2次元と3次元-③
「ったく、なんなんだよアレは……」
智也は部屋に戻り、旅行用のエナメルバッグに着替えを詰め込んでいた。
サリナ・フィーボルンを名乗る女性はリビングで待っている。外で待っていると他人から変な目で見られるからだそうだ。現に数回、散歩中の老人などに変な目で見られたらしい。
(コスプレでうろつくなよな)
バッグに着替えや携帯の充電器などを詰め込み、なんとかチャックをしめた。バッグはパンパンだ。
なぜ智也が旅行の準備をしているかというと、彼女の話だとどこか遠くへと連れて行かれるらしい。どこへ行くかは、言ってはいたが覚えていない。
当然、そんな危ないことは告げられた瞬間に彼はお断りしたのだが、
「お母様から許可いただいておりますので」
と、誓約書を見せられた。そこにはしっかり母親の字でサインがしてあり、印鑑もあった。
誓約書にどこへ行くか書いてあったが、智也はそんなことよりも、母親がした行為に驚き呆れていた。
(何の話か分かんねーよ)
母親がサインしたとはいえ、この女性と一緒に何かを行うのは智也だ。それなのに相談もしないで勝手に決められた。なぜ相談の1つもせずに、勝手に同意してしまったのか。
智也はイライラしながらサリナのもとへ向かった。
彼女は彼が食事をするときに座る椅子に座り、テレビを見ていた。さっき消し忘れたのか、あるいは自分でつけたのか。
「やっぱり読めない……」
テレビを見ながら彼女はポツリと呟いた。手元には電子辞書。膝の上には腰に巻いて使えるポーチ。
「準備、終わったけど」
智也が告げると彼女は顔をテレビから智也へと向け、「ああ」と言って、電子辞書をポーチにしまうと立ち上がった。
「では、行きましょうか。外に車があります」
彼女は言い切る前にそそくさと退室した。
(急いでるのか?)
智也はテレビを消し、家の鍵をかけて彼女のあとを追った。確かに車が1台止まっており、彼は乗るようにサリナに促された。