第4章 変わっても変わらないもの(森入り前夜)
森それは天然の迷路である。素人からすればそこはダンジョンと何ら変わらない。
ダンジョンで森と聞けばゲームなどの初期マップで見られる簡単なものを想像するかもしれない。しかしながら現実はそうではない。
ほとんど手の入っていない森というのは方向感覚を狂わせる。イメージしてほしい。あまり特徴のない壁が延々と続くという迷路と変わらない様を。
夜になるとさらにたちが悪い。視界が狭くなるのだ。まるで霧のように。都会に住んでいて森の中に入ったことのない人にわかりやすく言うなら、初めてきた 街で見た目が全く一緒な家ばかりの道を霧がかかった状態で歩くというたとえがちょうどいいように思う。
文明の進んでいる現代であっても遭難者がでることを考えると当然懐中電灯も科学的な保存食もないこの世界で森に入るということはどれだけ難易度が高いか想像するのは容易だ。現代人だから難しいんじゃないの?そうかもしれない。だが、2人は未知の地に来ているのだ。ユノは何回も山菜を取りにいっているがそれは先人が残してくれたマップよりもさらに頼りになる案内人がいたに過ぎない。
二人はどうするか考えていた。
「絶対迷うと俺は思う。」
「大丈夫だって!」
ユノははっきりしっかり断言する
「諦めないか?」
「まさか。何のためにきたんだよ」
そもそも城に行きたいといったのは彼女である。
では、なぜそんなことをいったかというと護摩は正直言って怖いのだ。
盗賊のアジトがあると聞きモンスターが出ると聞きびびっているのである。
転生で屈強な体を手に入れた。
盗賊にタックルしてその強さが証明されていてなお、怖いのである。
所詮は平和な国のいじめられっ子高校生なのだから。
「私が母から聞いた話だとコンパスとその地図のみをもって父は旅に出て帰ってきたんだってさー。だから、大丈夫だって。」
そうユノはだれに聞かせるでもなく語りだす。
「――」
護摩は考える。
このコンパスはまだ使えるのか、この地図はどこまで正しいのか。
仮にこの道具が通用したとして、食糧はどうするのか。飲み物はどうするのか。
次々と心配が浮かんでくる。
そんななかふと昔読んだことのある本を思い出した。
よく人間は塩が大事といわれるが意外となくても生きていけるのである。それよりも大事なのは水分でこちらのほうが塩よりも重要度が高いのだ。
図書館に入り浸っていた時に読んだもしもの時のサバイバル術に書かれていた内容だ。
しかしそんなことは実はどうでも良かったりする。
要は怖いから逃げるための言い訳が次々に浮かんできているだけなのだ。
「迷っているなら走り出せ!冒険とはそういうものなのだから。」
彼女から出た言葉に彼女らしさというものがなかったので不思議に思った。
そして顔を上げると彼女は僕を見つめていた。
「どうしたらいいかわからなくて頭を抱えている男に言ってやれっていう父の言葉だよ。」
この言葉を聞いて、自分はなんてビビりで情けないのだろうとしみじみと思った。
そして勇気がわいてきたのだ。
「いい言葉だ・・・」
「だろ!」
先ほどのように決して現実逃避で伸ばしているわけではなく覚悟を決めたうえで・・・夜も遅いため森に入るのは明日からにした。