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画面の中の彼女と画面の外の彼女  作者: 勝田瑠依
第1章 2次元と3次元
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宇宙船での生活ー③

 食堂は部屋のプリントにあったように、2階にあった。エレベーターの扉が開くと同時に、おいしそうなにおいと男たちが騒いでいる声が聞こえた。

 「から揚げ揚がりましたーっ!あったかいうちにどうぞーっ!」

 女性の元気な声。給仕係は女性のようだ。

 食堂へはエレベーターをおりて数メートル先。入り口の扉は開かれていて、部屋に入ると、和、洋、中、それぞれの料理を乗せた長いテーブルが縦に1つずつ、計3つあり、左と右のテーブルから少し離れたところに10人くらいは座れそうな丸いテーブルがある。男たちはそこで騒いでいた。

 他には、入り口入ってすぐのところに食器をのせたキッチンワゴン、壁沿いにはドリンクバー、入り口と反対側の奥の壁にはご飯やパン、麺類などの主食が並んでいた。

 智也はそのワゴンからお盆と皿を2枚とり、料理の並ぶテーブルへ向かい、適当にとって空いている席を探した。

 「やっぱ男ばっかだな」

 当たり前といえば当たり前だ。ここに集まっているのは皆『頑張れ!俺の嫁!』のユーザー。ギャルゲーのようなゲームだから、男性ユーザーのほうが圧倒的に多い。男たちに混ざって騒ぐ女性もいるにはいるが、やはり少ない。

 みんなとどんちゃん騒ぎするのが好きな性格であれば問題ないのだろうが、あいにく智也は苦手な性格であったため、彼らの中には混ざれなかった。

 そもそも、ここに来た目的は食事以外にもう1つある。

 「ん?」

 空いている席を求めてさまよっていた智也は、隅にある1つのテーブルを見つけた。そのテーブルには智也と同じくらいの年齢の女性が1人だけ座っていて、周囲の喧騒とは無縁なその様子は、ある意味奇妙に思えた。赤いパーカーを着て、室内なのにフードをかぶっている。下は学生服の、チェックのスカート。メインカラーはベージュ。ラインは赤。赤系が多いから赤ずきんのようだ。

 その席に智也が近づく。女性はストローでちびちびとオレンジジュースを飲んでいたが、智也が近づいたのを確認すると一瞬飲むのををやめた……が、すぐにまた飲みだした。

 「ここ座ってもいいですか?」

 友達と待ち合わせをしているようには思えなかったが、礼儀ということでとりあえず聞いてみた。

 智也が選んだのはその女性の向かい。顔をあげれば互いに目が合うかもしれないが、その女性から一番離れている席だ。

 「……どうぞ」

 不愛想な返事が返ってきたが、お許しがもらえたので気にしないことにする。

 (ここなら静かに話ができそうだ)

 サリナと話をするのに、ギャーギャーうるさい席では話にならない。

 目の前にいる女性は静かだし、自分と彼女以外だれもいないので、サリナの話に集中できそうだ。

 だがその前に、

 「いただきます」

 晩御飯を食べることにした。サリナの髪は長いから乾かすのに時間がかかるのだろう、彼女はまだ来ない。先に食べて待つことにした。

 「おお……」

 思いのほか、うまくて感動する。食べ始めて、智也は久しぶりにまともな食事をしたという錯覚に陥った。家では、昼食はカップラーメンが多く、夕食は冷蔵庫の中にあるものを適当に食べていた程度だったので、温かくてカップラーメンではない食べ物は久しぶりだった。

 「ねえ」

 そんな料理に感動していたら、不意に例の女性が声をかけてきた。騒ぎ声が一瞬やんだタイミングだったから聞こえたものの、騒ぎ声があったら聞こえてなかったかもしれない、小さな声だった。

 その割には、少々棘があるような呼びかけであったが。

 「なに?」

 言った後で、智也の声も相手に聞こえなさそうだと彼自身感じたので、お盆をもって彼女に近づいた。

 「ストップ」

 女性がとめたのは、彼と彼女の間を椅子が1つ分空けた席だった。智也はその席に座った。

 「あなたも、相当なお金をつぎ込んだユーザーよね?」

 どうも彼女のしゃべり方には棘があるように聞こえる。

 少し気分を悪くしたが、間違っていないので彼は認めた。

 「君もだろ?」

 今度は智也が聞いた。すると女性は顔をあげた。表情には不快感があらわれていた。

 「君、とかいわないでくれる?気持ち悪くなるから」

 智也の質問には答えず、ブーイングしてきた。

 「あたしは前園由美まえぞのゆみ。あなたは?」

 あくまで自分のペースのようだ。気が強そうな印象を受けた。

 「滝口智也」

 名前だけ告げた。

 「歳が近そうだけど、あなたも学生?」

 あなた『も』だから、彼女は学生のようだ。

 智也は返答に困った。自分を学生と言っていいのかわからなかったからだ。

 「うん、まあ……」

 あいまいな返事になってしまった。

 「そう」

 短い返事が返ってきた。

 会話はこれ以上続かなかった。彼女が他に彼に尋ねなかったし、彼は彼で相手が初対面だから自分から何か会話を作ろうとしなかったからだ。

男たちの宴会のようなどんちゃん騒ぎの中、2人は黙々と食事をとった。

そんな宴会のような騒ぎ声が収まったのは、2人が黙ってからそう長くは経っていなかった。

異変を感じ、2人が皿から頭をあげて会場を見る。

同時に会場から男の声が聞こえた。

「あれ、サリナじゃないか……?」

会場いる人全員が、会場の入り口を見ていた。

そこには、智也を迎えに来た時と同じ服装で、自分が注目の的になっていることに面食らっているサリナがいた。

「あー……と」

服のどこかにマイクでもあるのか、彼女の声がスピーカーを通して会場に広まった。

彼女の息を吸う音が聞こえ、次いで

「こんばんは!皆さんご存知のサリナでーっす!」

彼女の元気な声が会場に響いた。


うぉぉぉぉぉぉぉ!

キャーーーーーーッ!


「うおっ」

歓声を浴びる彼女はまるでアイドルだった。あまりにも大きな声だったので、智也は驚いた。

歓声にももちろん驚いたが、何よりみんなが簡単に彼女があのサリナだと認めたことに驚いた。智也自身がかなり疑っていただけに。

「キャーーッ!本物ーーッ!」

意外にも、寡黙な印象があった由美までが歓声をあげていた。

確かに、見た目はアイドルに負けないくらいだし、ソシャゲーのメインキャラの1人だから、アイドルといえばアイドルだが。

「……はいっ、どうも!皆さん楽しんでいるようで何よりです!」

歓声が終わりかけたところでサリナが会場の人間を全て黙らせた。こういうことには慣れているように見える。

「今日は皆さんに明日からのこと、そしてあっち……パルメルについてからのことを、ちょこっと話に来ました」

アイドルテンションを少し下げ、話し始めた。

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