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21.闇夜の光


「おいっ! オムカル! もっと飛ばせないのか!?」

「事故を起こしたいのなら一人でどうぞ。私はあなたとこんなとこで死ぬ気は無いわよ」

「雅楽、落ち着け。目的の場所はここからそう遠く無い」

「蓮、お前よく平気でいられるな? 花梨ちゃんが今頃どうなっているのか心配じゃないのか!?」

「焦りは判断を鈍らせる。相手がどう動くかも分からないんだ。冷静さを失うな」

「畜生がっ!」


 ゴローPが到着するとミンジェは直ちに病院へと運ばれた。オロチのメンバーはオムカルと須磨の運転するワゴンにそれぞれ乗り込み戦闘準備に入った。

 怪異対策室が特定した八岐大蛇復活の場はこの街にある貯水湖だった。

 何百年も前から水害に悩まされていたこの地域で、半世紀程前に大規模な都市開発構想が立った。土壌の改良から始まり数十年をかけ区画整備を行い、数年前に貯水湖を中心とした人工都市が開かれた。新駅開設と共に大型ショッピングモールの誘致も行われ、完成当時は自然との調和をコンセプトとした未来型都市として大きな話題を呼んだ。

 そして今、その街の象徴とも言える湖で太古の魔獣が復活しようといている。更に花梨のGPS信号もそのショッピングモール内で最後に消息を絶っていたのだった。


「それで、神野達はその大きな湖を媒介として此の世と冥界を繋ごうとしているって事なのか?」

「その通りだ、蓮。水の或る処は境界となる。まして八岐大蛇の様な巨大な存在を召喚するのなら大量の水が必要になる。琵琶湖を始め全国の有数な湖やダムには目を光らせていたんだけど、まさかこんな街中でやるとは思わなかったんだ。盲点だったよ」

「それよりも当初は奇襲をかけるって話だったけど、こんなに派手に住民を避難させてたら相手にも俺達の動きがバレちまうんじゃないのか?」

 雅楽の言う通りだった。街は一瞬で戦時中の様な光景に変わった。湖から半径二十キロの地域に完全避難命令が下されたのだ。自衛隊の誘導の下、街中が一斉に避難を開始した。

「新月までまだ日にちがあると言っても、何が起きるか分からないからね。国民の命が最優先だよ。それに、神野達も逃げ出しはしないと思う」

「ふん。だと良いがな」

「でも、八岐大蛇の話なんて皆んな冗談にしか思わないんじゃないか? 住民にはなんと説明を?」

「彗星が落ちてくるって事にしたんだよ」

「彗星?」

 確かに大型の彗星が地球に接近していると数日前からニュースになっていた。だが軌道上、衝突はまず有り得ないと識者達が結論づけていた筈だ。

「避難の為の理由なんて何でも良いんだよ。それより蓮。花梨ちゃんのGPS信号が消えたのはショッピングモールの北東エリアだ。蓮にはそっちを任せても良いかな?」

「————それなら私も連れてって」

 後部座席でずっと押し黙っていた美桜が口を開いた。出発間際に自分も一緒に行くと言って暴れ出し、最終的にゴローPの判断で後部座席に押し込めたのだった。

「美桜……それは無理だ。危険過ぎる」

「私は大丈夫だから! 花梨が心配なんだよ!……あの子に、もし何かあったら私……」

「君、ついて来ても良いとは言ったけど、車からは絶対に出ない、それが約束だったよね?」

「でも車で待ってても意味がないじゃん!? あの子……明日が誕生日なんだよ……? なんで……なんで、こんな事になっちゃったのよ……」

 美桜の頬を涙がつたう。普段はあっけらかんとしている少女が見せた鎮痛な面持ちが何よりもその心情を物語っていた。

「……美桜。花梨は必ず俺が救い出す。だから、車で待っててくれ」

「……分かった……約束だからね。失敗したら頭の皿、カチ割ってやるから」

「ああ、分かった。任せてくれ」

「さて、そろそろ目的の場所に着くよ。目標は神野悪五郎の首。人間に仇なす悪鬼の悪行を今夜ここで終わらせよう————」

 ゴローPの言葉に皆の表情が引き締まる。先を走る須磨の運転するワゴンが右折した。あそこを曲がってしばらく行けば貯水湖に着く筈だ。車はその手前にある大型駐車場に停める手筈になっている。オムカルがハンドル切る。右手に駐車場があり須磨のワゴンが止まっていた。ドアがスライドしエヴァンがアスファルトへ飛び降りる。同時にワゴンが突如火を噴いた。

