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画面の中の彼女と画面の外の彼女  作者: 勝田瑠依
第1章 2次元と3次元
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プロローグ


主人公・滝口智也は、県内トップの高校の2年生。


しかし彼は2年生になってからは1度も学校に行かず、携帯ゲームとアニメに耽る、怠惰な生活をおくっていた。


彼がハマっている携帯ゲームは『頑張れ!俺の嫁!』という、いかにもオタク向けの、地球ではない惑星でのお話。


このゲームは、妙に細かい舞台設定とキャラクターの絵師が有名イラストレーターであることから、『俺の』とあるものの、男女共にたくさんのユーザーがいた。


しかし主人公・智也は気づかなかった。


妙に細かい舞台設定が『本物』だということを。

画面の中の彼女たちと同じ立場に立つことになるのを。



 4月28日、午前6時30分。

 ピピピピッ、ピピピピッ……

 枕付近にある目覚まし時計は今日もセットした通りに鳴り出した。

 天気は雨。土砂降り程ではないが、強い。

 ピピピピッ。ピピピ……ッ

 鳴り続ける目覚まし時計を眠たげに止めた滝口智也(たきぐちともや)はのそりとベッドから降り、寝間着から普段着へと着替え始める。

 彼、滝口智也は、県内の県立、私立を含めた上でトップの私立白岡高校の2年生。

 しかし、彼は今、高校に通っていない。

 そうはいっても、彼は病気でも、イジメにあっていた訳でもない。授業についていけなくなった訳でもない。

 学校に行かない理由は、その部屋と心構えによるものである。

 「ふぁぁあ……」

 着替えを済ませるや否や、携帯電話に手を伸ばす。

 開いたページは『頑張れ!俺の嫁!』という、携帯ゲームサイト。

 このゲームは携帯版カードゲームであり、登場キャラクターは全て萌えキャラ。クール、ツンデレ、ヤンデレ、妹系、お姉さん系など、様々な性格のキャラクターが登場する。

 ユーザーはデッキとして5人の『嫁』を設定し、そのデッキを使って他のユーザーと戦ったり、イベントに参加したりする。

 ゲーム名が『俺の』となっているが、男性ユーザーはもちろん、女性ユーザーもたくさんいる。理由に、キャラクターを描いている絵師がラノベやコミックで有名なイラストレーターであること、そしてタイトルから感じられる軽さに反し、ストーリーや設定がなかなかシビアなことが挙げられる。

 まずはストーリーに関して。


 舞台は地球とは違う、パルメルという惑星。

 魔法と科学が共存した惑星で、大陸が、地球でいう赤道部分に巨大な川を1本挟んで、北と南に1つずつの計2つ。主な陸地はこの2つで、島はいくつかある。また、この大陸にはそれぞれ1人ずつ、王が住んでおり、王政で大陸を治めていた。

 惑星の住人は大きく分けて科学者と魔術師に区分されたが、お互いに優劣を競ったり、揉めるなどの問題は無く、戦争も起きていなかった。

 事件が起きるまでは。 全ての恐竜に関する研究所と細胞や遺伝子についての研究所が何者かによって制御を失い暴走、その結果、恐竜が続々と研究所で作り出され脱走、また研究中の細胞が惑星中に散らばって動植物に突然変異を起こすなどの問題が起きた。

