赤い髪の火の神。群青色の長髪は水の神。大地の神は短い茶髪の老人で、風の神は創造神に似た白髪の少年の姿だった。
『そうは言っても、この世界の住人が滅びを望んでいるんだ。滅ぼしてやるべきだろう?』
『それって、世界創造の時に決めてた"条件"ですよねぇ。たしか──』
『"神像"の前で歌い踊り狂う、というやつですな……なんと。やった人がおると言うのですか』
「なんで、そんなんにしたし」
神像の前で踊るとか、普通の行動すぎた。
この神々は世界の維持を考えてない、とメディエは残念に思った。
『いや、怒られたからそれは止めだ。代わりに"神像"を壊したら終了にした』
終了のレベルが下がった、のだろうか。
壊すのと、歌い踊ること。はたしてどちらがマシだろうかと考え──メディエは結論を出した。
どちらも嫌だ。
『その代わり、神像にはちょっといいカンジの守護をかけておいた。
落としたり、ぶつけたりしたくらいでは、傷ひとつつかないくらいの。でも、壊そうと頑張れば壊れるくらいの。びみょーなラインのな』
『無駄な才能、オツ』
火の神が破壊神をやじる。
それに合わせて、他の三柱も破壊神に文句を言い始めた。
『あぁもぅ。仕事しなかったら怒るし、仕事しても怒るしー。こんなんだから破壊神なんて、ブラックだってゆーのよ。分かってるか? 神々の中で一番不人気なんだぞ』
へー、ふーん、あぁ、そうですか、と四柱が返事を返した。
そのなげやりさに、破壊神は不満をこぼす。
メディエは何とかフォローをしようと、破壊神に話しかけた。
「まぁ、その。皆さんこう言ってますし。何とか壊すのを止めてもらえないかな、なんて」
『そうだよー。止めてよー』
『そう言ってもなぁ……』
破壊神は苦い顔だ。
その理由として、神々は己の定めた規則から外れられない、という事がある。
今回の場合は、"像が壊されたら世界はおしまい"──その定めから外れるというのが問題なのだ。
けれど、これほどの意見を無為にするのも気が引ける、と破壊神は唸った。
『フム。──では、何か理由を出してみろ。オレが納得できる内容をな』
『うーむー』
『将来性が見込める、ってのはダメなのか? この世界だけで、かなりの平行世界ができているだろう? 優良な素因を持ってると思うんだが』
「うわぁ。パラレルワールドまであるんですか。なんでもアリですねー」
『他人事みたいに言ってるケド、君も管理する側だって忘れないようにね』
「うわぁい。忘れてましたぁ」
風の神の言ったキーワード"将来性"について、破壊神は腕を組んで目を閉じた。その格好のまま、うーん、と考え込んでいる。
少しは検討してくれている姿に、メディエ達にも希望が溢れてきた。
薄目を開けた破壊神が、メディエを見る。上から下までじっくりと観察されて、メディエは嫌な予感に襲われた。
破壊神の視線を追うように、他の神々もメディエを見てくるのがまた嫌だった。
「な。なんでしょーかー」
『将来性か──確かに。ここに生きたレアケースがいる』
『異世界からの召還者が、眷族神にまでなるのだから、レアもレアでしょうねー』
どう返事をすれば良いのか、メディエは少し悩んだ。
『そうだなぁ──』
メディエの嫌な予感はどんどん強くなっていた。
値踏みするような視線──破壊神の視線が強くなる。
『おまえがオレに一撃でも入れれたら、維持を許してやろう。
破壊神は勇者に倒される──てのが、異世界のお約束ナンダロ?』
にやり、と破壊神が唇を歪め、笑った。
雲ひとつ無い紺碧の空。
地平線ははるか遠く。
メディエはその時、世界の中央に立っていた。
メディエに対峙するのは破壊神。
向かい合って立つ二柱を見守るのは、いく柱もの神々だった。
メディエの肩には、一つの世界の運命がかかっている。
その結論を見ようと、全ての神々が集まっているのだ。
神々の視線を一身に受け、メディエは落ち着かなかった。
意味もなく装備を確認したり、スキルの設定をいじっている。
『条件を確認するぞ。時間は一分。オレからは手をださないし、反射もしない。で、オレに一撃いれたらおまえの勝ちな』
「破壊神に反撃されたらチリも残りませんよ──」
『まあ、そう言うな。んで、ダメージはイチでも可な』
「はーい」
なんとしても、一撃をいれること。
それだけがメディエの役目だった。
ならば、数を打つしかない。
命中率の高い攻撃を、回数こなすしかないのだ。
メディエの汗ばむ手に握られているのは、TWAの武器だ。防御力無視という特殊効果のついた短剣を、両手に持っている。
それだけではない。頭装備からアクセサリーまで、全身を速度装備で固めているのだ。
まずは魔法で弾幕を張り、同時に近付いて防御力無視で傷をつける──これが、メディエの考えた攻略方法だった。
開幕と同時に魔法を発動できるように──
メディエはいつでも動けるように、準備を整えてその時を待った。
『では──』
「はい……」
破壊神とメディエの視線が交わる。
ひと呼吸の後、破壊神は頷き──メディエは十本近くの必中の風の光線を放って──
一瞬の後、神々の歓声が世界を揺らした。
『──相棒は、どこまで理想を実現させたんだ?』
「完全に。……だから、劣化してると思ったんですけど?」
『ここまでヤバイとは、さすがに知らんわ。オレと相棒は同一だが、違う存在だからな』
メディエに首の急所を押さえられた破壊神が、ため息をついて空を見上げた。
『眷族になった時に劣化したと、思い込んでいたわけだ。これだから、報告・連絡・相談は忘れちゃダメなんだよな──』
神像が壊された経緯は、昔話:始まりの聖女の物語に書いています。




