第85話 制御不能のダイブと、現場の荒療治
ゴオオオオオッ!!
私たちは、崩壊する吹き抜けを真っ逆さまに落下していた。 重力が内臓を押し上げる不快感。 周囲には、同じく落下していく瓦礫や、暴走したセキュリティ・ドローンの群れが漂っている。
邪魔だぁぁッ! イグニスが空中で身体をひねり、迫り来るドローンを蹴り飛ばす。 その反動を利用して、落下速度を加速させる。
コーデリア様、頭上注意! ランスロットが叫ぶ。 上から、巨大な「コンクリートの塊」が降ってくる。現実世界のビルの残骸だ。
切ります! アーサーが空中で剣を構える。 【社畜剣技・分割払い(スプリット・スラッシュ)】! 一閃。 巨大なコンクリート塊が真っ二つに割れ、私たちの左右を通過していく。
ナイス、アーサー! 私はガラハッドの背中で叫ぶ。
床が見えてきたぞ! イグニスが叫ぶ。 最下層だ! 衝撃に備えろ!
イグニス、クッションを! ガラハッド、防御障壁全開!
おうよ! 【爆炎・着地】! ガラハッド、行きます! 【聖騎士・絶対防御】!
イグニスが地面に向けて爆風を放ち、逆噴射のように減速をかける。 同時にガラハッドが全身を発光させ、私たちを包み込む。
ズドォォォォォン!!
激しい衝撃が走り、私たちは最下層の床を転がった。 瓦礫の山に突っ込み、砂埃まみれになって止まる。
ゲホッ、ゲホッ……。 生きてるか、みんな!
なんとか……。 私は身体を起こした。 全身が痛むが、骨は折れていないようだ。 ガラハッドが身を挺して守ってくれたおかげだ。
ここが、動力炉か。 スカーレットが周囲を見回す。
そこは、灼熱の蒸気が噴き出す機関室だった。 だが、その動力炉の姿は異様だった。 魔力を精製するクリスタルの周囲に、現実世界の「巨大なタービン」や「冷却パイプ」が無秩序に融合し、融合炉のような禍々しい光を放っていたのだ。
『警告。炉心溶融の危険性あり。』 『推進制御不能。』
システム音声が警告する。 炉からは赤黒いスパークが飛び散り、近づくだけで肌が焼けるような熱気だ。
これを止めて、軌道をずらすなんて……どうすればいいのよ。 操作パネルは破壊されているし、私の管理者権限(右腕)も今は使えない。
簡単だろ、社長。 イグニスが立ち上がり、軍手をはめ直した(どこで拾ったのか、それは現実世界の黄色い軍手だった)。
機械が暴走してるなら、元を断てばいい。 物理的にな。
イグニスは、真っ赤に熱せられた巨大なバルブに歩み寄った。
おい、触る気か!? 手が溶けるぞ! スカーレットが止める。
関係ねぇ! この配管が右側のスラスターに繋がってやがる。こいつを無理やり閉じて、左側だけ吹かせば……城は右に傾く!
イグニスが灼熱のバルブに手をかけた。 ジュウウウッ! 肉が焼ける音が響く。
ぐ、オオオオオッ!! 気合だぁぁぁッ!!
イグニスの腕から炎が噴き出し、バルブの熱を相殺しようとする。 だが、バルブは錆びつき、融合した金属が固着していて動かない。
硬ぇ……! ガンテツ親父の頭より硬ぇぞ、こいつ!
私も手伝います! ガラハッドが反対側に回り込み、バルブを押し込む。 アーサー、ランスロット! 君たちは配管の接続部を叩いて、金属疲労を起こさせてくれ!
了解! アーサーとランスロットが配管を剣で叩きまくる。 カンカンカンカンッ! 精密な剣技を「叩き作業」に使う贅沢さ。
動け、動けぇぇッ! 居住区には、ミナもマナも、サキョウの旦那もいるんだ! あいつらの頭の上に、こんな鉄屑落とせるかよォォッ!!
イグニスの全身が真っ赤に発光する。 限界を超えた馬鹿力。 現場の底力。
ギギ……ギギギ……ッ! 固着していたバルブが、悲鳴を上げて回り始めた。
回った!
イグニス、あと少し! 私も駆け寄り、動かない右手の代わりに左手でバルブを押し込んだ。
うおおおおおッ!!
ガコンッ!! バルブが完全に閉まり、右側の推進機関へのエネルギー供給が遮断された。
よし!
その瞬間、城全体が大きく傾いた。 グググググ……! 遠心力で身体が壁に叩きつけられる。
軌道が変わった! 窓の外を見ると、眼下に迫っていた地下帝国の居住区が、斜めに遠ざかっていくのが見えた。 城は居住区を逸れ、その先の広大な「未開拓エリア(荒野)」へと向かっている。
成功だ……! でも、墜落は避けられないわ!
『衝突まで、あと30秒。』 『総員、耐衝撃姿勢をとってください。』
来るぞォォッ!! 何かに掴まれ!
私たちは互いの腕を組み、部屋の隅にある太いパイプにしがみついた。 ガラハッドが最後の力を振り絞り、防御障壁を展開する。
神様……いや、総理はいなくなったんだったわね。 なら、運命様! ここまでやったんだから、生き残らせなさいよ!
私は祈るように叫んだ。
そして、世界が揺れた。
ズドオオオオオオオオオオオオン!!!
鼓膜が破れそうな轟音。 視界が真っ白になり、天地がひっくり返るような衝撃が私たちを襲った。 意識が、白い闇の中へ飛ばされていく。




