26.水底
上空から見下ろす景色は何とも妙な感じがした。蓮が次々と八つ首の獣の頭部を切り落とす。オロチのメンバーも共に戦っていた。お願いだからもう争わないで欲しい。私がこの獣を呼んだのは争いを招く為ではない。
あの子はまたも私の目の前で体中の鱗を撒き散らし砕け散った。芽稲と日菜子も血塗れに弾けた。莉羽澄は私のせいだと言った。そう、私がいるせいで、私が何かを望むせいで、人々は傷つく。
莉羽澄は言ってくれた。誰も傷つけない世界へ連れて行ってくれると。だから、此の世と冥界を繋げた。大切な人の傷つく姿はもうたくさんだ。
私は昔の様に海底の奥で一人、静かにいたい。満たされた孤独の中で誰にも触れられる事なく。
————花梨————
何処からか名前を呼ぶ声が聞こえた気がする。きっと気のせいだろう。私に関わろうとする人間はいない。不幸になるだけだから。
蓮は化物の首を全て切り落とし、こちらを見つめていた。
————良かった————
心底そう思った。思わず口元がほころぶ。
だが次の瞬間、化物の胴体から蒸気が激しく噴き出した。離れた上空にいてもその熱が尋常ではない事が分かった。
————蓮は?
だが蒸気の消え去った後には、蓮の姿は無かった。
「何処なの……蓮……?」
まただ。また、私のせいで大切な人の命が失われてしまった。
まただ、まただ、まただっ————
いつだって私の望みは人の不幸を招く。
この世界は悲しみに溢れ過ぎている。
私は一人になりたい。
かつての様に、深い海の奥で。
お願いだから、そっとしておいて————
自分の発した声なのか、頭の中の声なのかが曖昧になる。
全てが水の底に沈めば、静かになるだろう。
先程から鳴り響く、莉羽澄のけたたましい笑い声と共に。
そう、沈んでしまえば良いのだ。
この悲しみに囚われた世界を水で洗い流そう。
消え行く意識の中で、銀の瞳を思い出していた————