 幸い、研究所は人里から離れた所にあったものが大部分なので、散らばった細胞たちが人体に影響を与えたり病気にするということはなかった。

 問題は恐竜や動植物たちである。特に突然変異を起こした恐竜や動植物であった。

 凶暴化、巨大化、中には頭脳を持つ個体まで現れた。

 それらは人々の生活を、平穏を奪った。

 王国は討伐隊を組織し、これを鎮圧しようとしたが、数が多く、犠牲も甚大。

 更に、研究所の暴走の原因が、人為的であったこと以外分からず、遂には科学者達が恐竜の研究という分野で劣っていた魔術者のせいにしだし、戦争まで起きる始末。

 恐竜戦、そして戦争。

 戦争では人間と一緒に恐竜たちも殺されたので、数は減った。しかし、残ったのは作り出された恐竜たちの中でも特に凶暴とされる者や、知能を持った動植物であった。

 人間側は戦争を止め、再び恐竜退治を始めようとした。

 だが不可能だった。


 戦える男達がいない


 両大陸とも、戦える男達がいなくなってしまった。

 そしてこれは、近い将来、少子化に繋がるであろうという結論に至った。

 そこでこの惑星の大陸にいる2人の王は、女でも子供でも戦えるよう訓練させることにし、男は他惑星から最も自分たちに近い生命体、つまり人間を連れてきて、子供を増やそう、と結論づけた。

 そしてある日、主人公となるユーザーのもとにこの惑星から来た女性で、ゲーム進行役の『サリナ・フィーボルン』という人物がやってきて、メアと共にその惑星に行き、ハーレムを作り上げるという仕事をさせられるのだ。


 このような、最後の方がふざけているのか深刻なのかよく分からない設定、及びストーリーである。

 遊び方は通常の携帯カードゲームとほぼ同じ。 『嫁』は強化するとレベルが上がる。 強化方法は、他ユーザーとのバトルに勝つ・要らないカードを使って強化する・カードがダブる、の3つ。

 1つのキャラクターがダブることはなく、名前とレア度さえ同じであれば、服装がどうであれ自動的に強化に使われる。服装が違うとはいえ、同一人物がたくさん、それこそ1つのデッキ5枚全てが同一キャラ、というのは、若干気味が悪いかもしれない。いくらお気に入りとはいえ、などとゲーム作成者は思ったのだろうか、とにかく、カードがダブることは、レア度の違いという例外を除くと、有り得ない。

 このゲームはレベルが上がるとキャラクターの服装を変えることが可能になる場合があり、1度手に入れた服装は、その『嫁』本人であればいつでも着せ替えられる。ただし、1度手放すと、また同じキャラを手に入れてレベル上げし、『嫁』に設定しなければならない。『嫁』を手放す時は、同時にその『嫁』が手に入れた服の一切を手放す、というイメージだ。

 ユーザー達の評価は上々で、ギャルゲー感覚で遊ばれている。

 レア度はノーマル、レア、スーパーレア、ウルトラレア、ハイパーレアの5種類で、ハイパーレアはたいてい課金するか、イベントで上位になるかしないと手に入らない。デッキはハイパーレア5枚で作られている、というユーザーはあまりいない。たいていのユーザーはウルトラレア止まりか、持っていても1枚か2枚。 しかしこの男、滝口智也はデッキ5枚全て、ハイパーレアで揃えていた。

 「ガチャしなきゃ」

 朝起きて着替えが済むと、1日1回限定100円ガチャを回す。何が出るのかワクワクしながら画面を見つめる智也。

 彼はヘビーユーザーだった。月にいくら使っているのか分からない。

 携帯1台、パソコン2台、計3つのアカウントを持ち、そのうちパソコン1台は家族共用だが、父親の名で登録されてあるので課金し放題。3台なので、最低でも月3万円はこのゲームにつぎこんでいる。イベントで上位に入り、限定カードを手にいれるためだ。

 更に、彼はアニメが大好きであった。 勉強机はもはやフィギュア置き場でしかなく、5人のアニメキャラが展示され、置ききれなかったキャラはタンスの上に置かれる。現在、2人。計7名のフィギュア。

