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一話 異世界召喚

 ふわり、と地面に描かれた文様に力が送られて、反応した魔力が光を発する。


 これは、異界から客人(まろうど)を召喚するための魔方陣──いわゆる召還陣であった。

 かつて、聖女を召還した時には、魔術師と弟子達の魔力を注ぎ込んでようやく発動した陣である。しかし、ありし日より研究を重ね、以前とは比べ物にならないほど効率よく発動するようになったそれを動かす。

 いままで何度と無く行ってきた作業で、現在は魔力を持つものたちの日課となっている。


 今、陣を発動させている彼も魔力を持つ者の一人である。数日前から体調が悪く、今現在もだるさに悩まされていた。

 しかし、こうして召還陣を発動させてみると、その流れる魔力の美しさに頭痛も軽くなった気がするのだから不思議なものだった。


 くるりと魔力が召還陣を流れてゆく。


 強い──限界まで注ぎ込まれた魔力は、陣からこぼれ出ることなく、書き込まれた文字の上を走り、力となる。規則正しく陣内を舞う魔力は、ゆっくりとほどけ、こたびの客人を現す──はずであった。


 しかし、その前に。

 陣の上に強い光が現れると同時に、魔術師の胸に鈍い痛みが走った。同時に頭を殴られたかのような目眩と──気道が潰されたかのような胸の閉塞感。何も考えることができず、目が霞んで何も見えず、甲高い音を響かせる耳鳴りは外界の音の全てをシャットダウンさせた。

 肺を押しつぶされたかのような圧力に、口から血があふれ落ちる。そのまま鈍い音をさせて身体が倒れると、魔術師はもはや指一本動かすこともできなかった。


「ん? おーい、いるか? セシル?」

「叫ばなくても聞こえている。……なんだ? ここは」


 光が収まったとき、そこに立っていたのは二人の男だった──召還陣の内側に立っているため、彼らが召還された人物であることがわかる。

 つまり、本来一人を召還するはずが、二人を召還してしまったため、その魔力不可に耐えられず、召還主に強い負荷がかかってしまったのだった。


 二人は現状が理解できずに呆然としていた。そのうちの一人が持っていた剣が、石床に落ちて高い音をたてた。

 その音に弾かれるように我に返ると、二人は周囲を見回した。


「……まて、人が倒れているぞ」


 ソレに気がついたのはセシルと呼ばれた男が先であった。目の前に倒れ付すローブの人間──周りには誰もいない。つまり──


「密室殺人、か。メディエ、とうとうヤってしまったのか」

「まて、まてって。密室かどーか、わかんないじゃね? むしろ──やべぇ、オレ達容疑者?」


 二人が顔を見合わせる。


「……第一発見者を疑え、というのは推理の基本だな。だが、このシュークリーム色の脳細胞にかかれば──」

「! まて、誰か来るぞ。おい、隠れろ。隠れろって」


 どうしようかと周囲を見回すが、よさそうな場所はなく──セシルがぐい、とメディエの腕をひっぱると呟いた。


隠遁(ハイド)

「へ? アレ? それって──」

「静かに──」

「……!」


 むごご、と口を動かすメディエを引き摺って、部屋の中央から壁際まで移動する。それと入れ替わりのように、装飾の少ない分厚い木の扉が、きしむような音をたてて開いた。


「しっつれいしまーっす。トルク様ー、トールークーさーま。いらっしゃいませ……ん…………え?」


 ローブ姿の少年は、のんきな声をさせながら部屋に入ってきて、倒れ臥す塊を見て──動きをとめた。


「え? は? なに?? ──────ちょ、う。うわぁああぁあぁああああぁ。誰か! 誰か来てくださおいうわえぅえぇ」


 扉の外に向かって支離滅裂に叫ぶと、そろそろと倒れた塊に近づいて──顔を覗き込んで腰を抜かした。


「ト、トルク様…? なんですか、どういうことですか?」


 がくがくおびえる視線の先、トルクが向かい合っていたであろう召還陣のその中に、繊細な装飾が施された異国──異世界の剣が一振り置かれていた。

 それはまるでトルクが剣を召還したかのようであった。少年はその剣から目が離せない。まるで視線をはずしたら剣が消えてしまうかのように思われ、じっと剣を見つめる。


 それは、内側から淡く光を放つかのようなオーラを持つ剣であった。

 この世界に存在するいかなる剣よりも美しく魔力にあふれた神秘的な剣──まさしく聖剣と呼ぶにふさわしいその剣に魅入られたように、少年はじっと見つめ続けた。


 扉の外から、あわただしい声と共に複数の人がなだれ込み、何事かと野次馬までもが集まってくる。

 そんな中、音も無く影も無く、そっと部屋を出た者がいたなどと、誰も気がつかなかった。


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