君と僕の青空の無駄づかい
「青い、青すぎる!」
君は窓の外の透き通るような青空を見上げてはそう叫んだ。
「うん。雲ひとつない快晴だね」
僕は爽快な気分でそう言ったのだけど君は、
「そうだね」
となぜか憎々しく呟くのだった。
「どうしたの?」
と僕は君に尋ねた。
天気が物凄い豪雨とか、じめじめした曇り空の日なら毒づきたくなる気持ちもあるだろうが、今日は気持ちのいいぐらいの快晴なのに。
「良い天気だね」
「うん」
「ムカつくぐらい清々しく良い天気。それなのに私たちはこんな狭い教室に箱詰めにされて繋がれている。これはこの青空の無駄づかいではないかな」
君は窓の外を指さしてそう言った。
君が言った『青空の無駄づかい』という表現が面白くて僕は思わず笑ってしまった。
「なにがおかしい」
「青空の無駄づかいって変なこというなあって思って」
「だってそうだろう? 今日は体育もない――まあ、体育は嫌いだからそれはそれでいいんだけど、だからこの青空を面前に晒されて私達にできることと言えば『良い天気だ』なんていって見上げるだけだ」
君の言わんとしているとこはなんとなくだけど僕にも分かった。確かにこんなにも良い天気なのに机に座学に勤しむだけなんて、どこか遣る瀬無い気持ちにもなる。
「じゃあ君はこの青空のもとで何がしたいの?」
「……何がしたいか?」
君はそう言うと急に黙り込んでしまった。
おそらく君は僕の問いに対する答えを模索しているのだろう。だけど僕自身、僕の問いに対する答えを持ち合わせていなかった。
インドアな僕は晴天だからと言って取り立てすることはなかった。
「うん」
応えがまとまったのか、君はそう言ってまた空を見た。
「青空はいらない」
彼女は高らかにそう言って、
「私に青空は必要ない」
と、次は暗い、陰鬱な調子で言った。
「どうして?」
僕は一応君にそう訊いた。
「例えばいきない『今日は晴天だから学校は休みだ。自由にしろ!』なんていわれたら、そりゃ最初は私も喜んで浮かれると思うけど、いざ考えてみたら、じゃあどうしろって話。どうせ何をするでもなく部屋に閉じこもって無駄に時間を浪費するだけだと思う」
君は訥々と話した。
「むしろ、今日が学校でよかった。もし休日にこんな気持ちのいい日なら『こんな日に私は閉じこもって何をやってるんだろう?』なんて余計自己嫌悪に陥るだけだし」
「はあ……」
君は溜め息をついて、
「BANN!!」
右手をピストルの形に見立てて見えない何かを打ちこんだ。
「何を打ったの?」
空に一筋の雲がいつの間にか現れ、その先に飛行機が飛んでいた。だから君はそれを狙ったのかと思った。
「鉛玉」
君の答えは狙った対象ではなく、発射したもの――ピストルの弾丸そのままだった。
だけどきっと、君はあの青空を消し去るためにその『鉛玉』を打ちこんだんだろう。曇りの空を鉛色の空なんて形容するように。君の『鉛玉』で鉛色の空にしろうとしたんだろう。
ああ、確かにそうだ。
今の僕等にはあの青空は無駄づかいだ。
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