プロローグ
視界に広がる広大な都市。
皇国に存在する七つの都市。
六英雄の名を持つ第一から第六までの都市に加え、名を持たぬ番外都市。
それぞれが高い独立性、自治性を持ち、しかして群れとして一つの皇国を成す。
俺は今その中の一つの風景を眺めていた。
目前に広がるのは第三都市――皇国の未来を司る都市である。
国の行く末を担う若者達を育成する学園都市、それが第三都市だ。
周囲は青々とした草原であり、都市の強い生命力を現しているかのよう。
戦乱が終わり若者の命が失われることがなくなり、この学園都市の人口は爆発的に増え続けている。
今では都市が一個の生命のように膨張を続けていると言う。
成る程確かに、俯瞰してみると有機的な線――それは人の営みの証――を描いている。
そこに突き刺ささる無機質な直線。
この都市には<時計塔>と呼ばれる超巨大建築物が聳えている。
遥か昔から存在しており、生きる歴史<魔女>すらも
それがいつからあるのか知らないのだそうだ。
名前の由来は単純明快で、その塔には無数の時計が備えられているのだった。
文字盤も大きさも針の数も形すらもバラバラのそれらは、唯一の例外を除き時を忘れている。
そしてその例外、<標準時計>がこの都市の時間を支配しているのだ。
<標準時計>が十二の文字を刻む。
鈍い金属音が連続して響き――都市外にすら聞こえ、腹に響くのだから音量の大きさは推して知るべし――、時刻を知らせる。
十二時になったということは即ち約束の時刻まで間もないということだ。
「ふぅ……」
ため息を一つ。
厄介な事になったと思う。
しかし同時に有難いとも思う。
自分は剣だ。
出来るのは戦いだけだ。
戦乱で英雄と呼ばれた。
六英雄の再来。冗談じゃない。
俺は自覚している。
俺の本質は英雄などではない。
ただ剣を持ち、剣となり、敵を討ち滅ぼす。ただそれだけだ。
偶々俺の敵と人々の敵が一致していただけであって、誰かを守ったりましてや英雄のように人を導くことなど決して出来ない。
そして俺は、行き場をなくした。
戦争が終わった時、戦うことしか出来ない人間の道は限らられている。
空虚を抱え争いの再来を望み己と周囲に流血を強いるか、精神を腐敗させやがて肉体すらも朽ち果てさせるか、あるいは両方か。
ただ、別に戦争が終わったところで元来特別戦が好きな訳ではないし、復興の最中、仕事などいくらでもある。
喜ばしいことに軍人は最早用なしだが、男手の必要な仕事など三歩歩けば見つかる。
そもそも自慢じゃないが軍でも一二を争う力を持っているのだ、軍縮するといっても俺が居座るポストはいくらでもあるだろう。
だから俺が行き場をなくしていたのはもう一つの問題が大きい。
『学園に来なさい』
行き場をなくしていた俺には有難い提案だった。
意図はわからないが、大きな問題を抱える俺には他に選ぶ道はなかっただろう。
――もう一つの、問題とは。
掌を見る。
剣ダコ、修練の証――なし。
傷一つなく、綺麗な掌。
剣を振るっていたとは信じられず、まるで深窓の令嬢のそれ。
身体を見る。
敵を討ち滅ぼすための鍛え上げた肉体――なし。
刻まれた無数の傷即ち修羅場を潜り抜けた歴史そのもの――なし。
筋肉はなく、傷もなく、平坦で華奢な、触れれば折れてしまいそうな肉体。
「なんでだ……」
頭を抱え歯軋りしながら元凶――そいつはこの世に存在せず、そして斬ったのは自分だが――を呪う。
手に触れる感触はさらさらと引っかかりのない生成りのような髪。この感触が余計俺を苛立たせる。
何故俺が、戦乱の英雄――認めたわけじゃないが――と言われる俺が。
こんな。
こんな。
こんな!
「小娘になってるんだァァァアアア!!」
怨嗟の絶叫が響き、しかして世は無常。
答えなどなく草原に吹く風にかき消されたのだった。
という訳で彼女の話が始まります。
<竜殺し>だとか戦乱だとかの単語が出てますが、実際にはそんな重い話にはならない予定。
学園で亜人だとかロリババァだとか妹だとかとイチャイチャして時たまシリアス…な感じになったらいいなぁ。
という訳で良しなに。




