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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生


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第5話:トラブル(元婚約者)からの通知は、スパム扱いで

「……朝か?」


ライオネル公爵が目を覚ました時、窓の外はすっかり夕焼けに染まっていた。 朝どころではない。彼は丸半日、泥のように眠っていたのだ。


「信じられん……。この私が、一度も目を覚まさずに熟睡するとは」


重かった肩は羽が生えたように軽く、慢性的な頭痛も嘘のように消え失せている。 彼は自身の掌を見つめ、戦慄した。 あのハーブティー。そしてあのトマトスープ。 あれはただの料理ではない。国家機密レベルの《回復魔術》そのものだ。


「彼女は、一体……」


公爵が窓の外に目を向けると、そこには信じがたい光景が広がっていた。


「よいしょ、っと。整地フォーマット完了!」


コーデリアが指先を振ると、ボコボコだった庭の土が一瞬で平らにならされ、綺麗にうねが作られていく。 鍬も鋤も使っていない。土魔法を《土木工事重機》のように精密操作しているのだ。 その横では、伝説のフェンリルが尻尾を振りながら、種まきを手伝っている。


「……規格外すぎる」


公爵が呆然と呟いた、その時だった。


ガササッ!


森の静寂を破り、粗暴な足音が近づいてきた。 リュカが作業の手を止め、低く唸る。 現れたのは、王家の紋章が入った鎧を着た数名の騎士たちだった。


「いたぞ! 悪役令嬢コーデリア!」


先頭に立つ騎士が、無遠慮に庭へと足を踏み入れる。 その顔には、あからさまな侮蔑の色が浮かんでいた。


「クリフォード殿下より通達だ! 『辺境で反省しているか確認してこい』とな! おい、なんだそのみすぼらしい格好は。土いじりとはお似合いだな!」


騎士たちが下卑た笑い声を上げる。 公爵が眉を寄せ、加勢しようと腰を浮かせた――が、それより早く、コーデリアが動いた。


彼女は種まきの手を止め、冷ややかな目で騎士たちを見下ろした。 その目は、理不尽な仕様変更を要求してきたクライアントを見る、死んだ魚のような目(SE・アイ)だった。


「……事前の予約アポイントは?」


「あ? なんだと?」


「アポなし訪問はお断りしております。それと、敷地内への無断侵入はセキュリティポリシー違反です」


「何を訳の分からんことを! 我々は殿下の名代だぞ! 貴様のような罪人に人権など――」


騎士が剣に手を掛け、コーデリアに歩み寄ろうとした瞬間。


「対話不能と判断。――強制排除キックします」


コーデリアがパンッ、と乾いた柏手を打った。


ズズズズズ……!


地面が鳴動する。 騎士たちの足元の土が、まるで生き物のように盛り上がり、彼らを飲み込む――のではなく、ベルトコンベアのように高速で後ろへと流れ始めた。


「な、なんだこれは!?」 「足が、勝手に……!?」


土魔法・応用術式《自動搬送路ベルトコンベア》。 本来は荷物を運ぶための魔法だが、彼女はそれを「逆再生」で発動させたのだ。 騎士たちは必死にコーデリアへ向かおうと走るが、地面が猛スピードで森の入り口へとスライドしていくため、その場から一歩も進めない。


「ちょ、待て! 止まれぇ!」 「帰り道はこちらです。お気をつけて」


コーデリアが指をくいっと振ると、コンベアの速度が倍になった。


「うわあああああ!!」


哀れな騎士たちは、そのまま森の彼方へと高速で運ばれていった。 まるで、迷惑メールがフィルタリング機能によってゴミ箱へ直行するように。


「ふぅ。業務妨害ね」


何事もなかったように農作業に戻ろうとするコーデリア。 その一部始終を見ていた公爵は、窓辺で震えていた。


(……魔法の詠唱もなしに、あれほど複雑な術式を……?)


圧倒的な実力。 にもかかわらず、彼女はそれを誇示することなく、ただ静かな生活を守るためにのみ行使している。


「……素晴らしい」


公爵は、思わず窓を開けてウッドデッキへと出た。


「あ、起きたんですね。おはようございます」


コーデリアが気安く手を振る。 公爵は彼女の元へ歩み寄り、その手を取った。


「コーデリア嬢。君に、折り入って頼みがある」


「はい? 野菜ならまだ収穫前ですけど」


「違う。……私を、雇ってくれないか」


「……はい?」


コーデリアが今日一番の間抜けな声を出した。 公爵は真剣な眼差しで続ける。


「君のこの生活スローライフを、全力で支援したい。魔物の駆除でも、力仕事でも、金銭的援助でも何でもしよう。その代わり――」


彼は少しだけ頬を染め、視線を逸らした。


「……週末だけでいい。ここで、君のご飯を食べて、あの茶を飲んで、眠らせてほしい。……もう、王宮のベッドでは眠れそうにないんだ」


それは、国一番の権力者による、事実上の「通い夫」宣言だった。 しかし、恋愛偏差値がバグり散らかしている元社畜のコーデリアには、別の意味にしか聞こえなかった。


(なるほど……。この人、激務すぎて癒やし(サードプレイス)を求めているのね。カフェの常連さんみたいなものか)


「いいですよ。お部屋も余ってますし」


「本当か!?」


「ええ。その代わり、たまに畑仕事を手伝ってくださいね。人手が足りなくて」


「ああ、喜んで! この筋肉も魔力も、すべて君のために使おう!」


こうして。 《最強の悪役令嬢》と《伝説の聖獣》が住む家に、《過労死寸前の冷徹公爵》という新たな住人(週末限定)が加わった。

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