表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/36

第29話:役者(サスペクツ)は、舞台袖で笑う

《死の森》を抜け、私たちは北の荒野を進んでいた。 目指すは、このエリアのデータを管理しているとされる第一の制御塔、《バベルの塔》。


「……妙ですね」


装甲馬車(ドワーフ製・対衝撃仕様)の手綱を握りながら、アーサーが呟いた。


「地図では、この先に『名もなき宿場町』があるはずなんですが……」


彼の視線の先には、何もなかった。 ただ、不自然に平らにならされた更地と、地面に深く刻まれた**《十字架の焼印》**があるだけ。 町一つが、丸ごと消滅していたのだ。


「バグによる崩壊じゃないわ」


私は馬車を降り、地面の焼印に触れた。 熱い。物理的な熱ではなく、データが焦げ付いたような残留思念。


「これは、人為的な『削除クリーニング』の跡よ」


「クリーニング、だと……?」


ライオネルさんが剣に手をかける。 その時、瓦礫の陰から、小さな影が飛び出してきた。


「たすけて……!」


泥だらけの白いワンピースを着た、10歳くらいの少女だった。 銀色の髪、透き通るような青い瞳。 彼女は私の足にしがみつき、震えている。


「あいつらが……『白い服の人たち』が、みんなを燃やしちゃったの……!」


「白い服?」


私が問い返す間もなく、荒野の向こうから、砂煙を上げて一団が近づいてきた。 白装束に身を包み、顔全体をフードで隠した集団。 その先頭に立つのは、長い銀髪を束ね、目元をバイザーのような魔導具で覆った長身の男。


彼の手には、燃え盛る槍が握られていた。


「――発見した。不浄なるバグの生き残り(エラー・オブジェクト)および、それと接触した感染者たち」


男の声は、氷のように冷徹だった。


「私は聖教会・異端審問局の局長、ゼクス。主の御心システムに従い、世界の汚れを消毒する者だ」



【視点変更:王都・裏路地】


同時刻、王都。 喧騒から離れた酒場の隅で、一人の男がリュートを爪弾いていた。 糸目の優男、吟遊詩人のエルモだ。


「~♪ 世界は繰り返す、悲劇の螺旋。  ~♪ カミはサイコロを振らない、ただリセットボタンを押すだけ」


彼の周りには、数人の客が集まっているが、誰も彼が「何を歌っているのか」深く理解していない。 エルモは歌いながら、懐から一枚のカードを取り出し、テーブルに置いた。 そこには、今日の私の行動――《コーデリア、少女を保護する》という未来が、まるで予言のように描かれていた。


「おや、役者が揃ったねぇ。  処刑人に、迷子に、そしてイレギュラーな主役ヒロイン。  ……さて、今回の『カミサマ』は、どの子の皮を被っているのかな?」


エルモはニヤリと笑い、リュートの弦を弾いた。 その音色は、不協和音となって空気を揺らした。



【視点復帰:北の荒野】


「引き渡しなさい。その少女は『バグの種』だ」


ゼクスが槍を向ける。 その穂先に宿る炎は、普通のものではない。 私の《鑑定眼》が警告を発している。あれは**《アンチウイルス・ファイア》**。触れれば即座にデータを焼却される、対バグ専用兵器だ。


「断る!」


私が答えるより早く、ライオネルさんが前に出た。 私の後ろでは、保護した少女――ルミが、怯えて震えている。


「罪なき子供を『汚れ』と呼ぶか。貴様らの神は、そんなに狭量なのか!」


「神の定義を問うか。……愚かなNPCノン・プレイヤー・キャラクターよ」


ゼクスがつぶやいた言葉に、私は息を呑んだ。 NPC。 この世界の住人が決して口にしない、プレイヤー視点の単語。


「あなた……何を知っているの?」


私が問うと、ゼクスはバイザーの奥で目を細めた(気配がした)。


「私は全てを知っているわけではない。ただ、この世界が『作り直されるべき箱庭』であると理解しているだけだ。……邪魔をするなら、貴様らもまとめてフォーマットする」


ゼクスが槍を振るう。 放たれた白い炎が、津波となって押し寄せた。


「《食卓の騎士》、展開ッ!!」


アーサーの号令で、ガラハッドが大盾を構える。 しかし、その炎は大盾の防御スキルを「無効化」し、盾ごと彼を吹き飛ばした。


「ぐあぁっ!? 俺のコンプライアンス(絶対防御)が通じない!?」 「バカな! 設定パラメータ無視かよ!」


「言ったはずだ。これは『消毒』だと」


圧倒的な力。 このゼクスという男、ただの人間ではない。もしかして、彼こそが運営のアバターなのか?


「くっ……! ライオネルさん、あの子を連れて下がって!」


私が前に出ようとした時、私の服を掴んでいた少女ルミが、ふと顔を上げた。 その青い瞳が一瞬、無機質な銀色に輝いた気がした。


キィィィィン……。


甲高い音が鳴り、ゼクスの放った炎が、私の目の前で霧散した。


「……な?」


ゼクスが動きを止める。 私も、ライオネルさんも、何が起きたのかわからなかった。 ただ、少女ルミだけが、怯えた表情のまま、しかし私の手を強く握りしめていた。


「こわい……おねえちゃん、たすけて……」


(今のは……この子がやったの? それとも私の無意識の防御?)


戦場に、奇妙な沈黙が落ちる。 ゼクスは舌打ちをし、槍を収めた。


「……チッ。干渉が入ったか。今は退こう。だが覚えておけ、イレギュラーども。世界の修正は、誰にも止められない」


白装束の集団は、蜃気楼のように揺らぎ、その場から消滅した。 後に残されたのは、更地になった町と、謎だらけの私たち。


「……ありがとう、お姉ちゃん」


ルミが私を見上げて微笑む。 その笑顔は、天使のように無垢で、そしてどこか――背筋が凍るほどに美しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