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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生


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第30話:招かれざる客は、ネタバレ(予言)を口ずさむ

異端審問官ゼクスの襲撃を退け、私たちは《装甲馬車マイホーム号(ドワーフ製・対衝撃サスペンション付き)》で北の荒野をひた走っていた。


車内には、重苦しい空気が流れている。 原因は、私の膝の上でスヤスヤと眠っている少女、ルミだ。


「……チーフ。その子は、本当にただの遭難者ですか?」


助手席のアーサーが、バックミラー越しに疑いの眼差しを向けてくる。


「さっきの戦闘、どう見てもおかしいです。ゼクスの放った《アンチウイルス・ファイア》は、物理干渉を無視してデータを焼く炎でした。それを、あんな小さな子が『睨んだだけ』で無効化するなんて」


「わかってるわ」


私はルミの銀色の髪を撫でた。 彼女の寝顔は無防備そのものだ。だが、私の《鑑定眼》をもってしても、彼女のステータスが表示されない。 【Name: Lumi / Status: Protected】 まるで、システム領域にある重要ファイルのように、アクセスが拒否されている。


「……彼女が『バグの種』なのか、それとも『バグを抑制する鍵』なのか。今は情報が足りないわ」


「もし彼女が、運営が送り込んだスパイだとしたら?」


「その時は、私が処理する。……でも今は、震えている子供を見捨てるわけにはいかないわ」


私がそう言うと、ルミが寝言のように小さく呟いた。


「……ううん、ちがうよ。……カミサマは、もうみてるよ……」


その言葉に、背筋がゾクリとした。 彼女は眠ったまま、虚空を見つめているような気がした。



日が暮れ、私たちは岩陰で野営キャンプをすることになった。 焚き火を囲み、レトルトのシチューを温める。 ルミは目を覚ますと、驚くべき食欲を見せた。


「おかわり!」


「え、もう3杯目だけど?」


小さな体のどこに吸い込まれていくのか。彼女は私の作ったシチューをブラックホールのように吸い込み、ケロッとしている。 食料リソースの消費速度が異常だ。


「……ごちそうさまでした」


満腹になったルミが満足げに笑った、その時だった。


ジャラン……♪


静寂な荒野に、不釣り合いな弦楽器の音が響いた。


「敵襲!?」


ライオネルさんが即座に剣を抜き、社畜騎士たちがアタッシュケース型魔導具を構える。 私たちは《認識阻害結界》の中にいるはずだ。外部からは見えないし、音も漏れないはず。 なのに、音は結界の「内側」から聞こえてきた。


「おや、物騒だねぇ。美味しい匂いに釣られただけの、しがない旅人だよ」


焚き火の向こうの闇から、一人の男がぬらりと現れた。 糸のように細い目。飄々とした笑み。 手には古びたリュートを持った、吟遊詩人だ。


「貴様、いつの間に結界の中に……!」


ライオネルさんが剣先を向けるが、男は動じない。


「結界? ああ、この薄い膜のことかい? 『入れ』って書いてあったから、つい」


「書いてあるわけないでしょ! 最高レベルのセキュリティよ!」


私が叫ぶと、男は「おっと失礼」と肩をすくめた。


「自己紹介が遅れたね。僕はエルモ。物語ログを拾って歩く、ただの詩人さ」


エルモは私の顔を覗き込み、ニヤリと笑った。


「会いたかったよ、**《異界の管理者代理》さん。……いや、今は《反逆のデバッガー》**と呼ぶべきかな?」


「……ッ!?」


こいつ、知っている。 私がただの悪役令嬢転生者ではないことを。 そして、私たちが運営に抗おうとしていることを。


「あなた、何者? ゼクスの仲間?」


「まさか。あんな石頭の掃除屋と一緒にしないでくれよ。僕はただ、この物語のエンディングが気になっているだけの観客ユーザーさ」


エルモは焚き火のそばに勝手に座り込み、リュートを弾き始めた。


「~♪ 世界はバグに満ちている。  ~♪ 勇者は剣を捨て、魔王は残業に泣く。  ~♪ そして『カミサマ』は、一番近くでサイコロを振る」


不気味な歌。 エルモの細い目が、一瞬だけ開き――その奥にある瞳が、ルミを捉えた。


「……おや。そこには『迷子の天使』もいるじゃないか。それとも『堕ちた管理者』かな?」


ルミがビクリと肩を震わせ、私の背中に隠れる。


「やめて……。そのひと、きらい」


「ははは、嫌われちゃったね。でも、お嬢ちゃん。君も『思い出す』時が来るさ。自分が何のために、そこに配置スポーンされたのかをね」


場が凍りつく。 この男、明らかに事情を知りすぎている。 だが、敵意は見えない。むしろ、楽しんでいるようだ。この状況を、ゲームのイベントシーンとして鑑賞しているかのように。


「……エルモと言ったわね」


私は警戒を解かずに告げた。


「私たちについてくる気?」


「もちろん。君たちの旅は、間違いなく『世界の核心メインストリーム』に繋がっているからね。特等席で見届けさせてもらうよ」


「断ると言ったら?」


「それはおすすめしないなぁ。……僕は、君たちが探している《鍵》の場所も、これから起きる《バグ》の予兆も、少しだけ知っているからね」


交換条件。 情報は持っている。だが、信用はできない。 典型的なトリックスターだ。


「……いいでしょう。ただし、少しでも怪しい動きをしたら、即座に排除キックします」


了解ラジャー。お手柔らかに頼むよ、チーフ」


エルモはニッコリと笑った。 その呼び名。トリスタンやアーサーたちと同じ呼び方。 偶然か、それとも……?


夜が更けていく。 焚き火を囲むメンバーは増えた。 私、ライオネル、社畜騎士たち。 記憶のない少女ルミ。 全てを見透かす詩人エルモ。 そして、どこかで私たちを監視し、消去しようとする異端審問官ゼクス。


この中に、世界を滅ぼそうとする《カミ》がいるかもしれない。 疑心暗鬼の種を抱えたまま、私たちは眠れぬ夜を過ごすことになった。

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