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23.狸の鏡

 

 光の柱が夜空へ立ち昇っていた。余りの眩しさに目が焼ける様な痛みを覚える。轟轟と音を立て、白銀の光の塊は星空へと去って行った。

「何が……起きたんだ……?」

 目の前には巨大な楕円の鏡を持った雅楽がいた。二メートル近くある雅楽の身長よりも大きなその鏡は、一筋のヒビが入ると粉々に砕け散った。

「その鏡が光を反射したのか……? でも、いったい何処から……」

 突如鏡から煙が噴き出し雅楽の姿もそれに飲まれた。風が吹き抜けると血塗れの颯太を抱き支えた雅楽の姿が現れた。

「大丈夫か、颯太?」

「……間……一髪だったね……」

「よくやった。お前のおかげで皆んな救われた」

 化け狸である颯太は一定時間その姿を変える事が出来る。あの状況で咄嗟に大鏡に姿を変え、積陰月霊大王の発した光を反射させたのだろう。

「実に……単純で明快な反応です。光は……鏡に反射する。しかし、その当たり前の事を、今までに実践した者はいませんでした。五郎左衛門、あなたの手駒は中々によく考えて集められた様ですね。よもや、狸一匹に……この深傷を負うとは」

 積陰月霊大王の上右半身は円を描く様に削り取られていた。首の根本から右胸、腰にかけて空洞が覗いていた。残された左半身、その左腕は弱々しく頭上に掲げられていた。そしえ先程までの男女混声は女性の声だけになっていた。

「……まあ良いでしょう。余興が思いの外に盛り上がっただけです。予定通り、八岐大蛇が顕現すればあなた達も終わりですから」

「月霊大王、それは叶わないよ。僕達が今夜、神野の首をとるからね。新月が昇る日に八岐大蛇が復活する事はない」

「ふふ。五郎左衛門、今夜がその新月なんですよ?」

「何を寝ぼけているんだい? 今夜はまだ下弦の月だ。ほら——」

 ゴローPが空を見上げる。確かにそこには半身を輝かせる下弦の月が浮かんでいた。だが、何か違和感を感じた。やがてそれは確信に変わった。

「月が、動いている……!?」

 ゆっくりだが西から東へと月が移動していた。同時に輝く部分が減り三日月へと変わっていく。

「月を動かしているのか!? まずい、奴を止めるんだっ!!」

 ゴローPの声と共にエヴァンとユウが飛び出す。エヴァンの鋭い爪が積陰月霊大王の髪飾をむしり取ると同時にユウの手刀が天に掲げられた腕を切り落とした。

「ふふ……月の移動はもう止められません。じきに新月が昇るでしょう。そして新たな世界が始まるのです。妖怪が支配する、新しい此の世が————」

 積陰月霊大王の頭が突然消え去った。首から上を失った胴体はそのまま地面へと崩れ落ちた。

「ったく、話がなげーんだよ」

 須磨毅がもぎ取った頭部を無造作に放り投げた。頭上には湾曲した禍々しい角。そしてその角に負けない程に凶暴な爪を生やした手が彼を希代の悪鬼、酒呑童子だと物語っていた。

「毅! 大丈夫なのか!?」

 雅楽が走り寄る。

「ああ。お前には使えない神通力で何とか体はくっつけた。しばらくは戦える。だが、少し血を流し過ぎた」

「ふん。減らず口を叩けるのなら問題無いな」

「皆んな、ゆっくりしている暇は無いよ。神野はこの近くにいる筈だ。冥界の扉が開く前に奴をしとめるんだ」

 ゴローPの言葉に一同の表情が引き締まる。貯水湖の方からは無数の雄叫びが遠く響いてきた。

「どうやら相手も動き出したようだ」

 大地を震動させ、暗闇の中から数えきれない鬼達が現れた。道路を埋め尽くしこちらに走り迫る。

「攻めてくるという事は、奴がいるという事だ。皆んな、貯水湖に向かってくれ」

 オロチのメンバーが鬼の群れに飛び込んでいく。

「蓮は花梨ちゃんを頼む」

 ゴローPに頷き走り出す。駐車場を出てショッピングモールを目指す。怒声と悲鳴を後にし夜道を駆け抜ける。月の消えた暗闇の世界で、目指す建物だけが煌々と輝いていた————






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