 壁にはポスターが数枚、そしてカレンダー。もちろんアニメ関係。

 ここまで来たら分かるだろう、彼が学校に行かない理由。

 ようするに、手のかかる学生ニートである。

 「おっ」

 ガチャを回し、出てきたカードを見ると智也はニヤニヤしだした。

 彼の『嫁』設定にしてあるキャラクター、『レミア』が当たった。ダブったので自動的に強化に使われた。

 このキャラクターは、髪と瞳が爽やかな水色で、髪型はサイドテールで、長さは肩と肘の間くらいまである。 顔にはまだ幼さが残っており、アニメキャラだと中学生くらいの年齢に見える。髪の色と彼女の笑顔が一層子供っぽさを引き立てる。

 彼が当てたのは服装がビキニのもので、ビーチボールを今にもこちら側へ打とうとしている。その表情はとても楽しそうに笑っていて、友達とビーチバレーではしゃいでいるようにも、彼氏と遊んでいるようにも見える。

 顔だけ見ればまだ子供っぽいが、しかし体つきは立派な大人、いや、現実にいたら大人以上だろう。

 きれいなくびれがあるし、胸は、現実にいたらDカップくらいはあるのではなかろうかという程大きい。

 彼女は俗にいうところの『ロリ巨乳』である。

 智也は勝手に妹キャラだと思い、嫁設定にしている。

 一人っ子だから妹が欲しいのかというと、これはまた別問題。2次元に限る、というやつだ。

 お気に入りキャラの初見コスチュームの確認が完了すると、彼はイベントのバナーをクリックした。

 その時だった。

 ドタバタと廊下を走る音がした。その音は智也の部屋がある2階へと上ってきて、智也の部屋のドアの前で止まった。

 母親である。

 乱暴なノックの中で、母親の怒鳴る声がした。

 「智也、起きなさい!いい加減学校に行きなさいっ!」

 母親は智也の部屋には決して入らない。なぜなら母親は無駄を嫌い、特にアニメにおいては人生の無駄遣いだとして嫌っているからだ。母親にとってはただの時間とお金の無駄、なのだそうだ。

 そのお金があれば旅行に行ける、塾に行ける、と智也に言い続けている。

 間違ってはいないが、そうはいっても、彼がアニメや携帯ゲームにハマる前にも、家族旅行は無かったと思う。

 母親は病院で夜勤をする日があるし、父親は県外で弁護士をしている単身赴任だから、家族3人が集まる日は年間通して何回あるだろう、という家庭状況。

 塾は通ったが、旅行はしなかった。

 「起きなさい!」

 「起きてるよ」

 学校には行かないけどな、と直後に呟く。

 もちろん、聞こえないように。

 「起きてるなら……返事しなさいよ」

 母親は智也に聞こえるように、呟くようにして言った。

 次いで、母親の服がこすれる音。リビングなりキッチンなりに戻るのだろう。

 「いい加減学校行きなさい。何のために高いお金払って県トップの高校行かせてると思ってるの」

 そう言い残し、去っていった。

 智也にとっては耳にタコができるくらい言われたものなので、もはや何とも思わず、母親がちゃんと去ったのを音で確認すると再び布団にくるまり、携帯をいじりだした。

 ガチャのページへ行き、回そうと思ったところで指が止まった。

 携帯内の残金を見た。

 もうあまり残っていない。

 「そろそろお金入れないとな」

 ガチャを回すためにはお金を携帯に入れる必要がある。

 小遣いは、バイト禁止の高校のため、単身赴任で家にいない父親が智也の銀行口座に振り込む形でもらっている。頼めばくれるし、そうでなくとも、去年分の月々の小遣いの大部分が銀行に残っている。

 父親は、単身赴任や出張で智也を見れないことが昔から多かった中、名門校に入った智也を応援する形で、たまには遊べという意味で小遣いを渡していたのだが、今の彼を見て父親はどう思うのだろうか。

 そんなことは一切頭に無い彼はガチャを回すのを一旦諦め、イベントをやることにした。


プロローグですので、全く話が見えてこないかと思います。


今回は主人公・智也がハマっている携帯ゲームの説明、それと智也がどんなやつなのか、という話でした。



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