《第2章 第1話 風と記憶の観測者》
【前半】
高層都市の観測塔。窓越しに広がる空は、桜色に染まった霞で包まれていた。
福田朋広は机に座り、手元の桜環端末を静かに操作する。
「……風の流れ、視覚化完了」
彼の声は低く、だが確かな確信を帯びていた。
桜風の残響が、共鳴層に向かって渦を描き始めている。
その波形は単なる物理現象ではなく、桜魂の“意志の軌跡”そのものだ。
端末のディスプレイ上に、ひよりの動きが可視化される。
風と桜花の残像が渦を巻き、桜環が発する微光が彼女の周囲に広がる。
朋広は指を動かし、波動解析と記録を同時に開始した。
——この瞬間、桜魂は単独の存在ではない。
すべての継承者の意志が、時間を超えてひとつの旋律として重なる。
「桜環……君は、すでにひとりで動いている」
朋広の目に映るのは、解析用データではなく、生きた魂の光。
彼はゆっくりと息を吐き、風の共鳴を手探りで受け止める。
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【後半】
桜環の輪が回転し、光が波紋のように広がる。
その中心に、微かな震え——ひよりの意志が直接投影される瞬間が現れた。
朋広は端末越しに心を重ね、彼女の思考の一端を“感じる”。
「なるほど……これが共鳴層か」
解析用のグラフには、過去の継承者たちの魂の痕跡も重なって表示される。
微細な波形の変化に、ひよりが桜風の残響を受け入れた瞬間が映し出される。
窓の外、空を渡る風が桜の花びらを舞わせる。
その風の流れに、朋広は気づく——
ひよりだけでなく、この世界の全ての魂が微かな波紋を共有していることを。
「——これで、未来の観測も可能になる」
彼は桜環端末にデータを記録し、さらなる解析の準備を整えた。
風と記憶が交わる場所に、観測者としての彼自身の意志もまた共鳴する。
そして、朋広の視線は遠く、桜風の彼方を見据えた。
——そこには、まだ見ぬ未来の継承者たちが待っている。




