抗う女
「そんな腕の為にお金は出せません。」
ヒカルの脳裏にこの言葉が響き渡る。
これは、右腕をサイボーグにすることになった最大の原因の言葉…
故に彼は父親を憎んでいる。
でも、今は。
「列車、止まっちゃったね。」
「うん…
お兄ちゃん、何であの人に…
釘を…」
「君が殺された、と、思ってしまったからだよ。
僕にとってヒカリは…
大切な家族なんだ。
たった一人の家族。」
「え…」
「だから僕は君を守る。
辛いことがあったら頼って欲しい。
お兄ちゃんとの約束だよ。」
「うん♪」
ヒカリは笑った。
そんなときに
「やあ♪
迎えに来たよ。」
葵が空間を繋いでやって来た。
「葵君♪」
ヒカリはすぐに抱きついた。
「(ヒカリにとってこれが幸せなら、葵とヒカリが一緒に居るのを、許可してあげよっか。
どうせ駄目って言っても無駄だろうし。)」
ヒカルはヒカリの幸せそうな表情を見て、葵を信じる事を決意した。
「ねえ、葵、この間の件なんだけど。」
「うん?
ヒカルさん、いよいよ僕を頼る気になった?」
「そうだよ。
君の作れる空間を貸して欲しい。」
「お安いご用だよ。
準備するから3日待ってね。」
葵はヒカルの頼みを快く受け入れた。
葵は他人に頼られるような人になりたいのが本心で、ただ、それが偽善と呼ばれて嫌われても、である。
「そうだ、葵、少し、聞きたい事が有るんだけどさ、聞いて良いかな?」
「うん?
どうしたの?
ヒカルさんが質問するなんて珍しいね。
良いよ、1つだけだけど。」
「君はヒカリの事が好きか?
友達としてではなく、異性として。」
「えっ!?」
葵はヒカルの質問に動揺を見せた。
だって、異性としてヒカリの事が好きかどうかを突然聞かれたのだ、動揺しない訳がない。
「そんな事急に聞かれてもさ…
答えられないよ…」
顔が赤い、葵君、恥ずかしがって俯き、まるで少女みたいに可愛らしい。
そして子供で有ることを遺憾無く発揮している。
「答えられないならそれでいい。
でも…
好きなら早い内に告白しておいた方が良いよ。
後悔したくないなら、尚更ね。」
「…うん。」
葵はヒカリの事が好き、だがなかなか言い出せない、人間はそういうものである。
場所…新宿
あざみ野でヒカルの仕事を代わりに終えた千早はそこでお茶を堪能していた。
BLの本を読みながら優雅にティータイムである。
読んでいる本のせいで優雅な部分が消えている気もするが、気にしてはいけない。
「優輝、お代わりだ。」
「うん、姉ちゃんに待ってて。」
優輝が千早のお茶をくみにいくのもいつも通り。
そんな時だった、優輝がお茶のケースを開いたその奥に…
一冊の古いアルバムが見つかった。
「ん?
なんだこれ?」
優輝はアルバムを持って千早の下に向かった。
「姉ちゃん」
「ん?
なんだ?
お茶ではなくアルバムを持ってきて。」
「アルバム?
少し見たけど僕が写ってないし知らない女の人いるよ?」
「ああ、この小さいのは私だが何か?」
「違う違う、姉ちゃんをだっこしているこの女性だよ。」
「それはな、私と貴様の母親だ。」
「え?」
「私の母親でもあり貴様の母親でもある。」
「よくわかんないんだけど。」
「ならば話してやろう。
貴様は父さんの事は知っているな?」
「うん。
もう死んじゃったけど。」
「母さんはな?
貴様が産まれた日に死んだ。」
「!?」
回想
「ねーねーおかーさーん。
わたしにおとうとができるの?」
「うん。
もう少しで千早にも弟が出来るわよ。」
千早の母は千早に優しく言った。
「子供が産まれたら四人家族だ!
僕も、忙しくなるぞ。」
「たのしみだね。
おとうさん。
おかあさん。」
「ええ。
っ…!!」
母の方に陣痛が来た。
いよいよ、産まれるときが来た、母の出産予定日はこの日の翌日の筈だったがもう限界が来ていた。
それなのに赤ん坊は産まれる気配がなく、帝王切開をすることになった。
「波奈崎さん、帝王切開をしないと赤ん坊は外に出られない状態です。」
この医師の一言によって…
千早の母は素直に頷いた。
それから十時間後に…
「え…
おかあさんが…
しんだ!?」
「はい…
本当に申し訳ございません…
しかし、あの人の命と引き換えのお子さんは産まれました。」
こうして優輝は無事に産まれたのだが…
千早は知らなかった。
裏で母の死は何者かに仕組まれて居た事に…
それから十年後
「え…
嘘だよね?
姉ちゃん?
父さんの会社が…
潰れるなんて…」
「まるで意味がわからんぞ!?
何故父さんの会社が倒産せねばならぬ!?」
そんな時
「波奈崎さーん?
借金、今日こそ返してもらいますぜ?
返済できないなら、どうなるかわかってますよね?」
父親が子供たちに内緒でサラ金に手を出していたのだ。
会社は送り主不明のウイルスのせいで倒産に追い込まれ、さらには借金に手を染めた。
そのせいでさらに一年後
「さあ、行きますよ、波奈崎さん。」
「すまない、チハ、優輝、でも約束する、必ず帰ってくるからな。」
千早の父親は借金取りにどこかにつれていかれてしまった。
「父さん!
ダメだよ!
行かないで!」
「黙れ、ガキ、お前も連れていくぞ?」
借金取りの一人がそう言うと
「私の子供には、手を出さないでくれ。
これは私と貴殿方の問題でしょう?」
「話が分かるじゃないか。
さあ、行くぜ。」
こうして連れていかれた。
この時千早は気づいていなかった。
父親は、権力によって抹消された事を、彼女は後にそれを知って、当時の最高責任者から、権力を奪い取ったのだ。
それも、堂々と、真っ正面から立ち向かって…




