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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生


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第8話:その森、セキュリティレベル高につき

「な、なんなのだこれはぁぁっ!!」


《死の森》に侵入してわずか30分。 クリフォード王子の絶叫が木霊した。


彼ら討伐隊50名は、同じ場所をグルグルと歩き回っていた。 進んでも進んでも、気づけば入り口の「枯れ木」の前に戻ってきてしまうのだ。


「クリフォード様ぁ、足が痛いですぅ……」 「くそっ! どうなっている! 地図では直進のはずだぞ!」


後ろをついて歩くライオネル公爵は、心の中で冷ややかに解説を入れた。


(……空間転移のループリダイレクトか)


これはコーデリアが仕掛けた《無限回廊》。 特定の座標に足を踏み入れると、自動的に入り口へ転送される単純かつ凶悪な術式だ。 システム的に言えば、リンク先が自分自身に設定されている「無限ループ」である。


ライオネルは、密かにコーデリアから教わっていた「正規ルート(管理者パスワード)」を知っていたが、当然黙っていた。


「殿下、どうやら強力な幻惑魔法のようです。ここは私が先行して道を探りましょう(嘘)」 「おお、頼むぞライオネル! さすがは我が国の騎士団長だ!」


ライオネルは適当に剣を振り回して草を刈るフリをしながら、少しずつ彼らを「より酷い罠」の方へと誘導していった。



「ゼェ……ハァ……。やっと抜けたか……」


数時間後。 ループを抜け出した(ライオネルがわざと解除した)一行の前に、巨大な岩のゴーレムが立ち塞がった。 身長5メートル。その胸部には、奇妙な石板が埋め込まれている。


「魔物か! 総員、戦闘態勢!」


騎士たちが剣を構える。 しかし、ゴーレムは攻撃してこない。代わりに、機械的な音声を発した。


『警告。これより先はプライベートエリアです。アクセス権限を確認します』 『認証(CAPTCHA)を開始。……以下の画像の中から、《信号機》が含まれるパネルを全て選んでタッチしてください』


ゴーレムの胸の石板に、9枚の絵が表示された。 そこには、この世界には存在しない「信号機」や「横断歩道」の絵が描かれている。前世の知識があるコーデリアにしか解けない無理ゲーだ。


「し、信号機……? なんだそれは!?」 「わ、わかりません! 多分、この赤くて光ってるやつですわ!」


アリスが適当にパネルを叩く。


『認証失敗。――アクセス拒否(Access Denied)』


ブォンッ!


ゴーレムの腕が旋回し、強烈な風圧が発生した。 それは攻撃ではない。ただの「送風」だが、ヘアセットを命よりも大事にするアリスにとっては致命的だった。


「きゃああああ! 私の巻き髪がぁぁぁ!」 「アリス! おのれゴーレムめ!」


王子が剣で斬りかかるが、ゴーレムの装甲はダイヤモンド並みに硬い(物理防御力:無限)。 剣がカキンと折れた。


「なっ……!?」


『不正なリクエストを検知。一時的にアカウントをロック(物理)します』


ゴーレムが手を叩くと、地面から鳥もちのような粘着スライムが大量に噴出した。 騎士たちの足が地面に張り付く。


「うわぁっ! 動けん!」 「ネバネバするぅ! 気持ち悪いですぅ!」


阿鼻叫喚の地獄絵図。 その横を、ライオネルだけが「おっと、危ない」と華麗なステップで回避していた。 (コーデリア……君の性格の悪さ(セキュリティ意識の高さ)には惚れ惚れするよ)



一方、森の奥のログハウス。 私は空中モニター(監視ログ)を見ながら、ポップコーンを食べていた。 足元ではリュカも「ワフッ(ざまぁ)」と笑っている。


「ふふん。第1層の《ループ》と第2層の《物理CAPTCHA》で、もう精神力メンタルゲージが赤色ね」


画面の中では、泥とスライムまみれになった王子と聖女が、お互いに責任を擦り付け合って喧嘩を始めている。


「でも、そろそろ通してあげましょうか。ここからが本番メインイベントだもの」


私は指先でコンソールを操作し、最終防衛ラインを解除した。



「……見えたぞ! あの家だ!」


満身創痍のクリフォード王子が叫んだ。 森が開け、美しいログハウスが姿を現す。 そこには、優雅にティーカップを傾けるコーデリアと、その足元でくつろぐ巨大な銀狼の姿があった。


「コーデリア! 貴様、よくもこれほどの狼藉を!」


王子が怒りに震えて怒鳴る。 アリスも、泥だらけのドレスでヒステリックに叫んだ。


「ひどいですわ! 私たち、ただわんちゃんを助けに来ただけなのに!」


私はカップをソーサーに置き、ゆっくりと立ち上がった。 そして、営業用スマイル全開で小首を傾げる。


「あら、皆様。ボロボロですね。森でのハイキング(遭難)は楽しんでいただけましたか?」


「ふざけるな! その聖獣を返してもらおうか! 貴様のような魔女に飼われるなど、聖獣への冒涜だ!」


王子が一歩踏み出す。 すると、リュカがむっくりと起き上がり、王子の目の前で大きくあくびをした。


「グルル……(うるさいハエだな)」


そして、リュカは私に擦り寄り、ゴロンと腹を見せた。 「撫でろ」の合図だ。私がワシャワシャと腹毛を撫でると、伝説の魔獣は「くぅ~ん」と甘えた声を出し、尻尾をブンブンと振った。


「……え?」


王子たちが呆然と立ち尽くす。 虐げられているはずの聖獣が、どう見ても「デレデレの愛犬」にしか見えない。


「ご覧の通り、懐いてますけど? 『助けて』って、どこの幻聴バグですか?」


私が冷たく言い放つと、アリスが顔を真っ赤にして叫んだ。


「そ、それは洗脳ですわ! 闇魔法で操っているに決まってます! 聖獣様、今助けてあげますからねぇ!」


アリスが杖を掲げ、聖属性の魔法を放とうとした、その時だった。


「――控えよ」


凛とした、だが絶対的な威圧感を持つ声が響いた。 それまで空気のように気配を消していたライオネル公爵が、私の前にスッと立ちはだかったのだ。


「ラ、ライオネル? 何をしている、そこを退け!」


「退かぬ。……これ以上、私の《婚約者》に狼藉を働くなら、王族と言えど斬る」


「……は?」


場が凍りついた。 コーデリアも、王子も、アリスも、全員が「は?」となった。


「こ、婚約者……だと……?」


「いつの間に!?」


「えっ、私聞いてないですけど!?」


私のツッコミを無視し、ライオネルさんは抜剣した。その背中は、今まで見たどの瞬間よりも大きく、そして頼もしく見えた。


「コーデリア嬢は、王宮の激務で荒んだ私の心を救ってくれた唯一の女性だ。彼女の平穏を乱す者は、私が全て排除デリートする!」


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