第114話 違法廃棄物の反乱、あるいは「不正経理」の極致
ミキサーの轟音が止み、そこにはかつて四天王であった者たちの成れ果て――虹色に濁り、ドロドロとのたうつ**『高純度エネルギー・スラリー』**が溜まっていた。
「……素晴らしい。不純な『情緒』という個体が粉砕され、ようやく扱いやすい純粋なエネルギー資源になりました」
外部監査役は、その液体を虚空から伸びる細いストローのような吸い上げ管に接続した。 ジュウウウ、と不気味な吸引音が響く。イグニス、アクア、ゲイル、テラ……彼らの魂をすり潰したスープが、監査役の動力源として、そして宇宙のマスターサーバーを再起動させるための「潤滑油」として消費され始める。
「あ……あ……」
液状化された彼らの意識は、まだ死んでいない。 吸い上げられる管の中で、四人の断片化した思考が混ざり合い、熱い激痛の奔流となって監査役のシステム内を駆け巡る。彼らは今や、**『意志を持ったまま燃やされるガソリン』**となっていた。
管理者の「禁じ手」
「……いい度胸ね。私の『資産』を勝手に飲み干すなんて」
コーデリアの声は、怒りを通り越し、絶対零度の静寂に達していた。 彼女はバインダーを閉じ、自らの胸元にある管理バッジを引き剥がした。
「コーデリア殿!? 何を……!」 「ライオネル、黙って見ていなさい。……監査役、あなたは重大なミスを犯したわ。……そのスラリー、つまり彼らの中には、私が密かに埋め込んでおいた**『簿外債務(裏帳簿)』**が混ざっているのよ」
「……何だと?」 監査役の動きが、一瞬だけ止まった。
「私は彼らを配線に作り替えた時、彼らの苦痛をすべて『未払いの残業代』としてデータ化し、彼らの魂の奥底に隠蔽(隠し資産化)しておいた。……あなたが今飲み込んでいるのは、宇宙の法則ですら返済不可能な、天文学的な量の**『負のコスト』**よ!」
債務超過による「システム・ダウン」
ゴフッ……!
突然、監査役の口から黒いノイズが吐き出された。 スラリーとなった四天王たちの怨念と、コーデリアが仕込んだ「不正な負債データ」が、監査役の内側から彼の『ルート権限』を食い破り始めたのだ。
「……グ、ガ……。なんだ、この……圧倒的な、不快感は……! 魂が、汚染される……!」
「当然よ。彼らが味わった地獄は、正攻法では処理しきれない。……彼らは今、あなたの体内で、終わりのない**『架空の労働』**を繰り返しているわ。あなたが彼らを吸い上げるほど、あなたの権限は彼らの『負債』に飲み込まれ、破綻していくのよ!」
液状化した四天王たちが、監査役の血管(回路)の中で暴れ狂う。 彼らはもはや形を成していないが、その「苦痛」という一点において、神の使徒である監査役を内側から腐敗させる猛毒へと変貌していた。
「あぎゃああああ! 熱い……重い……! なんだ、この……数万年分の残業ログはぁあああ!」
監査役の美しい漆黒のスーツがボロボロに裂け、その中からドロドロになった四天王の液体が、逆流するように溢れ出した。
「……さあ、ここからは『不正経理』の時間よ。……シャドウ、監査役の権限を、この負債ごと『強制差し押さえ』しなさい!」
コーデリアの非情な命令が、崩壊しつつあるサーバー室に響き渡った。




