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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生


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第17話:トップダウン(国王来訪)は、現場を混乱させる

「――腹が……減った」


私の家の前に立った初老の紳士は、ダンディな声でそう呟いた。 仕立ての良い服、整えられたロマンスグレーの髭、そして背後には護衛(どう見ても近衛騎士)を隠そうともしない集団。


「いらっしゃいませ。……ご予約のお客様ですか?」


私が引きつった笑顔で尋ねる。 横にいたライオネルさんが、小声で悲鳴を上げた。


「へ、陛下……!? なぜここに……!」


「しっ! 静かにせよライオネル。今の余はただの酒好きの隠居、名を……そう、《ゴロー》という」


(……ネーミングセンスが絶望的ですね)


私は心の中でツッコミを入れたが、相手は国のトップだ。 へたな対応をすれば、スローライフどころか物理的に首が飛ぶ。ここは「優秀な店員」に徹するのが正解だろう。


「ようこそ、ゴロー様。当店の《癒やしフルコース》をご所望ですね?」


「うむ。噂の焼酎と、例のサウナとやらを頼みたい。……あと、何か腹にたまるものを。急ぎで」


「かしこまりました。では、まずはサウナへご案内いたします」



数十分後。 サウナ小屋から、王の威厳など微塵もない声が響いてきた。


「おおぉ……! 熱い! だが、悪くない!」


《ロウリュ》の熱波を浴びた陛下は、茹でダコのようになって水風呂へダイブ。 そして、ウッドデッキの休憩椅子で、虚空を見つめて震えていた。


「……整った」


完全にキマっている。 隣では、ライオネルさんが「父上……いえ、ゴロー様、お風邪を召します」と甲斐甲斐しくタオルを掛けている。 この国のツートップが、私の家の庭で無防備に寝転がっている図。 もしテロリストが来たら一網打尽だな、と不敬なことを考えつつ、私は厨房キッチンで夕食の仕上げにかかった。


「本日のメニューは、《豚の角煮・半熟煮卵添え》と《無限キャベツ》です」


私が料理を運ぶと、陛下の目がカッと見開かれた。


「ほほう。茶色い料理……。いいじゃないか、こういうので」


陛下は箸を手に取り、トロトロに煮込まれた角煮を口に運んだ。


(……箸で切れる柔らかさ。甘辛いタレの香り。これは、白飯泥棒だ)


パクッ。モグモグ……。


(うん、美味い。豚の脂身が口の中で溶けていく。そこに焼酎を流し込む……)


グビッ。


(くぅ~っ! 効く! 犯罪的だ!)


陛下は無言で頷き、箸を加速させた。 食べる。飲む。整う。 その完璧なルーチンワーク(永久機関)を前に、周囲の護衛騎士たちもゴクリと喉を鳴らしている。


「……美味かった」


完食。 陛下は満足げに腹をさすり、鋭い眼光で私を見据えた。


「コーデリア嬢と言ったな」


「はい」


「そなたを追放したのは、我が愚息クリフォードだったな。……見る目がないとはこのことか」


陛下は溜息をつき、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。


「余は決めたぞ。そなたを王宮へ呼び戻し、筆頭魔導師……いや、《宮廷料理長》兼《サウナ大臣》に任命する!」


「お断りします」


私は即答した。 食い気味の拒否に、陛下が「ぬ?」と眉を上げる。


「なぜだ? 名誉も地位も、金も思いのままだぞ?」


「陛下。私はここで、誰にも縛られず、好きな時に起きて好きな物を食べる生活がしたいのです。王宮のようなブラック……激務な環境には戻りたくありません」


「ぶらっく?」


「それに」


私は横でハラハラしているライオネルさんに視線を向けた。


「私が王宮に戻ったら、ライオネルさんが週末に逃げ込んでくる場所シェルターがなくなってしまいますから」


「……!」


ライオネルさんが感動で目を潤ませている。 陛下は二人の顔を交互に見比べ……ニヤリと悪戯っぽく笑った。


「なるほど。我が国の騎士団長を骨抜きにしたのは、この飯と酒か。……いや、愛か」


「へ、陛下!」


「よかろう。そなたの自由を認めよう。その代わり!」


陛下はドン! とテーブルを叩いた。


「この《コーデリア・ブリュワリー》の酒と、季節の野菜を、毎月王宮へ送れ。余の個人的な楽しみ(プライベート在庫)としてな」


「承知いたしました。……定価の3割増しになりますが?」


「構わん! 必要経費だ!」


こうして、国王陛下公認の「最強の酒と野菜」が誕生した。 王宮へのコネクション(直通パイプ)を手に入れた私は、もはや無敵。 ……だと思っていた。


帰り際。 陛下がふと、酔いの冷めた真面目な顔で、ライオネルさんに耳打ちをしたのを、私は聞き逃さなかった。


「……ライオネルよ。北の国境付近で、奇妙な『空間の歪み』が観測されたそうだ。……例の伝承にある予兆かもしれん。警戒せよ」


「……はっ!」


陛下たちが去った後の静寂。 私は空を見上げた。 タナカ(仮)が言っていたタイムリミットまで、あと25日。


「サウナで整ってる場合じゃなかったかも」

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