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婚約破棄で追放された悪役令嬢ですが、隣国で『魔道具ネット通販』を始めたら金貨スパチャが止まりません〜私を追い出した王国は経済崩壊しました〜  作者: はりねずみの肉球
第4章:祖国の異変。止まった物流と価格暴騰の足音

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シーン1:【国境を越える絶望】王国の商人どもと、拒絶のバリケード

窓枠の隙間に打ち付けられた木の板の隙間から、白々しい朝の光が暴力的に差し込んでくる。

網膜を直接焼かれるような刺激に、俺はたまらず眉間を指で揉みほぐす。

徹夜の連続で、まぶたの裏が砂を噛んだようにザラザラと痛む。

口の中には濃い目に淹れたハーブティーの苦味がこびりつき、足元からは冷え切った土の冷気がドレスの薄い生地を通して肌を刺してくる。

だが、疲労感よりも、脳内麻薬アドレナリンの分泌量が完全に勝っている。


「……よし。これで五枚目、梱包完了だ」


俺は作業台の上で、最後の一枚となった『純銀ガラス鏡』を、最高級の衝撃吸収用ベルベットで何重にも包み込み、金糸の紐で隙間なく縛り上げる。

指先に伝わる、滑らかな布の感触と、その奥にある鏡の硬質な重み。

アルフェン王国の職人どもが作っていた、少し揺れただけで割れるような脆弱な粗悪品とは違う。魔力で分子構造から強化を施した、物理的な衝撃にも耐えうる完璧な商品だ。


「キュ、キュッ!」


足元の木箱の中では、相棒のウニが、梱包で余ったベルベットの切れ端を寝袋のように体に巻き付け、丸くなってゴロゴロと転げ回っている。

チクチクとした針が布に引っかかり、まるで毛玉のお化けのような姿になっているのが可笑しい。


「おいおい、そんなに布を巻き付けたら前が見えないだろ。……ほら、出てこい」


俺が指先で器用に布を解いてやると、ウニは「キュプッ」と短くくしゃみをして、俺の手のひらに短い前足を乗せてくる。

その愛らしい仕草に口角を緩めながら、俺は梱包を終えた五つの鏡を、順番に『物質転送陣』のトレイの上へと乗せていく。


カチリ、カチリと。

あらかじめ受信盤に記録しておいた、昨晩の購入者五名の『魔力波長』を魔道具にセットする。

「――転送開始センド

俺が起動スイッチを押し込むと、トレイの上に幾何学的な青白い魔法陣が浮かび上がる。

ブォンッ! という空気を切り裂くような低い駆動音とともに、陣の中心が空間を歪ませ、五つの鏡が光の粒子となって次々と虚空へ吸い込まれていく。

オゾンの焦げた匂いが鼻腔をくすぐる。

転送が完了し、陣の光がフッと消え去る。


(これで、昨晩の注文分はすべて発送完了。……帝国貴族どもの館に届いた瞬間、館中の女たちがこの鏡の虜になる)


一度『本物』を知ってしまった人間は、二度と『偽物』には戻れない。

俺が送り込んだ五枚の鏡は、ただの商品ではない。アルフェン王国の鏡の価値を、帝国内で完膚なきまでに破壊するための『ウイルス』だ。


俺が両腕を上に伸ばし、バキバキと背骨を鳴らして強烈なストレッチをしていた、まさにその時だった。


「通せ! 頼む、中に入れてくれ! セシリアお嬢様にお目通りを!」

「下がれ、貴様ら! ここは皇帝陛下直轄の保護区域である! これ以上踏み込めば、不審者として容赦なく斬り捨てるぞ!」


ドンッ! ガチャンッ!


