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婚約破棄で追放された悪役令嬢ですが、隣国で『魔道具ネット通販』を始めたら金貨スパチャが止まりません〜私を追い出した王国は経済崩壊しました〜  作者: はりねずみの肉球
第3章:皇帝との契約――「これは戦争より強い武器だ」

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シーン1:【押し寄せる馬車の波】店舗販売はお断り、そして強欲ギルドの襲来

毎日投稿チャレンジ挑戦中です。

20時に投稿しますので、よろしくお願いします。

鼻腔をチリチリと刺激する、生々しい金属の匂いで意識が浮上する。

硬い木製の椅子の背もたれから身を起こすと、バキバキと背骨が悲鳴を上げた。

徹夜での石鹸の追加製造と、狂乱の配信の事後処理。

すっかり冷え切った朝の空気が、破れたドレスの隙間から入り込んで肌を粟立たせる。

重たいまぶたをこじ開け、俺は目の前の作業台に広がる光景にふっと息を吐き出す。


「……夢じゃ、ないよな」


そこにあるのは、物理的な暴力と言っていいほどの『富』だ。

無造作に積み上げられた金貨の山。魔力光を反射してギラギラと自己主張する硬貨の海の中で、一つの小さな丸い影が規則正しい寝息を立てている。

相棒のハリネズミ、ウニだ。

「キュウゥ……、スゥ……」

器用にも金貨を何枚かお腹に抱え込み、まるで財宝を守るドラゴンのようなポーズで熟睡している。

その背中の針が、呼吸に合わせて微かに青く明滅する。

平和な光景だ。

だが、その平和な空間の中心に、周囲の空気を歪ませるほどの圧倒的な質量を持った『異物』が鎮座している。


皇帝レオンハルトから直接叩きつけられた、三本の黄金のインゴット(金塊)。

俺は手を伸ばし、その一本に指先を這わせる。

氷のように冷たい。だが、内側から凄まじい密度の魔力が脈打っているのが分かる。

表面に深く刻み込まれた、双頭の金獅子の紋章。

ヴァルツ帝国の絶対的な頂点からの『もっと見せろ』という強烈なプレッシャーが、指の腹を通して直接脳髄に流れ込んでくるようだ。


「……上等だ。あんたの期待、1000倍にして返してやる」


俺が不敵な笑みを浮かべた、まさにその瞬間だった。


ドドドドドッ! ヒヒィーンッ!!

「退け! 我が伯爵家の馬車が通るぞ!」

「ふざけるな、こちらが先だ! 車輪をぶつけてでも前に出ろ!」

「おい、このボロ小屋で間違いないのか!? 早く扉を開けさせろ!」


外から、地響きのような轟音と、何十人もの怒号が束になって鼓膜を殴りつけてきた。

「キュアッ!?」

ウニが飛び起き、抱えていた金貨をガシャンと落として俺の足元へと転がり込んでくる。

俺はウニを抱き上げ、サビついた窓の隙間からそっと外の様子を窺う。


「……うわぁ」


思わず、素の引きつった声が漏れた。

帝都の外れの、泥と埃にまみれた貧民街の一角。

そこに、アルフェン王国の王城前のパレードですら見たことがないほどの、超高級馬車の長列ができあがっていた。

金箔で装飾された車体、血統書付きの白馬、そして各家の紋章がデカデカと刺繍された軍服のような護衛騎士たち。

彼らが狭い路地に無理やり突っ込んできたせいで、完全な交通渋滞デッドロックを引き起こしている。


馬から降りた身なりの良い執事や、血走った目をした貴族の使い走りたちが、俺の工房の周囲を何重にも取り囲み、今にも扉を破らんばかりの勢いで叫んでいる。


「たのむ! 金貨なら言い値で払う! あの『ラベンダーの石鹸』を一つでいいから売ってくれ!」

「奥様が昨晩から発狂しておられるのだ! 手ぶらで帰れば私の首が飛ぶ!」


(……なるほど。配信の波長の発信源を逆探知して、物理的に押しかけてきたわけか)


俺は窓から離れ、冷たい頭で状況を分析する。

目の前には、金貨の入った袋を振り回す数十人の「買いたい客」。

扉を開けて商品を並べれば、一瞬で暴動が起き、そして莫大な利益が手に入るだろう。

アルフェン王国の商人なら、迷わず泣いて喜ぶボーナスタイムだ。


だが、俺の選択は『否』だ。

店舗販売など、絶対にやらない。


理由は単純。EC(ネット通販)の最大の強みである『飢餓感のコントロール』が崩壊するからだ。

いつでもここに来れば買える、並べば手に入る。そう思われた瞬間、商品の価値は暴落する。

「通信の向こう側にしか存在しない、画面越しでしか奪い合えない圧倒的なレアリティ」。

それこそが、客の理性を吹き飛ばし、金貨スパチャを誘発する魔法の正体なのだ。


ドンッ! ドドンッ!!