「———何っ!!!」

 炎に包まれたワゴン車が宙に舞い上がり地面に叩きつけられた。轟音と共に炎が夜の駐車場を赤く染める。

「エヴァンっ!!」

 雅楽と共に外へ飛び出す。須磨の運転する車にはエヴァンの他にユウと颯太も乗っていた。

「くっっ……」

「蓮! お前は無理するな! 炎に耐性が無いだろう!」

 雅楽の背に漆黒の翼が現れた。その巨大な羽が大きく扇ぐと炎は風の中へと消えた。

「大丈夫かっ!?」

 ワゴン車は座席から上半分が切断されていた。中を確認するが人影は無い。

「ったく、危ねーな。おいゴロー、がっつり待ち伏せされてんじゃねーかよ」

 暗闇から四つの人影が現れる。

「毅、だから君にそっちの車を任せたんだよ」

「ったくよぉ。んで、そろそろ姿を見せたらどうなんだ? いるんだろう?」

「————ほう、あの爆発から一瞬で逃げ出すとは、如何なる術を用いたのでしょうか? 中々興味深いですね」

 暗闇からの声。男と女、二人の人間が同時に喋る異様な声だった。

「誰だ、お前?」

 須磨の頭部から禍々しい角が現れる。周囲の空気が濁り腐臭が漂う。

「なるほど。あなたが悪五郎の言っていた酒呑(しゅてん)童子(どうじ)ですね? 神通力で時の尺を動かしたのですか。確かに並の鬼とは比較にならない力を持っている様ですね」

 闇より浮き出たのは紫の着物を纏った人物だった。羽織を含め身につけているものには金銀珠玉の見事な装飾が施されている。輝く長い白銀の髪は頭上で纏められ、微かに浮かべた笑みは高貴な佇まいだった。

「誰だか知らねーが、その名前で俺を呼ぶな。今は別の名があるんだよ」

「血塗られた過去を無かった事にし、人間の味方になったつもりですか? まあいいです。全員ここで死んでもらいますから」

「死ぬのはお前だろ?」

 歪んだ角が狂気の雄叫びを上げ突進する。だが紫の着物を纏った人物はその場から動く気配が無い。

「待て! 止まれ毅っ!!」

 ゴローPが車から飛び出す。次の瞬間、着物を着た人物の髪飾が眩しく発光し一瞬にして世界が白に包まれた。

「————おい、嘘だろ……?」

 雅楽の震える声がした。眩んだ目が状況を掴めずもどかしい。

「なんだ!? どうなったんだ!?」

 雅楽は応える代わりに呻き声を漏らした。

「皆んなその場を動かないで。想定していたシナリオの中でも、最も最悪な事態になってしまったみたいだ」

「久しいですね、五郎左衛門。会えて嬉しいですよ」

「僕は会いたく無かったけどね」

 視界に闇夜が戻る。着物の人物は先程と同じ場所に立っていた。そしてその目の前には真っ直ぐに伸びる巨大な亀裂が走っていた。それは駐車場を突き抜け隣接する雑木林の彼方まで続いていた。

「————須磨っ!!」

 亀裂の先端には、首から下を左右に裂かれた須磨の体があった。二つに分かれた胴体は血溜まり中で沈黙している。

「何が起きたんだ……? 雅楽、お前には見えたのか……?」

「少しだけな。奴の髪飾が光ったと思ったら、巨大な光が須磨に向かって放たれ地面が裂けたんだ」

「何者なんだアイツは!?」

「————積陰(せきいん)月霊大王(げつれいだいおう)。魔界十二柱の第三の柱にして月の光より生まれし邪の化身。光よりも早く動かない限り、奴の攻撃は避けられないよ」

「おいゴローP、魔界の柱って何だよ!? なんでそんな奴がここにいるんだよ?」

「雅楽、お喋りしている暇な無いみたいだ」

 ゴローPが言い終わらないうちに髪飾が光を帯び始めた。

「光より早く動けって!? どうすりゃ良いんだよ!?」

「来るよ————」

 再び世界が白に包まれて行く。だが、ただ身構える事しか出来ない自分がいた。焦る気持ちばかりが膨れ上がる。動け、動くんだ。まだこんなところで死ぬ訳にはいかない。花梨を助け出さなくては————






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