表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/36

第3話:死の森は、食材の宝庫でした

鳥のさえずりで目が覚める。 前世では、スマホのアラームを5分おきに10回鳴らしても起きられなかった私が、自然光だけで目覚めるなんて。


「ふぁ……よく寝た。身体が軽い……!」


時計を見ると、まだ午前8時。 「遅刻だ!」と飛び起きる必要もない。私はベッドの上で大きく伸びをした。隣では、巨大化したリュカ(フェンリル)が、私の足元を温める湯たんぽ代わりになって丸まっている。


平和だ。しかし、一つだけ問題があった。


「……お腹すいた」


ぐうぅ、と腹の虫が鳴く。 家は魔法で直したけれど、備蓄食料はない。私はリュカの背中をポンポンと叩いて起こした。


「おはようリュカ。朝ごはんの調達に行きましょう」 「ワフ?(狩りか?)」


やる気満々のリュカを連れて、私たちは《死の森》の探索に出た。



「グルルル……(警戒)」


森に入るなり、リュカが低い声で唸り出した。 この森は高ランクの魔物が跋扈する危険地帯。油断すれば命はない――はずなのだが。


「あっ! 見てリュカ! あれ!」


私が指差したのは、茂みの奥で怪しく蠢く、真っ赤な球体だった。 大きさはバランスボールほど。表面には血管のような筋が浮き出ており、近づく者を捕食しようとツルを伸ばしている。


一般的には《人喰いブラッドトマト》。触れた者の血液を吸い尽くす、凶悪な植物モンスターだ。 しかし、《鑑定眼》を持つ私の目には、全く別の情報が表示されていた。


【名称】 エンシェント・トマト 【品質】 SSS(神級) 【糖度】 25度 【効果】 美肌、疲労回復、魔力増強


「す、すごい……! 高級デパートでもお目にかかれないレベルの完熟トマトよ!」


「ガウッ!?(主よ、正気か!?)」


リュカが止めようとするのを無視して、私はツカツカとトマトに歩み寄る。 トマトが「シャアアアッ!」と奇声を上げてツルを鞭のように振るってきた。


「はいはい、バグ(敵意)は修正デリートしましょうねー」


私は人差し指を振った。 発動するのは風魔法カマイタチ・スライサー。 ただし、戦闘用ではない。調理用プレップモードだ。


ヒュンッ!


風の刃が寸分の狂いもなくツルを切り落とし、ついでにトマトのヘタを綺麗にくり抜いた。 抵抗手段を失ったトマトが、コロンと私の足元に転がる。


確保コミット完了」


その後も、私は止まらなかった。


襲い来る《殺人ポテト》を土魔法で掘り起こし、猛毒のガスを撒き散らす《マンドラゴラ・オニオン》を氷魔法で瞬間冷凍して無毒化。 気づけば私の魔法鞄マジックバッグは、新鮮な高原野菜でパンパンになっていた。


「大収穫ね! 今日のランチはトマト煮込みハンバーグよ!」 「クゥ……(この人には勝てない……)」


リュカが呆れたように遠吠えをした。



廃屋に戻った私は、さっそく調理に取り掛かった。 台所キッチンに火魔法でコンロを作り、鍋をセットする。


オリーブオイル(代用品)でニンニクを炒め、香りが立ったところに、ざく切りにしたエンシェント・トマトを投入。 ジュワァァァ……といういい音と共に、甘酸っぱい極上の香りが立ち込める。


「ふふ~ん♪」


鼻歌交じりに煮込んでいると、ふと、窓の外に視線を感じた。 殺気ではない。もっとこう、戸惑いを含んだような気配。


(あら? 森の動物さんかしら?)


魔物だらけのこの森にも、リスくらいはいるだろう。 私は出来上がったトマト煮込みを小皿に取り分け、窓の外の切り株の上にそっと置いた。


「よかったらどうぞ。お近づきの印よ」


私はニッコリ笑って窓を閉めた。



「……なんだ、これは」


木陰から姿を現したライオネル公爵は、切り株の上に置かれた小皿を見つめた。 そこから漂うのは、王宮の晩餐会ですら嗅いだことのない、芳醇で暴力的なまでの「美味そうな匂い」だった。


「あの凶悪な人喰いトマトを、瞬きする間に料理したというのか……?」


毒見のつもりで、公爵はスプーンを口に運んだ。 瞬間。


「――ッ!?」


濃厚なトマトの旨味が口内で爆発した。 酸味と甘味の完璧なバランス。そして何より、食べた瞬間、身体の奥底から力が湧いてくるのを感じる。長年、公務と魔物討伐で蓄積していた古傷や疲労が、一瞬で霧散していくのだ。


(これは……ポーション(回復薬)? いや、エリクサー級の効果だぞ!?)


たった一口のスープで、国宝級の霊薬に匹敵する効果。 それを彼女は、鼻歌交じりに「ランチ」として作っていた。


「コーデリア……。君は一体、何者なんだ」


空になった皿を見つめ、冷徹と呼ばれた公爵の口元が、知らず知らずのうちに緩んでいた。 胃袋を掴まれた、という自覚がないまま、彼は完全に彼女の沼にハマり始めていた。


一方、家の中では。


「んー! おいしい! やっぱり自炊って最高!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