第102話 管理者の孤独と、過去の「負債」
シャドウの指先が、コーデリアのバインダーに触れようとした瞬間、空間が激しく明滅した。ガラハッドの「ワールド・リライト」の影響で、真っ白な開発室が漆黒の玉座の間へと書き換えられていく。
「ははは! 完了だ! これで俺は運営すらも支配する唯一神となる!」
勝ち誇るガラハッドの影で、コーデリアは冷徹に状況を分析していた。ライオネルたち騎士は、武器を失った喪失感で動けない。リュカは彼女の前に立ち、消滅の危機に震えながらも威嚇を続けている。
――この場に、もし他の多くの部下たちを連れてきていれば。
物量で押し切ることもできたかもしれない。だが、コーデリアはあえて最小限の人数でこの場に臨んでいた。
(……これは、私一人が背負うべき『過去の負債』なのよ)
コーデリアは、心の奥底で自嘲した。 かつて現実世界のブラック企業で、ただ効率だけを求め、多くの「名もなき労働者」を使い捨て、摩耗させてきた自分。シャドウのような、名前も意志も持たない「虚無」を生み出してきたのは、他ならぬ自分自身の冷酷なマネジメントの結果だった。
(私は、自分の犯した過ちの象徴である彼を、これ以上誰かに押し付けるわけにはいかなかった……。これは管理者として、あまりに身勝手で独善的な、私一人のための決算報告なのよ)
だが、その強烈な「自責」と「責任感」が、絶望的な状況においてコーデリアの瞳に冷徹な光を灯した。
「シャドウ。……いいえ、『名もなき労働者』さん」
コーデリアは、自分を消去しようとするシャドウの手を、あえて避けることなく見つめた。
「あなたは無能だからここにいるのではないわ。あなたが、自分の人生に絶望し、何も持たないことを受け入れてしまった『虚無』を、運営に利用されているだけ。……でも、私の部下に『無価値な人間』なんて、一人もいないのよ!」




