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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生


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第13話:バグ(更地)を見つけたら、有効活用(温泉)するのが仕様です

昨夜の「世界の危機」騒動から一夜明けた、清々しい朝。 私はマグカップを片手に、庭の惨状を眺めていた。


昨日の戦闘で、謎の「影」によって消去された大木。 そこには、ぽっかりと不自然な空白地帯ができていた。地面がえぐれ、直径数メートルのクレーターになっている。


「……景観(UI)が崩れてるわね」


普通なら埋め戻して木を植えるところだろう。 しかし、私はその穴の底から、ほのかに温かい蒸気が立ち上っているのを見逃さなかった。


「リュカ。ここ掘ってみて」 「ワフ?(ここか?)」


私の指示で、リュカが前足でザッザッと土を掘る。 数メートルほど掘り進めたところで――プシュゥッ! と音を立てて、熱いお湯が噴き出した。


「やっぱり! 地脈のデータ、読み通りね」


私の《鑑定眼》は、この地下深くに豊富な熱源と水脈があることを捉えていたのだ。 バグで空いた穴は、パッチ(温泉)を当てて塞ぐ。これぞSE流のトラブルシューティング。


「よし、工事開始デプロイ!」


私は袖をまくり上げ、魔力を練り上げた。


【土魔法】:クレーターの形状を整え、底と側面を滑らかな岩盤でコーティング。


【水魔法】:地下水脈からお湯を誘引し、循環システム(かけ流し)を構築。


【風魔法】:湯気が必要以上に拡散しないよう、エアカーテンを展開。


仕上げに、森で集めた平らな石を並べて「露天風呂」の風情を演出すれば……。


「完成! 《源泉かけ流し・リフレッシュの湯》!」


所要時間、わずか30分。 硫黄の香りが漂う極上の露天風呂が、我が家の庭に爆誕した。


「さあリュカ、一番風呂よ!」


「オンッ!!」


リュカが豪快にダイブする。バシャーンと盛大な水しぶきが上がり、巨大な狼が気持ちよさそうに目を細めた。 聖獣の威厳など、湯煙の彼方へ消え去っている。


「ふふっ。私も足湯だけでも……」


と、私がスカートの裾を持ち上げた時だった。


「……コーデリア?」


背後から、呆気にとられた声が聞こえた。 振り返ると、そこには書類カバン(のような革袋)を抱えたライオネル公爵が立っていた。 どうやら、また仕事を抜け出して……いや、公務の合間を縫って会いに来てくれたらしい。


「あら、ライオネルさん。いいところに来ましたね」


私はニッコリ笑って手招きした。


「ちょうど今、新しい《福利厚生施設》が完成したところなんです」


「ふくり……こうせい? それは一体……いや、それよりこの湯気はなんだ? まさか、火事か!?」


「いえいえ、温泉です。疲労回復効果バフ付きの」


「温泉……?」


彼はおっかなびっくり近づき、お湯に手を入れた。 その瞬間、彼の表情がとろけるように緩んだ。


「……温かい。なんだこれは、魔力が皮膚から浸透してくるようだ……」


「でしょう? さあ、靴を脱いで。一緒に足湯しましょう」


「い、一緒に!? し、しかし、淑女の足を見るなど……!」


「今更なに言ってるんですか。ほら、早く」


なかば強引に彼を岩場に座らせ、二人並んでお湯に足を浸す。 じわ~っと広がる温かさに、ライオネルさんが「はぁぁ……」と長い息を吐いた。


「……極楽だ」


「でしょう? 王宮のお風呂じゃ、こんな開放感味わえないですよ」


「ああ……。もう、王都に帰りたくない」


「それは困ります。稼ぎ頭には働いてもらわないと」


冗談交じりに笑い合う。 鳥のさえずり、湯の流れる音、そして隣には最愛の婚約者(仮)。 昨日の「世界滅亡の危機」なんて、本当に夢だったんじゃないかと思えるほどの平和さだ。


しかし。 ライオネルさんがふと、真面目な顔で私の横顔を見つめた。


「コーデリア。昨日の……あの黒い影の件だが」


ドキリとした。 忘れたフリをしていた案件チケットだ。


「……王宮の記録保管庫を調べてみたんだ。過去の文献に、似たような現象の記述があった」


「えっ」


「数百年前に一度、世界が『作り直された』という伝承がある。その時にも、黒い影と、赤い瞳の男が現れたそうだ」


ライオネルさんは、私の足を湯の中でそっと触れるか触れないかの距離で重ねた。


「君は、何か知っているんじゃないか? あの男と、知り合いのようだったが」


鋭い。 さすがは王国の宰相。ただの「癒やされ枠」ではない。


私は少しだけ視線を逸らし、リュカの背中を見つめた。


「……昔の、知り合いに似ていただけですよ。それに、今はまだ不確定な情報バグばかりで」


嘘は言っていない。タナカが本当にあのタナカなのか、確定したわけではないのだから。


「そうか。……君がそう言うなら、追及はしない」


彼は優しく微笑み、私の肩を抱き寄せた。


「だが、約束してくれ。一人で抱え込まないでくれ。私は、君が思うよりずっと頑丈だ。世界の終わりだろうが何だろうが、君となら斬り伏せてみせる」


その言葉に、胸が熱くなる。 ああ、やっぱりこの人は《ウイルス》なんかじゃない。 私にとっての、最高のヒーローだ。


「……はい。頼りにしています、ライオネルさん」


私は彼の肩に頭を預けた。 とりあえず今は、この温かさに甘えておこう。 30日後の危機よりも、まずは目の前のこの幸せを守ることが、今の私(メインヒロイン兼運営管理者代行)の最優先ミッションなのだから。


「――ところでコーデリア」 「はい?」 「このお湯、持って帰れないだろうか? 瓶詰めにして殿下の執務室に撒けば、少しは静かになる気がするのだが」 「……発想が過激派になってきましたね」


こうして、私たちのスローライフに「温泉」という最強の武器が加わった。

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