ひときわ乱暴に、工房の樫の木の扉が叩かれる。

「開けろ! 中にいるのは分かっている! 帝国商人ギルドの査察である!」


貴族の使い走りたちとは明らかに違う、ドスの効いた、そしてひどく偉そうなダミ声。

俺はウニを胸元に隠し、ゆっくりと扉のカンヌキに手をかける。

ギギィ……と不快な音を立てて扉を半開きにすると、そこには、周囲の貴族の使い走りたちを強引に押しのけて最前列に陣取る、一人の男が立っていた。


はち切れんばかりに太った腹を上質なシルクのベストで包み、十本の指すべてに趣味の悪い宝石の指輪をはめている。

顔は豚のように赤くテカり、鼻をつくような安物のポマードと、キツいニンニクの匂いが漂ってくる。

胸元には、権力の象徴である『帝国商人ギルド・幹部』の金バッジ。


「なんだ、女か。……いや、貴様、その身なりは……」


男は俺の泥だらけのドレスと、煤で汚れた顔を見て、一瞬あからさまな軽蔑の表情を浮かべる。

だが、俺はアルフェン王国で磨き上げた『完璧な公爵令嬢の微笑み』を顔面に張り付け、冷ややかな視線で男を見下ろす。


「ごきげんよう。早朝から随分と威勢のよろしいことで。当工房に何か御用でしょうか?」


俺の堂々とした態度と、底知れない声のトーンに、男はわずかに怯んだように目を泳がせる。

しかし、すぐにギルドの権威という鎧を着直して、尊大な態度で鼻を鳴らした。


「ふん。とぼけるな。昨晩、無許可で妙な通信魔道具を使い、得体の知れない石鹸を売り捌いたのはお前だな? ギルドの許可なくこの帝都で商売をするのは、重罪だぞ」


男の背後で、ギルドの用心棒らしき筋骨隆々の男たちが二人、威圧するように武器の柄に手をかける。

周囲を取り囲んでいた貴族の使い走りたちが「ギルドがしゃしゃり出てきやがった」「面倒なことになりそうだぞ」と、蜘蛛の子を散らすように少しだけ距離を取る。


(……テンプレ通りの脅し文句だな。アルフェン王国の宰相バルディスと全く同じ、既得権益に胡座をかいた豚だ)


俺は内心でため息をつく。

こいつの目的は明確だ。

俺の商売を違法として潰すことではない。ギルドの力で俺を脅し、あの『星屑のラベンダー石鹸』の製造方法と、圧倒的な集客力を誇る『通信システム』を丸ごとタダで奪い取ることだ。


「重罪、ですか。それは恐ろしい。ですが、私はまだ『店舗』を構えて物を売った覚えはありませんが?」


「屁理屈を抜かすな! 実際に金銭のやり取りが発生している以上、立派な商行為だ! 今すぐ工房の中を改めさせてもらう。すべての在庫と、その魔道具をギルドで没収――」


男が強引に扉を押し開けようと、脂ぎった手を伸ばしてきたその時。

俺は、背後に隠し持っていた『それ』を、男の目の前に突きつけた。


ズンッ……!


「ひっ!?」


鈍い光を放つ、巨大な黄金のインゴット。

男の顔面スレスレに突き出されたその圧倒的な質量と、表面に刻まれた『双頭の金獅子』の紋章。

男の動きが、まるで氷漬けにされたように完全に停止した。

額から、滝のような冷や汗がドッと噴き出すのが見える。


「な、ななな……そ、それは……っ!」


「お見せするのも恐れ多いのですが。私は現在、こちらの『特別なお客様』からの直接の御用命により、次期商品の開発に専念しております」


俺はインゴットを片手で軽々と(魔力で身体強化をして)弄びながら、氷点下の微笑みで男の目を射抜く。


「もちろん、ギルドの査察とあらば喜んでお受けいたします。……ですが、その結果として『あの方』への納品が遅れた場合。その責任は、すべて貴方様と商人ギルドが負ってくださるという認識でよろしいですね?」


