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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生


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第15話:悪徳(?)商人と、Win-Winという名の搾取契約

サウナで整ったライオネル公爵が、風呂上がりの牛乳を腰に手を当てて飲み干した、その時だった。


「ごめんください! 商売の匂いを嗅ぎつけてやって参りました!」


森の静寂を破る、やけに元気で、そして金貨が擦れ合うような音がする声。 入り口のセキュリティーゲート(ゴーレム)の横を、一台の馬車がすり抜けてきた。 どうやら、敵意がないため自動迎撃システムが作動しなかったらしい。


馬車から降りてきたのは、小太りで、揉み手をしながら目を細めている男。 高級そうな服を着ているが、その目は油断ならない光を宿している。


「お初にお目にかかります。私、王都で《カルロ商会》を営んでおります、カルロと申します」


男は深々と頭を下げた。その視線は、チラチラと私たちの後ろにある「サウナ小屋」や、テーブルの上の「焼酎の瓶」に向けられている。


「ドワーフの里で噂を聞きましてねぇ。なんでも、一度飲めば天国へ行ける《魔法の酒》があるとか」


(……耳が早い。さすが商人)


私は警戒を解かずに微笑んだ。


「ええ、ありますよ。でも、うちは小売はしていないんですが」


「いやいや! もちろんです! 私が申し上げたいのは、そのお酒の《独占販売権》を譲っていただきたいということでして!」


カルロは懐から分厚い革袋を取り出した。ジャラッ、と重たい音がする。


「金貨100枚。これだけの権利金をお支払いします。その代わり、レシピと製造権を全て我が商会に……」


横にいたライオネルさんがピクリと眉を動かした。 金貨100枚。平民なら一生遊んで暮らせる大金だ。 だが、私の《社畜電卓》は、瞬時にその提示額が「足元を見ている」ことを弾き出していた。


「……お断りします」


「は? ……いやいや、100枚ですよ? 追放された……失礼、隠居された身には十分すぎる額では?」


「カルロさん。貴方、このお酒の市場価値マーケットバリューを低く見積もりすぎています」


私はテーブルの上の焼酎をグラスに注ぎ、氷(魔法製)を入れて差し出した。


「まずは一口、どうぞ(試供品)」


カルロは疑わしげに一口飲み……そして、目を見開いて硬直した。


「……なっ!?」


「ドワーフたちはこれを《命の水》と呼びました。貴族たちはこの透明度とキレに驚愕し、平民たちはこの度数の高さに酔いしれるでしょう」


私は畳み掛ける。


「これを独占すれば、貴方の商会は巨万の富を得る。それをたった金貨100枚のイニシャルコスト(初期投資)で買い叩こうなんて……随分とリスキーな交渉をなさいますね?」


私の目が、冷徹なプロジェクトマネージャーのそれに変わる。 カルロの額から冷や汗が流れた。


「ひぃっ……! こ、この娘、ただの令嬢じゃない……!?」


「交渉をご希望なら、こちらの提案プランを聞いていただけますか?」


私は虚空から羊皮紙を取り出し、サラサラと条件を書き連ねた。


製造権は譲渡しない(レシピは社外秘)


カルロ商会は「販売代理店」とする


売上の30%をロイヤリティとして私に支払う


ブランド名は《コーデリア・ブリュワリー》で統一


違反した場合は、違約金として商会の全資産を没収


「な、なんだこの悪魔のような契約書は! 30%!? しかも全責任はこっち持ちだと!?」


「おや、不服ですか? ならば結構。隣国の商人と話をしますので」


「ま、待て待て待てぇぇ!」


カルロがテーブルに身を乗り出した。 彼は商人だ。この酒が、どれほどの利益を生むか本能で理解している。30%取られても、残り70%で十分に城が建つほどの利益が出ると。


「わ、わかった……! 飲みましょう、その条件!」


契約成立ディールですね」


私はニッコリと笑い、契約書にサインを求めた。


「それと、ついでですが」


「ま、まだ何か!?」


「うちの畑で採れた野菜と、この温泉の成分を配合した《入浴剤》も取り扱ってみませんか? 今ならセット価格でお安くしておきますよ」


「……買います。全部買いますから、その笑顔をやめてください! 寿命が縮む!」



数十分後。 大量の在庫を抱え、少しやつれた顔で、しかし瞳には野望の火を灯したカルロが去っていった。


「……恐ろしいな、君は」


一部始終を見ていたライオネルさんが、ポツリと呟いた。


「そうですか? これで、私が働かなくても毎月お金が入ってくる仕組み(不労所得システム)が完成しました」


「不労……所得……?」


「ライオネルさんとのんびり暮らすには、軍資金が必要ですしね」


「……君のためなら、私の全財産を捧げてもいいのだが」


「それはそれ、これはこれです。自分の小遣いは自分で稼ぐ。それが自立した女(元OL)の嗜みですから」


私は満足げにホットミルクを飲んだ。 これで資金面の不安は解消された。 販売網も確保した。 あとは、この商品を安定供給するための生産ラインを整えるだけだ。


「よし、次は《自動農業ゴーレム》の開発ね!」


「……まだ何か作るのか?」


呆れるライオネルさんを他所に、私のスローライフ(という名の領地経営シミュレーション)は、加速の一途を辿っていた。


しかし、私は気づいていなかった。 この《悪魔の酒》が王都に出回ったことで、ある人物――酒好きで知られる「国王陛下」の喉を唸らせ、事態が国レベルの大騒動に発展してしまう未来を。

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