表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/36

第10話:致命的な例外エラー(Fatal Error)が発生しました

「――完(?)」


私の脳内でエンドロールが流れかけた、その時だった。 賑やかに逃げ帰る王子たちの背中を見送っていた私の視界が、ぐにゃりと歪んだ。


「……ん?」


めまいだろうか? いや、違う。 風景の彩度が落ちている。鮮やかな緑色だった森の木々が、色あせたセピア色……いや、ノイズ混じりの灰色へと変色していく。


「コーデリア? どうした、顔色が悪いぞ」


私の異変に気づいたライオネルさんが、心配そうに覗き込んでくる。 だが、私の耳には彼の声が遠く、水の中で聞いているように曇って聞こえた。


ザザッ……ザザザ……。


耳鳴り? 違う、これは……《処理落ち》の音だ。


「グルルルルゥッ!!!」


さっきまで甘えていたリュカが、全身の毛を逆立てて、誰もいない虚空に向かって吠えた。 その牙は、王子たちに向けた時とは比べ物にならないほど、本能的な恐怖に震えている。


「リュカ、下がって。……ライオネルさんも」


私は震える声で告げた。 私の《社畜眼(鑑定スキル)》が、とんでもないものを捉えていたからだ。


王子たちが去っていった森の入り口。 そこに、黒い「シミ」のようなものが浮いていた。 それは徐々に人の形を成していくが、輪郭が定まらない。まるでテレビの砂嵐ノイズで作られた影のようだ。


「……なんだ、あれは。気配がない……いや、存在そのものが希薄だ」


ライオネルさんが剣を構える。だが、私は直感した。 物理攻撃(物理レイヤー)も、魔法攻撃アプリケーションレイヤーも、あの相手には通用しない。


影が、ゆらりと動いた。 口とおぼしき裂け目が開き、無機質な、合成音声のような言葉が響く。


『――シナリオ逸脱デビエーションを確認』 『特異点コーデリアの存在により、メインストーリーの進行に致命的な不整合エラーが発生。……修正パッチを適用します』


「修正……?」


私が呟くと同時に、影が右手を上げた。


ヒュンッ。


何の予備動作もなく、私の真横にあった巨木――樹齢数百年はある大木が、音もなく「消滅」した。 折れたのではない。砕けたのでもない。 まるで最初からデータが存在しなかったかのように、空間ごと削除デリートされたのだ。


「なっ……!?」


さすがのライオネルさんも息を呑む。 あれは魔法ではない。 この世界のシステムそのものを書き換える、管理者権限アドミニストレータの力だ。


『対象の完全削除を実行します』


影のうつろな瞳(のような穴)が、私をロックオンした。


「逃げて、ライオネルさん! あれはあなたじゃ倒せない!」


「断る! 君を置いていくくらいなら、この身が消滅したほうがマシだ!」


「バカ! そういう問題じゃ――」


私が叫ぼうとした瞬間、影の足元から黒いノイズが波のように押し寄せた。 触れれば終わる。直感が警鐘を鳴らす。


「くそっ……! 《強制終了キル》……ダメ、権限が足りない!?」


私のチートスキルをもってしても、相手の階層レイヤーが高すぎて干渉できない。 このままでは、スローライフどころか存在ごと消されてしまう。


絶体絶命の瞬間。 私のポケットの中で、いつか拾った「得体の知れないアイテム」――ただの綺麗な石ころだと思っていたもの――が、カッと熱く輝き出した。


『――ほう。面白い《バグ》が混じっているな』


影の声とは違う。 もっと傲慢で、もっと愉悦に満ちた、第三の男の声が脳内に響いた。


次の瞬間。 黒いノイズの波が、私の目の前で見えない壁に阻まれ、霧散した。


「……え?」


森の奥、さらに深い闇の中から、一人の青年がゆっくりと歩いてきた。 ボロボロのローブを纏い、片目には眼帯。 そして残る片方の瞳は、私の《鑑定眼》すら焼き切るほどに禍々しい、深紅の色をしていた。


彼は、管理者気取りの「影」を見上げ、ニヤリと笑った。


「おいおい、無粋な運営(GM)だな。せっかくの面白い余興コメディを、つまらない強制力で終わらせるなよ」


謎の青年が指を鳴らすと、空間に亀裂が走り、「影」が驚愕したように揺らいだ。


干渉者ハッカー……!? なぜ、この座標に……』


「さあな。――俺のサーバーで勝手な真似はさせないぜ?」


不穏な影(運営システム) VS 謎の眼帯青年(ハッカー?)。 私のスローライフ計画は、ここに来てジャンルごとの変更を余儀なくされようとしていた。


「……あの、ここ、私の家の庭なんですけど?」


私の小さな抗議は、超次元バトル開幕の爆音にかき消された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