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About a girl 12

すみません。

遅れました。

久しぶりの投稿です。

「はい、海藤です」



「海藤さん!金座です!どういうつもりなんですの?ウチの進になんてこと!」


 金座さんの金切声が鼓膜を突き、思わず携帯電話を耳から離す。


「すみません。双島が大変失礼しました。双島も反省しております」


 光希が失礼なことをしていない訳がない。本人にはその意識がないだろうけど。


「進が!死んじゃうわ!死んだら絶対許しませんからね!」


「死ぬ、とはどういうことですか?」


 もう、この手の話はうんざりだ。


「帰って来てから、何も口を利かないの!泣いた跡があったわ!訳を聞いても死にたい、としか言わないのよ!どうなってるのよ!こっちが聞きたいわ!旦那に言ってランドランド製薬さんとの関係を考えてもらうよう言ってやるわ!」


「ちょ、ちょっと待ってください。分かりました。今からそちらにお伺いします。私が直接、進さんに聞いてみます」


「来てもらっても何をするって言うの!」


「同じ男ですから、私の方が話易いと思いますよ」


 しばらく無言が続いた。


「分かりました。お待ちしておりますので、早く来てください」


 通話が切れた事を確認し、深い息を吐いた。

 光希を帰しておいて正解だったな。光希ならば進さんを殴りに行きかねない。

 俺は再度、身支度を整えて金座宅へ向かった。面倒だが、仕方がない。無関係なランドランド製薬さんに迷惑をかける訳にはいかないだろう。しかし、ランドランド製薬って。光希の親父さん、それはないわぁ。



「お待ちしておりましたわ!早く進の元へ行って頂戴な!」


 金座さんは目を吊り上げて、到着したばかりの俺を急かした。

 二階へ上がり、進さんの部屋の前へ立ち、ノックする。


「進さん。海藤です」


 無言。


「入りますね」


 俺は一言断ってから、用心深くドアを開ける。

 相変わらず、カーテンを閉め切り暗室のような部屋だ。ただし、昼間来た時よりも暗かった。

 部屋の電気が点いておらず、フィギュアを入れたガラス棚の蛍光灯が、淡くフィギュアを照らしているだけだった。


「ああ、海藤さん。なんか用?」


 フィギュアを眺めた進さんが、俺を一瞥した。

 目は焦点があっておらず、抜け殻のようだった。


「いえ、ウチの双島がご迷惑をお掛けしてすみません」


 俺は、誠意を込めて謝る。表面上の誠意だけど。

 光希の名前を出すと、一瞬進さんの肩が強張った。


「いいよ。もう。みつきちゃんの言ったことは正しいよ」


「え?なんと言ったんですか?」


「聞いていないのかい?『お前は生きる価値が無い。すぐ死ね』だって。ママに言えないよ、そんなこと。でも本当、その通りだよ」


 酷い事を言う女だ。俺は、進さんに同情した。


「そ、そんなことを言いましたか」


「心底分かったよ。ツンデレというのはフィクションだから許せるんだよ。プログラムされた道筋からこっちはデレが来ると分かっているから許せるんだよ。リアルだと、デレが来る確証も僕の器量もないから、こっちの精神が持たないよ」


 光希はツンデレなのだろうか。単に頭が可哀想な奴だと思っていた。


「その分、フィギュアは良い。僕を傷つけない。不変の青春を与えてくれるんだ」


 進さんは、恍惚の表情でフィギュアを眺めた。


「面白いですか?それ」


「面白いし、楽しいよ」


 虚ろな目で進さんは答える。


「本当に?では、どうしてお母様に死にたいなんて言ったんですか?死にたいということは現状が不満だからでしょう?

打破する手段が死しか見当たらないからでしょう?」


「分かっているよ。でも、僕には死ぬこと以外にはコレしかないんだよ」


 進さんはフィギュアを指で示す。


「フィギュアはただの逃避です。具体的な行動じゃないから死よりもスマートじゃない。苦しみには原因があります。それを断ち切ることが必要です」


 苦しみには原因がある、と手塚治虫先生のブッダが悟っていたから、本当だろう。


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