外の路地から、静かな朝の空気を切り裂くような凄まじい怒号と、金属の鎧が激しくぶつかり合う音が響き渡った。

「キュアッ!?」

ウニが驚いて俺の足首にギュッと抱きついてくる。


(……なんだ? また帝国の貴族どもが押しかけてきたのか? 店舗販売はしないとあれほど言ったのに、学習能力がない連中だな)


俺は舌打ちをし、ウニを肩に乗せて、即席のバリケードである分厚い樫の木の扉へと近づく。

扉の中央には、外の様子を窺うための小さな覗きスリットが開けてある。

俺は息を殺し、冷たい木肌に額をこすりつけるようにして、外の光景に片目を向けた。


「……ははっ。なるほど、そういうことか」


俺の唇から、冷酷な笑みが自然と漏れ出す。

扉の外、完全武装した帝国近衛騎士団が構える長槍の穂先の向こう側。

そこに群がり、血走った目で工房に向かって叫んでいるのは、帝国の貴族や豪華な馬車ではなかった。


泥だらけの外套。何日も風呂に入っていないような脂ぎった髪。そして、疲労と絶望で落ち窪んだ目。

彼らの胸元に輝いているのは、見慣れた『アルフェン王国商人ギルド』の銀バッジだ。


「頼む! 我々はアルフェン王国の正規の商人だ! 公爵家で物流を束ねておられたセシリア様に、どうしても、どうしてもお伝えしたいことがあるんだ!」


先頭で騎士の槍の柄にすがりつき、泣き叫んでいる初老の男。

見覚えがある。

東の職人街で、俺が直接交渉してガラス瓶の独占契約を結んでいた商会の元締め、ゴードンだ。

俺が追放される前日、「宰相閣下からの指示で、お嬢様との契約は打ち切らせてもらう」と、手のひらを返して冷たく言い放った男の顔。

それが今や、鼻水を垂らし、膝を地面に擦り付けて無様に命乞いをしている。


「……おかしな話ですね」


俺は扉の覗き穴から視線を外さず、わざと外の騎士たちにも聞こえるよう、冷たく、そしてよく響く声で言い放つ。


「私はアルフェン王国を『国家反逆罪』で永久追放された身。王国の善良な商人様が、私のような大罪人に、一体どのようなご用件でしょうか?」


俺の声が響いた瞬間、外の喧騒が水を打ったように静まり返る。

ゴードンがビクッと肩を跳ね上げ、扉に向かって這いずるように近づいてくる。


「せ、セシリアお嬢様っ! 声が聞けてよかった! ……誤解なのです! 我々は宰相バルディスに脅されて、仕方なくお嬢様を裏切るような真似を……っ!」


「誤解、ですか」


俺は扉越しに、氷点下の相槌を打つ。


「それで? その誤解を解くために、わざわざ国境を越え、不眠不休で馬を走らせてこの帝都までやってきたと? 商人ギルドの皆様は随分と義理堅いですね」


「そ、それは……っ!」


ゴードンの言葉が詰まる。

その後ろに控えていた別の商人が、耐えきれなくなったように悲鳴のような声を上げた。


「お嬢様! どうか、どうか我々をお救いください! 王国の物流が、完全に死にました!」


(……知ってるよ。昨日、皇帝の密偵からの手紙でな)

俺は内心で鼻で笑いながら、あえて無知を装って聞き返す。


「死んだ? おかしなことを言いますね。王国の物流網は、宰相バルディス閣下が『正常な状態』に戻し、完璧に管理されているはずでしょう?」


「ぜ、全部嘘っぱちです! あいつらは、書類の上の数字しか見ていない無能の集まりだ! お嬢様が消えた翌日、北の鉱山が『セシリア様がいないなら交渉には応じない』と供給を全面ストップしました!」


「ええ」


「東の職人たちも、材料が入らない上に、宰相が不当に買値レートを下げてきたことに激怒して、一切の仕事を放棄しています! 港に停泊している輸出用の船には、荷物が一つも積まれていないんです!」


