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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生


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第2話:最果ての廃屋にて、大きな犬(?)を拾う

王都を出発して十日。 私を乗せたボロ馬車は、北の最果て《死の森》の入り口で止まった。


「お、お嬢様……本当にここでよろしいのですか? この先は魔物の領域ですぜ」


御者の震える声に、私は満面の笑みで頷いた。


「ええ、ここが良いのです。送ってくれてありがとう」


荷物を降ろし、馬車が逃げるように去っていくのを見送る。 周囲を見渡せば、鬱蒼と茂る黒い木々。漂う瘴気。そして、目の前には今にも崩れ落ちそうなボロ小屋が一軒。


普通なら悲鳴を上げて逃げ出す光景だろう。 けれど、私の目には全く別の景色が見えていた。


(瘴気? いえ、これは濃密すぎるマナの奔流だわ。マイナスイオンたっぷり!) (ボロ小屋? 築年数不詳の古民家物件、リノベーションし放題!)


前世、狭いワンルームでサーバー監視のアラート音に怯えて眠った日々に比べれば、ここは天国だ。 私は腕まくりをし(ドレスだけど)、目の前の廃屋を見据えた。


「さて、まずは生活環境の構築セットアップね」


前世のSE知識が唸る。 魔法とは、世界というOSに命令を送るプログラムコードのようなものだ。この世界の住人は感覚で魔法を使っているけれど、私は論理ロジックで組める。 イメージするのは、かつて憧れた最高級タワーマンションの内装。


「対象オブジェクト、廃屋。……構造解析パース修復リファクタリング開始……!」


指先から放たれた光が、廃屋を包み込む。 バキバキと音を立てて、腐った木材が新品に置換され、歪んだ柱が真っ直ぐに伸びる。ついでに《生活魔法・クリーン》を最大出力で掛け合わせ、カビもホコリも一掃した。


ほんの数秒後。 そこには、ログハウス風の洒落た別荘が建っていた。


「ふふっ、完璧。デバッグ作業より簡単ね」


満足して頷いた、その時だった。


グルルルルゥ……


背後の茂みから、地響きのような唸り声が聞こえた。 空気がビリビリと震える。振り返ると、そこには――


二階建ての家ほどもある、巨大な銀色の狼がいた。 燃えるような金色の瞳。刃物のような牙。 間違いなく、この森の主。伝説の魔獣フェンリルだ。


「グオオオオオッ!!」


鼓膜が破れそうな咆哮。 強烈な殺気が私を襲う。……が。


(うーん、迫力はあるけど……)


私は無意識に、その咆哮と《とある記憶》を重ねていた。 それは、納期前日に仕様変更を叫ぶクライアントの怒号。あるいは、ミスをした時にデスクを蹴り上げるパワハラ上司の罵声。 それに比べれば、野生動物の威嚇など可愛いものだ。理不尽な要求もしてこないし、始末書も書かされない。


私はスッと右手を掲げた。


「ストップ」


私の落ち着き払った声に、フェンリルが「あ?」という顔で固まる。


「あなた、ちょっと毛並みがゴワゴワすぎない? ちゃんと手入れしてる?」 「グルァ!?」 「それにここ、ちょっと臭うわよ。せっかくの銀毛が台無しじゃない」


私はフェンリルの殺気を完全にスルーし、魔法を発動させた。 水属性と風属性の複合魔法。名付けて《全自動洗浄乾燥ウォッシュ・アンド・ドライ》。


「シャンプー、コンディショナー、ついでにノミ取り!」


「キャイン!?」


巨大な水球がフェンリルを包み込み、高速回転する泡が巨体を揉みしだく。 本来なら攻撃魔法として使う水流を、私は絶妙なコントロールで「マッサージ洗浄」に変換していた。


ゴシゴシ、モミモミ、ブロー。


数分後。 そこには、太陽の光を浴びてフワッフワに輝く、極上の銀狼の姿があった。


「……くぅ~ん」


フェンリルは地面にへたり込み、とろんとした目で私を見上げている。どうやら極楽だったらしい。 私はその鼻先に近づき、恐る恐る手を伸ばした。 そして――


もふっ。


(……っ!!)


「最高か……!」


絹のような手触り。圧倒的弾力。 私は理性を手放し、その巨大な首元の毛に顔を埋めた。 吸い込むと、お日様のいい匂いがする。これが、伝説の聖獣の吸い心地。


「よし、決めた。あなたは今日からウチの子よ。名前は……そうね、《シロ》でどう?」 「……(不服そうに鼻を鳴らす)」 「じゃあ、ポチ?」 「ガウッ!(抗議)」 「わかったわかった。じゃあ、リュカ。どう?」


フェンリル――リュカは、まんざらでもなさそうに「ワン」と鳴いた。 こうして、スローライフ初日にして、私は最強のボディガード兼、最高のもふもふクッションを手に入れたのだった。


森の奥から、その様子を監視している視線があるとも知らずに。


「……報告にあった『凶悪な悪役令嬢』とは、一体何だったのだ?」


森の木陰。 隠蔽魔法で姿を消した一人の男――公爵ライオネルは、目を見開いて呟いた。 彼の視線の先には、伝説の魔獣の腹に顔をうずめて幸せそうに昼寝をする、元婚約者の姿があった。


(フェンリルを一瞬で無力化し、あまつさえ枕にするとは……)


彼女の無防備な寝顔を見ていると、ライオネルの胸の奥で、今まで感じたことのない温かい感情が芽生え始めていた。


「……面白い。もう少し、観察させてもらおうか」

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