男の喉仏が、ゴクリと大きく上下する。

背後にいた用心棒たちも、皇室の紋章を見た瞬間に顔面を蒼白にして、数歩後ずさりしている。


「……っ、い、いや、私はただ、その、新参者の手続きに不備がないかと……っ」


先ほどの尊大な態度はどこへやら、男はカエルが潰されたような情けない声を絞り出す。

ギルドの権力が通用するのは、あくまで平民や下級貴族までだ。

帝国の絶対権力者である皇帝の名を出されて、なお食い下がれるほどの度胸も命のストックも、この豚にはない。


「手続きにご懸念をいただき、痛み入ります。ですが、ご心配には及びません。私の商売はすべて、あの『通信の波長ネットワーク』の中だけで完結しておりますので」


俺はピシャリと言い放ち、男から視線を外して、周囲を取り囲む貴族の使い走りたちに向かって声を張り上げる。


「皆様! わざわざ足をお運びいただいたところ大変心苦しいのですが、この工房での直接販売は一切行っておりません! 『星屑のラベンダー石鹸』は、すべて次回の【通信販売】でのみ、数量限定でご提供させていただきます!」


群衆の間から「そんな殺生な!」「いつ通信が始まるんだ!」という悲鳴にも似た声が上がる。


俺はフリップをめくるように、声のトーンを一段階高く、そして煽るように響かせる。


「次回の配信は、明日の夜! 商品は石鹸だけではありません。アルフェン王国の貴族すら見たことのない、皆様の美しさを永遠に閉じ込める『魔法の鏡』を初公開いたします! どうぞ、魔道具の前でお待ちくださいませ!」


バタンッ!

俺は一切の質問を受け付けず、ギルドの男の鼻先で思い切り扉を閉め、重たいカンヌキを下ろした。


「ふぅ……」


扉の向こう側から、どよめきと怒号、そして「すぐに主人に報告だ!」「明日の夜、通信機に張り付けと伝えろ!」という馬車の去っていく音が聞こえ始める。

ギルドの男も、捨て台詞一つ残せずに逃げ帰ったようだ。


「キュイッ!」

胸元からウニが顔を出し、よくやったとばかりに俺の顎をチクチクと小突く。

俺はウニの頭を撫でながら、手の中の黄金のインゴットを見つめる。


「虎の威を借る狐、ってやつだが……効果は絶大だな」


だが、これはあくまで時間稼ぎに過ぎない。

皇帝の紋章を勝手に『盾』として使ったのだ。ギルドの連中がいずれ裏取りに動けば、俺の後ろ盾が何もないことがバレる。

その前に、本物の『契約』をもぎ取る必要がある。


「……来るぞ、ウニ。本当の戦い(ビジネス)の相手が」


俺がそう呟き、作業台の上の散らかった魔道具の配線を整えようとした、その時だった。


――ズパァンッ!!


「えっ」


ノックの音などなかった。

強固なカンヌキを下ろしていたはずの樫の木の扉が、まるで薄い紙切れのように、木っ端微塵に吹き飛んだのだ。

爆発音とともに舞い散る木片と土埃。

「キュアァァッ!?」とウニが悲鳴を上げて俺の首筋に潜り込む。


埃の向こう側。

逆光の中に、一人の男の巨大なシルエットが立っていた。

護衛の姿はない。ただ単騎。

しかし、その場にいるだけで工房の空気がひび割れるような、圧倒的で暴力的なまでの『覇気』。


「ほう。店舗販売そんなものに興味はない、か。見事なハッタリだ。ギルドの豚の顔が青ざめていく様は、極上の喜劇だったぞ」


低く、腹の底を震わせるようなバリトンボイス。

黒の軍服に身を包み、肩から無造作に真紅の外套を羽織った男が、吹き飛んだ扉の残骸を踏み্যাশみにしながら、ゆっくりと工房の中へ足を踏み入れてくる。

獲物を品定めするような、ギラついた黄金の瞳。

口元には、獰猛な肉食獣を思わせる三日月型の笑みが刻まれている。


俺は呼吸をするのも忘れ、その男を見上げた。

昨日、俺が投げ銭の転送陣越しに想像した姿と寸分違わない。

いや、実物の放つプレッシャーは、俺の想像を遥かに超えていた。


ヴァルツ帝国第十三代皇帝、レオンハルト・ヴァルツ。


「さて、面白い見世物(配信)の礼に来てやったぞ、迷子の令嬢。……俺の目を引いた責任、どうやって取ってくれる?」


世界最強の権力者が、たった一人で、追放された悪役令嬢のボロ小屋に現れた瞬間だった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


セシリアのこれからを「応援したい」と感じていただけたなら、

評価や感想を入れていただけると、とても励みになります。


あなたの応援が、この世界をもっと広げてくれます。


次回もぜひ、お会いしましょう。

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