商人の悲痛な叫び声が、帝都の冷たい朝の空気に虚しく響き渡る。

俺の脳内で、彼らが語る『数字』と『現象』が、パズルのピースのように完璧に組み合わさっていく。


「結果として、王都の市場からは一夜にして商品が消え去りました。石鹸も、鏡も、香辛料すらも……価格はすでに十倍を突破し、それでも買えない平民たちが暴動の準備を始めています!」


ゴードンが扉にすがりつき、ガタガタと震える手で木板を叩く。


「お嬢様! 帝国の貴族から巻き上げた資金があるのでしょう!? どうかその金で、我々から『在庫の余り物』でも何でもいい、買い取ってください! あるいは、あの素晴らしいという『純銀の鏡』を我々に卸してはくれませんか! それを王国に持ち帰れば、我々の商会は助かるんです!」


(……図々しいにも程があるな)


俺は冷ややかな視線で、扉の向こうの醜悪な懇願を見下ろす。

自分たちが裏切って追い出した女の成功にすがりつき、あわよくばその商品を国に持ち帰って、暴騰した市場で一儲けしようとしている。

どこまで行っても、こいつらの頭にあるのは目先の利益だけだ。

国家の危機だの、暴動だのと言いながら、本質的には宰相バルディスと何一つ変わらない。


「ガラン隊長」


俺は扉から顔を離し、外を警備している近衛騎士の隊長に向かって、静かに、しかし絶対的な命令のトーンで声をかける。


「はっ。ここにおります」


「その薄汚れたネズミどもを、今すぐ私の店の前から排除してください。……私の『星屑のラベンダー石鹸』の高貴な香りに、嘘吐きどもの泥の臭いが混ざってしまいますので」


「なっ……!?」

「お嬢様!? 見捨てるおつもりですか! あなたにもアルフェン王国の血が流れているはずだ!」


ゴードンが絶望の声を上げるが、俺の心には一ミリの同情も湧かない。


「祖国を捨てる? 違いますよ、ゴードン」


俺は扉の板を、内側から拳でゴンッ! と一度だけ強く叩き返す。

その音に怯んだ商人たちに向かって、地を這うような冷酷な声で宣告する。


「私を捨てて、自ら泥舟に穴を開けたのはお前たちだ。……沈みゆく船の乗客に、私の商品を卸す義理はない。とっとと王国に帰り、無能な王太子と宰相の首根っこを掴んで、自分たちの愚かさを呪いながら沈んでいきなさい」


「ひっ……!」


「ガラン隊長、やれ」


「はっ! 総員、槍を構え! この不審者どもを帝都の大通りまで強制排除しろ! 逆らう者はその場で斬り捨てて構わん!」


ガチャカチャカチャッ!!

重装甲の騎士たちが一斉に槍を突き出し、無慈悲な前進を開始する。

「ぎゃあああっ!」「や、やめてくれ! 撃たないでくれ!」という商人たちの悲鳴と、逃げ惑う足音が急速に遠ざかっていく。


静寂が、再び工房の周囲に戻ってきた。

俺は扉から離れ、大きく背伸びをする。

肩に乗っていたウニが、俺の頬にすりすりと顔を寄せてくる。


「さて。王国の崩壊スピードが、予想以上に早いな。これは、悠長に商品を一つずつ売っている場合じゃないかもしれない」


俺は作業台の上に戻り、次なる『劇薬』のレシピを頭の中で高速で組み立て始める。

王国の経済が完全に死に絶える前に、帝国の市場を俺の商会システムで完全に支配し尽くす。

そして、王太子アルベルトが泣き叫びながら俺に通信を繋いでくるその瞬間に、最大のカタルシス(絶望)を叩き込むための、最凶の舞台装置の準備だ。


「さあ、ECの真骨頂。……『サブスクリプション(定期購入)』と『美容液』の概念で、帝国貴族の令嬢たちを、完全に俺の商会の奴隷にしてやろうか」


俺の邪悪な笑みは、差し込む朝の光の中でも隠しきれないほどに深まっていた。

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